2010年My Space全盛期には世界各国の様々なジャンルのアーティストがページを持ち自らのバイオや音源や映像を発表していた。それまではひとりでコツコツ宅録してカセットやCDRで通販したり手売りしたりするしかなかったのがオンラインで全世界に発信できるようになったのだから大革命である。お気に入りのアーティストを見つけると、その友人やジャンル検索を辿って未知のアーティストと出会えてとてもエキサイティングだった。音楽以外にも画家や作家・詩人なども居ていろんな繋がりができて面白かった。日本のアーティストとも仲良くなり実際にライヴに行ったこともある。
個人的に深くのめり込んだのはノイズだった。ドイツのTo-Boというアーティストが「Industrial Noise Records」というレーベルを主宰してMy Spaceを通じて知り合った世界各国のノイズ・アーティストの音源を無料配信しており、欧米は勿論、東欧・ロシア・中近東・南米・アジアに”辺境ノイジシャン”が数多く存在することを知った。配信作品が100タイトルほどになった頃、To-Boは「Shit Noise Records」というCDRレーベルを興して1枚1ユーロで販売し始めた。それにも夢中になり50枚以上購入しただろうか。名前の通り”最低音楽=ノイズ"の中でも”糞雑音”という最下層の汚物音響の垂れ流し大会だった。それを通してNRYY氏やSOMA氏といった日本のノイジシャンと交流ができた。そのレーベルで特に気になったのがTorturing Nurseという中国のアーティストだった。21世紀に入って中国から数々のポップス/ロック・アーティストが登場してきた。ノイズ・アヴァンギャルド系に関しても雑誌「G-Modern」で特集されPSFレコードからオムニバス「Asian Flashback」や李剣鴻(リー・ジェンホン)などがCDリリースされ、徐々に情報が入ってきていた。しかしさらに人目に触れないアンダーグラウンドなシーンの情報はMy Spaceでしか知り得なかった。
Torturing Nurseの音は他の国のどんなノイズとも違っていた。”同時多発的轟音爆撃音塊”とでも形容しようか、一切のドラマ性やストーリー性を排除した破天荒極まるサウンドは80年代の非常階段やハナタラシを思わせる情け容赦ない暴力と狂気に満ち溢れていた。当時は映像どころか写真も殆どなく神秘のベールに隠された存在で還って想像力を掻き立てた。
My Spaceが1年も経たず力を失うとそういった”マイスペ・アーティスト”は一斉に姿を消してしまった。To-Boの連絡先も分からない。mixiやTwitterやFacebookで再開した人たちもいるが、My Space時代のある種音楽バブル的狂騒は失われてしまった。
自分の中のノイズ熱も冷めメルツバウ、ヘアスタ、非常階段、インキャパくらいしか聴かなくなった最近になって久々にTorturing Nurseの名前をFacebookで発見した。しかも中国の他のノイズ・アーティストと共に日本ツアーを行うという。2年間すっかり忘れていた友人と再会する気分だった。8/31大分を皮切りに福岡の「Against 2012: Fukuoka Extreme Music Festival」を含む全国8公演。東京でも4公演あり、UPLINK FACTORYの「中國極端音楽」というイベントに行くことにした。この日はWWWでメルツバウが、Bar IssheeでJOJO広重さんがライヴをやっており、渋谷はちょっとしたノイズ・ナイトであった。
UPLINKにはT.美川さんやASTRO=長谷川洋氏、他にもノイジシャンや熱心なノイズ・ファンが20人ほど集まった。女性の姿が意外に多い。中国アンダーグラウンドの現在を追ったドキュメンタリー映画『FUCK YOU /Fucking Noise In China Now』の上映、楽器についてのレクチャー、そしてアーティストによるライヴ…という盛り沢山な内容。
最初に映画「FUCK YOU」の上映。100分に亘るドキュメンタリーだが、字幕が英語のみで語りやインタビュー中心なので正直言って拷問に近かった。演奏シーン以外は爆睡。UPLINKだから映画を絡めるのはいいが、語りの大意のプリントを事前に配るなど観る人への配慮が欲しかった。おかげで背中が強ばって欠伸が止まらなくなってしまった。
休憩の後Mei ZhiYong氏によるレクチャー。テープレコーダーやエフェクターを改造した自作楽器の解説。機械いじりが好きで音が出るモノなら何でも分解してノイズ楽器に作り変えてしまうという。私も高校の頃テレコやステレオを分解して改造楽器を作ったものだ。その頃に比べて市販の楽器やエフェクターがかなり進化してノイズ機材も手に入り易くなった今でもZhiYong氏のように手作りに拘るというかそれが好きなアーティストには好感が湧く。
そのまま続けてライヴ演奏。まずは北京の3人組Mafeisan(from NOJIJI)。一人がギターで二人はエフェクター。ギターがノコギリのようなノイズを発する。映像をLaurent Valdes氏(from Switzerland)が担当。大音量で始まったのでそのまま行くかと思ったら静的な部分もあり粗野ながら比較的流れのあるノイズ演奏だった。20分。
続いてさっきレクチャーしたMei ZhiYong氏がピアノ、香港でライターとしても活躍するSin:Ned氏がスティック(キング・クリムゾンのトニー・レヴィンで有名なアレ)、そして上海のTorturing Nurse氏(以下T.N.)が登場。Torturing NurseはYouTubeで動画を観ると女性を含むバンド形態だが今回はリーダーのJunky氏単身の来日。テーブルにエフェクターをセットし終わるとどこかへ消える。客電が落ちると同時に後方から叫び声が上がる。顔にマスク(包帯?)を被ったT.N.氏が喚きながら客席の間を歩き回る。ステージでフリージャズ風のピアノとスティックの奏法を無視した爆音演奏が続く中T.N.氏の行為は次第にエスカレートし観客の目の前に顔を近づけて叫び声を浴びせる。酒臭い~。対抗して叫び返した。並んでいる椅子を投げ飛ばしエフェクターの机をひっくり返す。最前列に座っていた私を含む3人の観客をシールドでグルグル巻きにして引き摺り回す。生命の危険を感じる程ではないが久々に経験する暴力パフォーマンスに笑いが抑えられない。椅子席の会場だから観客は大人しくやられるママだったが、この後予定されているSoupやEarthdomといったライヴハウスだったら客がどう反応するか興味深い。非常階段のように暴動寸前になれば面白い。15分の演奏が終わると会場は椅子が散乱し嵐の後の光景だった。マスクを取ったT.N.氏は爽やかな好青年。「謝々」と握手した。
Torturing NurseのFBのウォールによると各地でこうしたパフォーマンスを展開しているらしい。各地で出会った日本のミュージシャンとの記念写真も掲載されていて楽しい。この日も美川さんや長谷川氏と談笑していた。彼が日本ツアー用に制作したCDRを購入。昔通りのアナーキー・ノイズが嬉しい。まだ東京で2ヶ所でのライヴがあるからT.N.を始めとする中國の大陸的ノイズ・ワールドを是非体験していただきたい。
ノイジシャン
初めて会っても
旧知の仲
中國極端音楽に関するSin:Ned=Dennis Wong氏のインタビュー記事はコチラ。とても判り易い解説が素晴らしい。