A Challenge To Fate

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【Disc Review】秋の夜長に聴き明かすNY即興演奏家ジョン・イラバゴンの分裂症的世界観。

2015年10月04日 00時33分10秒 | 素晴らしき変態音楽


ジョン・イラバゴンのリーダー作2作品『Behind the Sky』&『Inaction is An Action』



『Jon Irabagon / Behind the Sky』

Irabbagast Records (2015)

Tom Harrell (tp)
Jon Irabagon (ts)
Luis Perdomo (p)
Yasushi Nakamura (b)
Rudy Royston (ds)

1.One Wish
2.The Cost of Modern Living
3.Music Box Song (For When We're Apart)
4.Still Water
5.Obelisk
6.Sprites
7.Lost Ship At the Edge of the Sea
8.Mr. Dazzler
9.Eternal Springs
10.100 Summers
11.Behind the Sky (Hawks and Sparrows)

Recorded at the Samurai Hotel on 4/24/14 by David Stoller
Edited by Scott Anderson
Mixed and mastered by Colin Marston
Design by Bryan Murray
All compositions by Jon Irabagon, F Magellan Music (ASCAP)




『Jon Irabagon / Inaction is An Action』

Irabbagast Records (2015)

Jon Irabagon (ss)

1.Revvvv
2.Acrobat
3.What Have We Here
4.The Best Kind of Sad
5.Hang Out a Shingle
6.Ambiwinxtrous
7.Liquid Fire
8.Alps

Recorded in Chicago, IL, on 12/29/14 at the Lake View Presbyterian Church by Chris Cash
Mixed at the House of Cha Cha by Jon Irabagon and Ben Rubin
Mastered by Colin Marston
Design by Bryan Murray
Cover painting, Still Life with Sopranino, by Kyunghee Kim
All compositions by Jon Irabagon, F Magellan Music (ASCAP)



現実世界と異世界が交錯する即興演奏の陰と陽。

1978年シカゴ生まれ、現在はニューヨークを拠点に活動するサックス奏者ジョン・イラバゴンの演奏を初めて観たのは今年1月10日六本木スーパーデラックスだった。ノルウェーのノイズユニット「ジャズカマー」のメンバーのJohn Hegre(g)とNils Are Drønen(ds)によるハードコアノイズ演奏に激烈なフリークプレイで真っ向から応酬するイラバゴンの表情が、まったく平静そのものであることに不思議な感慨を覚えた。終演後物販コーナーでニューヨーク・シーンについて雑談したときのもの柔らかで落ち着いた語り口には、ミュージシャンというより学者か研究者に似た雰囲気を感じた。販売していたCDを「これが最新作か?」と尋ねたところ「そうだ」と言うので買い求めた。帰宅して確認したところ、最新どころか2010年のアルバムで、しかも内容は同じ曲のバージョン違いを12曲収録したもの。新作云々のやりとりについては、恐らくざわついた会場での聞き違えだと思うが、ビキニ女性の写真をあしらったCDジャケットと内容のギャップに、真面目だけれど掴みどころのない不可解な人物という印象が残った。

その時、年内にリリース予定、と語っていたリーダー作品が同時に2作リリースされた。先に届いたのが『Behind the Sky』と題されたクインテット作品。期待感に満ちてプレイボタンを押したのだが、流れてきたのはフォービートのモダンジャズ。一瞬CDを間違えたかと思ったが、間違いなくジョン・イラバゴンのCDである。トランペットにベテランのトム・ファレルを迎えて奏でる11曲はすべてイラバゴンのペンになる作品。何度か聴くうちに単なるフォービート・ジャズではなく、現代的な感性に満ちたコンテンポラリー・ジャズで、高度なテクニックに裏打ちされたイラバゴンやハレルのソロ・プレイが時にジャズのフォーマットを逸脱しそうになるスリルを感じることが出来る。それにしてもリリース記念ライヴをNYの名門ジャズクラブ「ジャズ・スタンダード」で開催するとは、ブルックリンの屋根裏からマンハッタンのセレブ街への転身か?

しかし思い起こすべきはイラバゴンが2008年セロニアス・モンク・サクソフォン・コンペティション優勝に輝く紛れも無いサラブレッドだという事実である。前衛ジャズやフリー・インプロヴィゼーションに限定されることなく、ストレート・アヘッド・ジャズで活躍する可能性も大いにある。イラバゴンがレギュラー・メンバーとして参加する「モーストリー・アザー・ピープル・ドゥ・ザ・キリング(MOPDtK)」にしても、希代の変態コンボと呼ばれる一方で、基本となるスタンダードやモダンジャズを解体し逸脱していく方法論の現出が本質にある。「空の向こう側」というタイトルには、輝かしい大空の裏側にある異世界への誘(いざな)いという意味があるのかもしれない。

そう考えると同時発売のソプラノ・サックス・ソロ・アルバム『Inaction is An Action』は、逆に異世界の住人から現世人へのラヴレターと言えるだろう。最初の一音から想像もつかない唸り、軋み、喘ぎ、抉り、捻りだらけの音響が否応無しに放出される。収録トラックの半分がそのような未確認飛沫音響。かろうじてサックス、というより管楽器の一種と判別のつく残りのトラックも、メロディ認識可能なのは更にその半分、あとはピーピーひゅーひゅーガーガーという、例えば壊れた水道管の中を下水が通り抜ける時の音、に終始する。かつて考察した通り、おおよそNY即興シーンの器楽演奏家がソロ作品を制作する際の関心は、自分の楽器から幾通りの方法で、幾通りの音を出すことが可能か、という知的好奇心が最大の動機である。イラバゴンにとって初のソロ作品である今作にも、そんな自己探索欲求が渦まいていることは間違いない。しかし「無行動こそが行動である」というガンジーの非暴力主義を思わせるタイトル(恐らく何かのの引用だろう)は、アクション・ペイティングさながらの本作の制作意図が、無為自然という老子の思想に帰依することを示唆しているのかもしれない。

すなわち、ジョン・イラバゴンの宇宙(コスモス)のバランスは、この対照的な陰陽二作品にドキュメントされているのである。

イラバゴンの充実ぶりは同時期にリリースされたMOPDtK:ロン・スタビンスキー(p)、ケヴィン・シェイ(ds)、ジョン・イラバゴン(as)、モッパ・エリオット(b)の8thアルバム『Mauch Chunk』と、名ドラマー、バリー・アルトシュル率いるBARRY ALTSCHUL’S 3DOM FACTOR :バリー・アルトシュル(ds, perc)、ジョン・イラバゴン(ts, ss, fl etc.)、ジョー・フォンダ(b)の2ndアルバム『Tales of the Unforeseen』(TUM CD 044)にも明らかである。

イラバゴン
茨の道を
威張り往く

Jon Irabagon Quartet - Arts For Arts / Evolving Music, NYC - April 21 2014




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