A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【中国前衛音楽見聞録】音と国の端境に生きる先鋭楽隊~IZ Band/马木尔/张东

2016年05月23日 02時04分30秒 | 素晴らしき変態音楽


中国深センの『明天音乐节 Tomorrow Festival』の最終日の即興セッション<明天即兴 Tomorrow Improvisation Unit>には地元中国から李剑鸿(リー・ジェンホン)、马木尔(マーマー),张东(ツァン・ドン)の3名のミュージシャンが参加した。ギタリストのリー・ジェンホンは、PSFから『D!O!D!O!D!』『山海経』の2枚のCDがリリースされ、日本に紹介されている。石をピック代わりに弾く硬質なインプロヴィゼーションは日本のノイズ/インプロシーンに衝撃を与えた。



他の二人、マーマーとツァン・ドンに関しては日本では全く知られていないに違いない。セッションでは、マーマーはベースをエフェクターを通して多種多様な電子ノイズを発生させ、ツァン・ドンはプロパンガスのタンクを二つ並べてメタルパーカッションとして演奏した。一回限りのジャムセッションとはいえ、一癖ありそうな頑固な演奏スタイルには、未知の国の隠された地下音楽水脈の迸りを感じさせた。
灰野敬二/明天即興@中国 深センTOMORROW FESTIVAL 2016.5.15 (sun)





二人はウイグルの草原地帯の同じ街の出身で、現在二人を中心に5つのバンドをやっているという。マーマーは2002年に北京を拠点に活動し、2008年に英国のReal Worldレーベルからアルバム『Eagle』がリリースされ、国際的な評価を得た。「ドンブラ」という中国伝統の二弦楽器の名手としても知られ、現代中国を代表するミュージシャンである。ツァン・ドンはマーマーとの演奏活動に加え、故郷の街でライヴハウスを経営しているが、他の都市から遠方にあり、地元のバンドの数も少ないので、ライヴは多くて週に2回しかできないらしい。

Mamer - Mountain Wind


Tomorrow Festivalの企画者が経営するブックストアで彼らのCDを入手した。中国では自主制作CDやレコードは大手CDショップでは手に入らない。もっぱら先進的な書店やカフェに併設されたCDコーナーで現物を見て購入するのが唯一の方法だ。日本での入手は困難だと思われる彼らの自主制作CDを紹介しよう。


『IZ / 2007』 (2007)
マウスハープの即興演奏で幕を開け、民族楽器のアンサンブルのアコースティック演奏に、呪術的なユニゾンのヴォーカルが聴ける。エスニックではあるが、ワールドミュージック的なヒーリング感とは無縁の邪教の音楽。


『IZ / Kelengke 影子 SHADOW』(2010)
風刺画風のイラストのジャケットから想像がつくように、ポップな色彩感覚を発揮した作品。東ヨーロッパの地下プログレッシヴロック、特にチェコスロバキアのPlastic People Of The Universeに近い怨念じみた歌を聴かせる。個人的にこのCDが最も気に入った。


『IZ / Jangqerek 廻声 Echo』(2013)
前作のカラフルなプログレ色が再び暗黒に回帰し、80年代インダストリアルミュージックに接近。黄泉の国から地響きが聴こえ、チベットの仏教僧の読経に似たディープな低音ヴォイスが魂を誘う。ライバッハ LAIBACH、テストデプト Test Dept.、カレント93 Current 93などを思わせるが、得体の知れない邪悪さに、息をするのも困難になる。


『MAMER 马木尔 / Sky 星空 Kengistik』 (2012)
マーマーによるドンブラ・ソロCD。即興を含む新楽曲を12曲収録。伝統楽器ではあるが、古さ/堅苦しさ/懐古趣味とは無縁の自由度を求めた結果、「癒し」とは異なる聴き手の頭脳改革効果を実現した。

Mamer and IZ - Kazakh/Chinese industrial folk band


「辺境」というバランスを欠いた名称は唾棄すべきだが、我らには「未到達」の中国少数民族にとって<音楽>とは、日常と精神の端境を行き来するマジックカーペットなのかもしれない。

個人的
願いは神に
告ること

▼お土産にもらったジャズフェス茶

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