テレビの歌謡曲やアニメ主題歌は好きだったが特別音楽好きではなかった筆者がレコード蒐集を始めたキッカケは、小学校高学年だった1974年頃、母親がポータブルレコードプレイヤーを買ってくれたことだった。電蓄と呼ばれるプラスチック製の安物だったが、スピーカーが二個付いていて初めてステレオ効果を実感した。その時一緒に金沢市片町のレコード店山蓄で買ったシングル盤が映画『アラン・ドロンのゾロ』の主題歌。とりわけ映画好きでもなかったが、アラン・ドロンは有名だったし、歌謡曲よりもお洒落で憧れていたのだろう。イタリア語の陽気なテーマ曲は日本のウェットな歌謡曲にはないハイカラなお洒落感があった。その後暫くは映画音楽、特に西部劇のテーマ曲のシングル盤を集めることに専念した。特に好きだったのは『続・夕陽のガンマン』。アワアワワ〜というコーラスも面白いが、エレキギターの乾いた音色がカッコ良かった。
「続・夕陽のガンマン The Good, the Bad and the Ugly」サウンド・トラック Sound・Track
1975年に中学に進学して洋楽ポップスに目覚め、ジョン・デンバーに憧れてマーチンの12弦フォークギターを買おうと思っていた筆者が、やっぱりエレキギターが欲しい!と思いはじめたキッカケはベンチャーズだった。ラジオで聴いた「10番街の殺人」「ウォーク・ドント・ラン」「ダイヤモンドヘッド」などの電気加工されたギターサウンドは、未来の音楽のように聴こえて、スピード感あるビートに心をときめかせた。エルヴィス・プレスリーやビートルズも悪くなかったが、エレキギターが主役のベンチャーズには叶わなかった。当時販売されていた日本製モズライトギターのカタログを眺めていた。だがその後、76年にKISSやエアロスミス、ジョニー・ウィンターといったアメリカンロック、77年にパンクロックに痺れてヴォーカル入のロックバンドに興味が移ったのでベンチャーズのようなインストゥルメンタルを聴くことは少なくなった。ちなみに最初に買ったエレキギターはジョニー・ウィンターに憧れてグレコのファイアーバード・モデルだった。
The Ventures (1966)
しかしながら80年代から細々とはじめたサイケレコード蒐集の中で筆者のギター初期衝動のエレキインストとの出会いが増えて来た。そのひとつがデイヴィ・アラン&ジ・アロウズ Davie Allan & The Arrowsをはじめとするバイク映画サントラのファズギターである。映画のサントラ用に集められた無名のミュージシャンによる歌も顔も名前もないインスト曲は、十代の暴動を描いたセックス・ドラッグス&ヴァイオレント映画に相応しかった。さらにB級サイケの奥の細道に入り込んだ筆者は、他にも匿名プロジェクトによるエレキインストが多数存在することを知ったのである。大震災で歪んだままのレコード棚から歌も顔も名前もないサイケ企画盤を引っ張り出して聴きながら夏休みを過ごしている。
⇒【私のB級サイケ蒐集癖】第8夜<バイク映画のファズギター>デイヴィ・アラン&ジ・アローズ
●The Animated Egg / The Animated Egg
Alshire – S-5104 / 1968
“卵が先かニワトリが先か、という昔からの質問に答えはない。しかしここにアニメイテッド・エッグが登場した。才能豊かな「ニュー・サウンド」のミュージシャンによるエキサイティングなアシッドロックのメッセージ”(ライナーノーツ翻訳)
どう見てもジャケット写真のメキシコ系の男女グループが演奏しているとは思えないファズやエフェクト全開のサイケギターによるラリったサーフロックが秀逸な1枚。メンバー名も作曲者名も書かれていない。リリース元のAlshireレーベルは廉価盤専門レーベルで、イージーリス二ングの101ストリングスをはじめとするファミリー層向けのレコードを多数リリースしている。そんな中に時代の悪戯で紛れ込んだこのアルバムは、西海岸のセッション・ギタリスト、ジェリー・コール Jerry Coleを中心としたスタジオ・セッションの作品である。コールの記憶によると他の参加ミュージシャンは、 エドガー・ラマー Edgar Lamarとドン・デクスター Don Dexterがドラム、とミー・リー Tommy Leeとグレン・キャス Glenn Cassがベース、ビリー・ジョー・ヘイスティングズプレストン Billy Joe Hastingsとノーマン・キャス Norm Cassがギター、ビリー・プレストン Billy Prestonがオルガン。ジェリー・コールの同じセッションは他にも様々なグループ名を冠した「サイケ企画盤 psychsploitation」がリリースされており、それらを集めたコンピレーション『The Animated Egg / Guitar Freakout』が2008年にSundazedからリリースされている。
THE ANIMATED EGG - A Love Built On Sand
●The Underground Set / The Underground Set
Pantonic – PAN 6302 / 1970
ファズギターと共にハモンドオルガンが大幅にフィーチャーされ、プログレ/ハードロック風味の強いサイケポップを聴かせる。イギリスのバンドだと思われがちだが、イタリアのプログレッシヴロックバンド、ヌーヴァ・イデア Nuova Ideaが契約上の理由で変名で制作したプロジェクトである。この1stのあとに2ndアルバム『War In The Night Before』(71)をリリースした。また、ザ・サイケグラウンド・グループ The Psycheground Groupという変名で『Psychedelic And Underground Music』(71)というアルバムもリリースしている。プロデュースはヌーヴァ・イデアの他にレ・オルメを手がけるジャン・ピエロ・レヴァルベリ Gian Piero Reverberi。イタリアらしいモンドなグルーヴナンバーやスキャット風のコーラスはサイケに限定されない60年代ヨーロピアンポップの魅力を伝える。
ヌーヴァ・イデアは1969 – 1973の間に3枚のアルバムをリリースし解散。メンバーの何人かはニュー・トロルスに参加。日本での知名度は低いが、オルガン中心のシンフォニック・ロックの完成度は高く、ニュー・トロルスやオザンナに引けは取らない。現在はドラマーのパオロ・シアー二 Paolo Sianiをメインに再結成され活動中。
Underground Set - 1970 The Underground Set - 10 7' meridiano
エレキギター
弾けば電気が
ビリビリだ