渡良瀬遊水池。そこでは「ラムサール条約で未来につなぐ湿地の自然」をうたったパンフレットを配布している。そこには、
「栃木・茨城・群馬・埼玉の4県4市2町にまたがる渡良瀬遊水池は、本州以南では最大のヨシ原を擁する低層湿原で、トネハナヤスリをはじめ植物の絶滅危惧種の宝庫です。夏の終わりには南の国に戻るツバメが10万羽以上も集結し、チョウヒをはじめとするワシタカ類の越冬地としては日本最大級」
とある。
遊水池のなかを歩いて行くと、確かに様々な鳥のさえずりが聞こえてくる。鳥にとって、この地域は最適の生活の場のようだ。広がる葦の群生、そしてところどころに樹木がたたずむ。鳥は、この広い時空を思う存分自由に飛び回る。
自然の宝庫。
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しかし、ボクたちは、そのなかに、少し小高いところを発見する。
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そこは、人びとの生活が営まれていたところだ。小高い丘には、そこで生きていた人びとの蔵や船が置かれていた。上流から肥沃な土壌を含んだ水が大挙して押し寄せる。洪水だ。渡良瀬川は、洪水を起こすことで、この地域の人びとの豊かな生活をつくっていた。米や食料を、この丘に備蓄し、洪水の際は船で行き来した。
渡良瀬川の洪水は、決して人びとの生活を破壊するものではなかった。むしろ、生活を支えるものであった。
ところが、古河鉱業が足尾銅山を経営する頃から、大量の鉱毒を渡良瀬川は運ぶようになった。いや別に、渡良瀬川が悪いのではない。悠久の昔から、渡良瀬川は肥沃な土壌を運んでいただけだ。古河鉱業が、そこに鉱毒を混ぜたのだ。天の恵みでもあった渡良瀬川の洪水は、人びとの生活や生態系を破壊する凶器となって襲いかかった。
政府は、破壊者たる古河鉱業を支えた。政府というのは、いつの時代も、破壊者の擁護にまわる。
田中正造。彼はその現実を見すてておくことはできなかった。破壊者たる古河鉱業を支え、被害者をかえりみない政府の理不尽に鋭い批判を行った。だが政府は、破壊された人びとの生活を、さらに根底から破壊する施策を行ったのだ。
谷中村の住民を追い払って、そこに遊水池をつくった。
渡良瀬遊水池は、自然の宝庫だ。だが、豊かな自然に覆われた遊水池の土の下には、過去が閉じ込められている。ボクたちはその過去を閉じ込めている覆いをはがさなければならない。
田中正造は、今から100年前、佐野市の庭田家で息を引き取った。しかし彼は、本当は谷中村で死にたかった。谷中村には延命院、その隣には雷電神社がある。そこを終焉の地にしたかった。
今、そこに雷電神社はない。しかし神社があったところには小高い丘と、そこに登る階段があった。正造の魂は、この丘に登って遊水池を眺めているのだろうか。
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過去を覆い隠そうとする勢力は、今も、全国各地で暗躍している。だが、遊水池に点在する小高い丘は、彼らの所業をあばいている。ボクたちは、そういった過去を汲む努力を続けなければならない。
「栃木・茨城・群馬・埼玉の4県4市2町にまたがる渡良瀬遊水池は、本州以南では最大のヨシ原を擁する低層湿原で、トネハナヤスリをはじめ植物の絶滅危惧種の宝庫です。夏の終わりには南の国に戻るツバメが10万羽以上も集結し、チョウヒをはじめとするワシタカ類の越冬地としては日本最大級」
とある。
遊水池のなかを歩いて行くと、確かに様々な鳥のさえずりが聞こえてくる。鳥にとって、この地域は最適の生活の場のようだ。広がる葦の群生、そしてところどころに樹木がたたずむ。鳥は、この広い時空を思う存分自由に飛び回る。
自然の宝庫。
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しかし、ボクたちは、そのなかに、少し小高いところを発見する。
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そこは、人びとの生活が営まれていたところだ。小高い丘には、そこで生きていた人びとの蔵や船が置かれていた。上流から肥沃な土壌を含んだ水が大挙して押し寄せる。洪水だ。渡良瀬川は、洪水を起こすことで、この地域の人びとの豊かな生活をつくっていた。米や食料を、この丘に備蓄し、洪水の際は船で行き来した。
渡良瀬川の洪水は、決して人びとの生活を破壊するものではなかった。むしろ、生活を支えるものであった。
ところが、古河鉱業が足尾銅山を経営する頃から、大量の鉱毒を渡良瀬川は運ぶようになった。いや別に、渡良瀬川が悪いのではない。悠久の昔から、渡良瀬川は肥沃な土壌を運んでいただけだ。古河鉱業が、そこに鉱毒を混ぜたのだ。天の恵みでもあった渡良瀬川の洪水は、人びとの生活や生態系を破壊する凶器となって襲いかかった。
政府は、破壊者たる古河鉱業を支えた。政府というのは、いつの時代も、破壊者の擁護にまわる。
田中正造。彼はその現実を見すてておくことはできなかった。破壊者たる古河鉱業を支え、被害者をかえりみない政府の理不尽に鋭い批判を行った。だが政府は、破壊された人びとの生活を、さらに根底から破壊する施策を行ったのだ。
谷中村の住民を追い払って、そこに遊水池をつくった。
渡良瀬遊水池は、自然の宝庫だ。だが、豊かな自然に覆われた遊水池の土の下には、過去が閉じ込められている。ボクたちはその過去を閉じ込めている覆いをはがさなければならない。
田中正造は、今から100年前、佐野市の庭田家で息を引き取った。しかし彼は、本当は谷中村で死にたかった。谷中村には延命院、その隣には雷電神社がある。そこを終焉の地にしたかった。
今、そこに雷電神社はない。しかし神社があったところには小高い丘と、そこに登る階段があった。正造の魂は、この丘に登って遊水池を眺めているのだろうか。
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過去を覆い隠そうとする勢力は、今も、全国各地で暗躍している。だが、遊水池に点在する小高い丘は、彼らの所業をあばいている。ボクたちは、そういった過去を汲む努力を続けなければならない。