A Challenge To Fate

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【100フォークスのススメ】第5回:風待ち草のチルアウトフォーキー〜ふきのとう

2019年08月15日 09時22分21秒 | こんな音楽も聴くんです


遅過ぎたフォーク再評価の中で、前回取り上げたN.S.Pと並んで筆者が推しているのが北海道出身のふきのとうという二人組である。出会いは1年4ヶ月前、渋谷HMV Record Shopの100円コーナーで目に留まった『風来坊』というLPだった。何もない草原の真ん中に立つ白い枯れ木の枝にラジカセを置いてヘッドフォンで何かを聴くパーマヘアーと、ジャンパーを脱ごうと(いや着ようと)している長髪の青年ふたり。地平線の先は海だろうか。タイトル通り風来坊のように、ラジカセ一台持って日本中を旅しているのかもしれない。カセットテープには風の音しか録音されていないに違いない。風と共に現れ、風と共に去りぬ。「水色の木もれ陽」「白い霧」「銀杏の木」「それぞれの幸せ灯る頃」「雨はやさしいオルゴール」「夜」。。タイトルだけで景色が目に浮かぶ詩情主義。封入されたポスターには背の高い白樺の木となだらかな丘陵が波打つ壮大な大地に立つちっぽけな二人のポートレート。嗚呼、壮大な大地に比べて、人間とはなんて些細で無力な存在であろうか。風が吹けば飛ぶ砂塵のような人生は、悠久の宇宙に比べるとほんの一瞬だけの命しかないが、それでも一寸の虫にも五分の魂。五分のソウルを5分のフォークソングで歌いましょう。風に吹かれて歌声は、地平線の果てまで届くと信じている。そんな決意が二人の今ひとつ冴えない表情から読み取れるだろうか。



一緒に旅をしているからといって二人の関係は義兄弟でもホモセクシャルでもない。ルパン三世と次元大介のような同志もしくは仕事上のパートナーのイーブンな関係。契約書は必要はない。離れたければ離れ、恊働したければ共に戦う。どちらが欠けても他方は自分で生き残る。しかし一緒にいるからにはお互いの為に全力で使命を全うする意志が溢れている。3年後、5年後がどうなっているかは分からないが、俺たちに明日はないという自暴自棄な気持ちは全くない。夢がなければ作り出せばいい。二人でダメなら一人で考えればいい。目先の損得を考えることなしに本音で語り合えば、時がふたりを分つまで少しだけ理解した気持ちになれるだろう。それを悟ってしまったから二人の表情が冴えないのかもしれない。しかしそれは地獄ではない。かといって天国でもない。春になる前に地面から芽を出すふきのとうは、風を待ちながら陽の光に嫉妬する。呪詛の言葉が愛の歌に聴こえることもある。運命の柵や楔を引き抜いて船に乗せて北国の海の沖へ流してしまおう。歌を聴く時僕はいつも地平線を想像する。その先に何があるのか、風来坊の行方を見極めたい。それまで旅は終わらない筈だから。

ふきのとう/白い霧 (1977年)


音を聴く前に1枚のジャケットだけでこれほどの妄想を抱けるとはまるで夢みがちなティーンエイジャーのようだが、このアルバムが発売された1977年に中学3年生だった筆者は同年リリースされたザ・クラッシュのデビュー・アルバム『白い暴動』のジャケットを眺めながらイギリスの経済・人種問題、天皇制を含む日本の政治問題、そして自分の生きる先にある筈の革命について夜な夜な夢想していた。その時ザ・クラッシュでなくふきのとうと出会っていたなら、髪の毛を切ることも、Tシャツを破くことも、白衣に赤いペンキでTERRORISTとペイントすることもなく、ラジカセを担いで日本一周の旅に出発していたかもしれない。

風来坊 ふきのとう


1972年に北海学園大学にて山木康世と細坪基佳によりふきのとうの前身グループが結成された。山木は 1950年10月22日生まれ、細坪は1952年10月26日生まれ。ザ・クラッシュのジョー・ストラマーは1952年8月21日生まれだからほぼ同世代である。1974年「白い冬」でデビュー。数々のヒットで1970年代のフォーク/ニューミュージックブームの牽引役となった。1987年最初で最後の日本武道館コンサート「緑輝く日々」を行い、1万人を動員。その頃から二人の関係に亀裂が入りはじめ、1992年に解散。その後一度も再結成されていない。

流星ワルツ ふきのとう



抒情派フォークの一方の騎手N.S.Pは青春をテーマにポジティヴィティを拡散したが、ふきのとうのテーマは大自然の中の二人の関係と言っていいだろう。先に考察したように運命の悪戯ではなく、独立した二人の魂の恊働と離別が穏やかな歌声で綴られるサウンドインスタレーションは、聴き手の心をトランキライザーのように沈静化し、大宇宙の中に漂う孤独な魂の淋しさを五分間だけ忘れさせるチルアウト・ミュージックなのである。

春の雨/ふきのとう


しかしながら70年代にリリースされたベスト盤のジャケットが黒一色に統一されていた事実は、実はヴェルヴェット・アンダーグラウンドや阿部薫、さらには不失者といった地下の住人へのシンパシーを持っていたのかと錯覚させる。ふきのとうの歌の中に中に黒く色どられている処があったらすぐ電話をしてほしいものである。



白い冬
革命夢みて
春の雨

コメント (2)
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