スーパー・デラックス十三周年
坂田明&ちかもらちセッションズ【灰野敬二】
灰野敬二(Guitar)
坂田明(Alto saxophone, Clarinet, Voice)
ダーリン・グレイ(Bass)
クリス・コルサーノ(Drums)
(写真の撮影・掲載については主催者の許可を得ています。以下同)
2011年に来日公演を観た坂田明&ちかもらちの4年ぶりの日本ツアーが開催中。前回の来日時にはジム・オルーク、メルツバウ(秋田昌美)、山下洋輔、八木美知依と共演したが、今回の来日ツアーは佐藤允彦、灰野敬二、田中泯、ジム・オルーク率いるオーケストラと共演する。それだけこのトリオの間口が広い証拠であり、ひとつの処に留まらないのが『Flying Bascket(すっ飛び篭)』の由縁である。
⇒【すっ飛びツアー】坂田明とちかもらち/ジム・オルーク/MERZBOW/佐藤允彦/灰野敬二/田中泯
灰野とクリス・コルサーノは数度共演経験があるというから、初顔合わせはダーリン・グレイだけ。しかし、四者揃い踏みの共演ならば、全く新しい体験になることは間違いない。それこそセッションの醍醐味であり、想いもよらぬサムシングが産まれる苗床である。
⇒Keiji Haino & Chris Corsano April 14, 2013 "The Sco" Oberlin OH
1st Setは灰野は椅子に座りクリアな音色で細かいフレーズを紡ぐ。坂田の美しいサックスの音色と共鳴して、会場の空気をガラスにひびを入れるように亀裂が広がっていく。グレイのベースとコルサーノのドラムの重低音爆撃が、ひび割れに細かな振動を与え、支えを失った天井が崩れ落ちる幻覚に苛まれる。
崩壊の危機を未然に防ぐのは坂田の流麗なクラリネットと、灰野のファルセットヴォイスであった。慈しみの心が溢れ出し、四面の壁に乱反射する木霊は、この場を共有する者にしか理解し得ないセッションの産み出した果実の収穫祭であり、実りの秋の夜長にこそ相応しい異形の海馬の嗎(いななき)であった。
そんな想いは当然後付けであって、ライヴが終わり六本木駅で地下鉄を待つとき筆者の頭に浮かんだのは、前回の来日時、ダーリン・グレイが筆者の着ていたハーレーダヴィッドソンのパーカーに反応したので、今回はハーレーTシャツを着て行ったのだが、気づいてもらえなかった、という一抹の淋しさであった。
とんでもなく
すっ飛んで
跳んでみよう
科学的に分析すると空気の振動に過ぎない音波ではあるが、人前で奏でられたとき、数人で同時演奏されたとき、独り寝の部屋で頭を抱えているとき、狂ったように只管鳴り止まぬとき、死の真際に終末のフレーズが吹き込まれたとき、旅路に果てに辿り着いた桃源郷で賛美歌を歌うとき、それぞれの場面で甘受される人間の聴覚と知覚の挟間に見え隠れする虹彩を心に刻み込みたい。