柳広司は、数え切れないほどの本を読んできたのだろう。読んでいて、それがわかる。読書は、人間の精神に大いなる栄養を与える。栄養をたっぷりと呑み込んだ精神は、批判的知性となって輝く。
最初に読んだ柳の『アンブレイカブル』も、批判的知性をもったエンターテインメントの小説であった。そのルーツを探るべく読んだのが、この本である。
知的刺激に充ちた本である。この本は、本について書いている。いや本を読んで何を思い考えたかを記している。同じ本でも、人によってその思いや考えは異なる。しかし他人がその本をどう読んで、何を思い考えたかはとても参考になる。
本書に取り上げられたのは、『月と六ペンス』『それから』『怪談』『シャーロック・ホームズの冒険』『ガリヴァー旅行記』『山月記』『カラマーゾフの兄弟』『細雪』『紙屋町さくらホテル』『夜間飛行』『動物農場』『ろまん燈籠』『龍馬が行く』『スローカーブを、もう一球』『ソクラテスの弁明』『兎の眼』『キング・リア』『イギリス人の患者』である。
私が読んだ本も読まなかった本も挙げられている。もちろん知らなかった本もある。挙げられたなかで私がもっとも深い思考を喚起されたのは、『カラマーゾフの兄弟』である。ただし余談だが、米川正夫訳で、その訳は重々しく、ドストエフスキーの原文とは距離があると米原まりさんがどこかで書いていたので、米原さんの指摘を反映させた訳本を読みたいと思う。
紹介された本に関わりながら、柳の批判的知性がみごとに発揮されている。先に紹介したオリンピックへの言及は、スポーツ小説『スローカーブを、もう一球』に関わってのものである。
それぞれについて書かれたものは知的刺激に充ちたものであるが、私にとっては『ソクラテスの弁明』、『兎の眼』などに関わっての柳の思いがもっとも感銘を受けた。
私もかなりの本を持ち、これ以上本を増やさないようにしたいと思っているので図書館から借りた。しかし借りた本は書き込みが出来ない。この本は書き込みをしたい内容を持っている。買えばよかった。