Red Bull Music Academy
レッドブル・ミュージック・アカデミー(以下 RBMA)は若く才能溢れるアーティストたちを支援する世界を旅する音楽学校である。1998 年のスタート以来、ベルリン、ケープタウン、メルボルン、バルセロナ、ローマ、サン・パウロ、ロンドン、ニューヨークなど世界各地でフェスティバル、ワークショップ、レクチャー等を開催。前衛的かつ創造意欲に溢れるクリエイターたちのプラットフォームとなる機関・団体として、世界中にネットワークを広げ、その存在を築いてきた。
16 回目を迎える今年は2014 年10 月12 日(日)~11 月14 日(金)まで東京で初開催決定。
⇒Red Bull Music Academy Japan公式サイト
Wails to Whispers
ノイズと静寂、それは対極の概念。しかしそれらは最終的には大きく異なるものではない。Red Bull Music Academyによる「Wails to Whispers」は、この両極を極限まで追求するアーティストたちと共に、その概念を深く探る。前半の部は「嘆きの音(Wails)」がテーマ。進化し続けている灰野敬二の不失者 (Haino Keiji Trio) を筆頭に、疾走感あふれるオリジナリティでワールドワイドに活動している、Melt-Banana、そしてジャパノイズのベテラン、暴力温泉芸者とMasonnaが、SuperDeluxeのサウンドシステムにプレッシャーを与える。深夜の後半部は、「ささやき(Whispers)」が主題となり参加者は寝袋を持参。そして灰野敬二が弦楽器、HURDY GURDY(ハーディーガーディー)を用いてパフォーマンスを披露。
WAILS: OPEN 19:30, START 20:00-24:00
WHISPERS: 24:00-05:00
出 演:
WAILS:
不失者 (Haino Keiji Trio)
暴力温泉芸者
Masonna
Melt-Banana
MMMOOONNNOOO
WHISPERS:
Robert Rich
灰野敬二 with Hurdy Gurdy
出演ラインナップを見て、おおーっと驚愕して即前売を申し込んだはいいが、趣旨をイマイチ理解しておらず、開演時間を確認する為に開いたスーデラのHPに「寝袋持参」とさりげなく書いてあるのを発見し、頭にでっかいクエスチョンマークが浮かんだ。最近夜が苦手で、深夜を過ぎるとすぐ寝落ちしてしまうので、「真夜中のヘヴィロック」などオールナイトのライヴは避けているのだが、灰野敬二のハーディーガーディーを夜通し聴いてみたいと思い行く決心をした。しかし寝袋など当然持っておらず、手を尽くすも調達出来ず。主催者にツイッターで確認したところ、畳があるので寝袋はなくても参加可能との応えに安心し、枕と毛布持参で参戦。
ツイート通りスーデラの床一面に畳が敷いてあり、まるで道場か修行所のよう。国際的な企画イベントだから外国人客が三分の一を占め、震災前のギロッポンを思わせるコスモポリタンな雰囲気。ステージ間近の畳の上に座り込み開演を待つ。
●MMMOOONNNOOO
20時になると、前触れもなくライヴがスタート。MMMOOONNNOOOはポルトガル人ラップトップ奏者Daniel Nevesのソロプロジェクト。エレクトロノイズ演奏は悪くないが、畳に座ってステージを見上げるのは思いの外辛く、身体の節々が痛み集中出来ない。周りの観客も同じようで、モゾモゾ身体を動かしている。30分余りの演奏が終わるとすぐに立上がり、後ろの方へ移動する。休憩時間中も続々と来場者が入ってくる。
●Masonna
主催者からWAILSではスタンディングでライヴを観るようアナウンスがあり、観客が立上がる。壁に貼ってあるタイムスケジュールによるとマゾンナの持ち時間はセッティング込みで15分。恐らく3分もないであろう瞬間芸パフォーマンスを見逃すまいと前方に押し寄せる。ステージが丸見えなので山崎マゾが暴れ易いようにマイクの高さやアンプの位置を調整する様子が興味深い。セッティングが済み照明が暗くなるといきなりマゾがステージに駆け出して、マイクスタンドを掴んでシャウトする...が音が出ない。いきなり過ぎてPAの操作が間に合わなかった模様。すぐに音が出て、マゾがエフェクターを踏みノイズが炸裂する。音量が小さい気がするが、構わずステージを駆け回りステージに倒れ込み客席にダイヴしたり、嵐のようなパフォーマンスは一瞬で終了。久々に熱狂した3分間だった。
●暴力温泉芸者
(C) Yusaku Aoki / Red Bull Content Pool
イベント告知ページで「暴力温泉芸者」の名前を見たときは、更にでっかいクエスチョンマークが頭に浮かんだ。入口で中原昌也と会ったので理由を聞いたら、主催者からの要望とのこと。海外ではHair StylisticsよりもViolent Onsen Geishaの名前の方が知られているからだろう。中原も余り拘りはないようで、今回だけOKしたそうだ。それよりも壊れたiPhoneを買い替えた出費が気になる様子。一時期デジタル化したが現在はEMSシンセサイザーと多数のエフェクターによるアナログ機材に戻った演奏は、昔の名前で出ているからでもないだろうが、近年稀に見る密度の濃いパフォーンス。忙しく動き回りツマミを操作し、トレードマークのシャウトもキマる。場面転換の多いスタイルは、ノイズと呼ぶよりコラージュ/ミュージックコンクレートと呼ぶ方が相応しい。これほどストーリー性豊かな電子音楽を作れるアーティストは他には思いつかない。
⇒ヘア・スタイリスティックス(中原昌也)インタビュー
●Melt-Banana
(C) Yusaku Aoki / Red Bull Content Pool
メルトバナナも海外での人気が高い。セッティング時から前方に外人客が増えて行く。ココからはバンドタイムと思い、楽しみにセッティングの様子を眺めていたが、いつまで経ってもドラムを準備する様子がない。下手にPCがセットされているのでもしやと思ったら、やはりヴォーカルとギターの二人組になっていた。Yakoが手にしたカラフルな光を発するMIDIコントローラーでプリセット・ドラムを操りながら、トレードマークの高音シャウトを聴かせる。コントローラーを振るアクションと音が同期しているので、気合いが直に伝わり、視覚的にもスリリング極まりない。Agataのギターもバンドの時と寸分変わらずアグレッシヴ。ドラムやベースがいなくても十分生身のロケンローとして成り立っている。デジロックなんかじゃない。外人客に交じって激しいモッシュに参戦。サイコーに気持ちいい。後で聞いたら、筆者が最後に見たI'LL BE YOUR MIRRORの直後にリズムセクションが抜け、二人組で活動しているとのこと。20年以上活動している歴史を感じさせない若々しいYakoの美貌が魅力的。やはりバンド女子推しに戻りそう。
●不失者
(不失者と灰野敬二の写真撮影・掲載については主催者の許可を得ています)
事前にツイッターでリークされた情報によると、出演メンバーは現不失者の亀川千代とKiyasuではないらしい。メンバーチェンジか、と思い覚悟していた通り、ステージに現れたのはスキンヘッドのべーシストと全身タトゥー&金髪ショートヘアのドラマー。髪を後ろ結んだ灰野が合図すると、ドラムが激しいハードコア・ビートを叩き出し、フレットレス・ベースが激しいアクションで唸りを上げる。灰野も初っ端から爆音でギターを掻きむしる。三つ巴のバトルがクラスター化したノイズコア演奏が30分間続く激烈なステージ。2度程言葉を叫んだのみでほぼインスト演奏だった。余りに激しく強靭な演奏に、オーディエンスはメルトバナナを凌ぐ程の興奮状態。聴力が麻痺し目眩がするほど幻惑された。ベースは広瀬淳二(sax)等と共演する望月芳哲、ドラムは元G.I.S.M/現BLASTRTOのIronfist辰嶋。フライヤーでは不失者と告知されたが、タイムスケジュールにはカッコつきでHaino Keiji Trioと記載されており、終演後の関係者のツイートでは灰野敬二ユニットとなっている。この布陣が新しい不失者という訳ではない模様。
灰野敬二トリオの余りに壮絶な演奏に気圧されたのかアンコールの拍手もなく第一部「WAILS」は終了。第二部「WHISPERS」の参加者だけが会場に残る。3分の1くらいに減り、畳に座ってちょうど良い人数。女子の参加者が意外に多いが、男女共にぼっち参戦者が多く、奇妙な静けさが漂う。何となく気詰まりで、近くの客に話しかけたがイマイチ会話が弾まない。照明が暗くなり、壁面に蛍光ペンで書いた図絵がブラックライトで浮かび上がり、極北のオーロラのような雰囲気。そのうち皆が自然に畳の上に横になる。20年前に行った西麻布のクラブでソファーやクッションに横になってアンビエントミュージックを聴いたことを思い出す。
●灰野敬二 with Hurdy Gurdy
予定時間を30分程過ぎて午前1時近くなって灰野がハーディーガーディーを持ってステージに登場。鈴かな音でドローン音を奏でる。初めは座り込んで聴いていたが、そのうち身を横たえ毛布に包まる。目を閉じて聴いていると、仄かなリバーヴの中に微細な音色が絡み合い、身体が浮き上がるような不思議な心地になる。半分眠った意識の中で、自分ひとり宇宙に漂うような孤独感を感じた。いつものように耳障りな軋音を発することなく、ハーディーガーディーはやさしい旋律で終わりを告げた。
⇒A Guide To Keiji Haino(英語・近日翻訳予定)
●Robert Rich
(C) Yusaku Aoki / Red Bull Content Pool
灰野が終了すると照明が一段と暗くなり、カリフォルニアのアンビエント音楽家Robert Richが現れる。80年代から眠りの音楽を研究している睡眠ミュージックの専門家。朝の5時までシンセサイザーを中心に演奏するので横になってリラックスして心を開いて音に身を任して下さい、といった趣旨説明に続いて、静かな電子音楽が流れ出す。クラウス・シュルツェを思わせるが、シュルツェの精神主義とは異なり、特定の思想や感情のない音楽。目を閉じて聴いていると、灰野のような浮遊感ではなく、畳の上に横になった自分の身体の重みを感じるような気がする。そのまま畳に同化してゆきそうだ。つらつらと考えるうちに眠りに落ち、目が覚めた時には、ロバートが演奏終了後のスピーチをしていた。
(C) Yusaku Aoki / Red Bull Content Pool
午前5時過ぎ。観客は三々五々帰宅の途につく。早朝の六本木は夜通し飲んだサラリーマンや深夜業務明けらしき若い男女で思いの外ザワザワしていた。ノイズと静寂・・・両方を楽しみ、一夜を大勢の人と過ごした体験はなかなか面白かった。中原や灰野の今後の活動も楽しみ。メルトバナナも近いうちにまた観に行くとしよう。
オールナイト
寝床があれば
OKよ
▼アイアンフィスト
[11/6 11:03追加]