窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

地域自立・自走の人づくり、仕組みづくり-第152回YMS

2023年07月13日 | YMS情報


 7月12日、「夢・あいホール」にて第152回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。今回の講師は、株式会社ジェイアール東日本企画の林聖子様。「地域の自立・自走を目指す伴走型支援」と題して、地域創生の取り組みについてお話しいただきました。「地域創生」をテーマとしたものとしては、第143回YMS「主力サービスのピボットと社名変更に至る道のり~地方創生の現状と私たちが目指す地域活性化~」も併せてご覧ください。

 さて、林さんと地域との関りは、最初の会社を退職後、事務局長を務めたNPO法人で様々な地域活性の取り組みをしたときに端を発するそうです。その後、農水省の関連会社を経て、現在は冒頭のジェイアール東日本企画のソーシャルビジネス・地域創生本部というところにいらっしゃいます。今回はそこでの福島県における地域創生の取り組みに事例についてお話しいただきました。

 ジェイアール東日本企画はJR東日本グループの一員の主に広告代理店です。鉄道のイメージが強いJR東日本ですが、そこから派生し、67ものグループ会社がありとあらゆる分野で事業を手掛けています。地域創生本部は、そうしたJR東日本の持つ強みを活かし、地域創生事業に取り組んでいます。例えば、駅を利用した産直市、社内販売の衰退によりスペースの空いた新幹線車内の車販準備室を有効利用した新幹線物流などです。この新幹線物流は、僕も何かの報道で聞いたことがありますが、高速かつ時間に正確である、揺れが少なく例えば活魚などにストレスを与えにくいといった新幹線ならではの強みが活かされています。

 地域創生事業は今回のタイトルに「伴走型支援」とある通り、単なる企画ではなく、地域の自立・自走を目指し、以下の4つの原則を大切にしています。

1.人づくり
2.主体性
3.事業化
4.地域性

 今回事例として取り上げられたのは、経産省から受託した「令和4年度『地域経済産業活性化対策委託費(6次産業化等へ向けた事業者間マッチング等支援事業)』」の一環で、東日本大震災とそれに続く原発事故で避難を余儀なくされ、今なおその爪痕が残る福島県の浜通りと呼ばれる地域の活性化支援事業です。そこには、これからお話しするように先の4つの原則がしっかりと貫かれています。

 さて、支援の背景をご説明しますと、震災での避難により同地区で多くの企業の事業がストップし、その間に取引先が失われてしまいました。その仕入先や販売先の寸断が、避難指示解除後も事業再開の障壁となっていました。地域の特徴としては、食品加工業が多く約6割を占め、その他は伝統工芸などが多い構成です。なお、避難された方の中には域外で事業を再開された方も多く、そうした方々も支援の対象となりました。

 もちろん、様々な方面の専門家や協力会社とも連携して支援事業は進みます。地域の自立・自走への道は、以下の三段階を経て行われます。

1.経営への動機付け(勉強会・交流会の開催。小さな成功事例の積み上げ。営業力・商品力をつける)
2.事業者の力がついてきたら、ネットワーク化
3.地域ブランドの創出、ネットワークを機能させるハブの育成、自立自走へ。

 さて、寸断された取引先を再構築するため、様々なマッチングに取り組んだものの、当初は上手くいきませんでした。その過程で次のような課題が浮かび上がりました。

1.卸価格が高く、売れる商品がない
2.製造者の想い先行で、差別化が弱い(購入側に訴求できない)
3.継続しない(お付き合いで買ってもらえても、売れないので続かない)

 そこで、変革の基本として3つの軸を設けました。事例をいくつか見ていきましょう。

1.売り物を変える
2.売り先を変える
3.売り方を変える

 地元産の荏胡麻油がありました。元々、「かどやの純正ごま油」のような容器に入っていましたが、ゴマ油やサラダ油と違い、荏胡麻油はそんな大量には使いません。健康や美容に良いとして人気はある者の、使用量が少ないので、時間が経つと酸化してしまいます。そこで、容器を小型化して売り出すことにしました(売り方を変える)。これは類例がなく、山形県の有名なシェフにも評価されたことから口コミで広がり、ヒット商品となりました。

 高級食材として人気のある川俣シャモを使った「鶏ジャーキー」は、最近一般人にも人気が高まっているアスリート食として訴求し(売り方を変える)、そこから派生して、それまで食品をおいていなかったアウトドア用品店に販路が広がりました(売り先を変える)。
 
 コロナで観光がなくなり大打撃を受けたご当地グルメのなみえ焼きそば。こだわり系の高級スーパーへ(売り先を変える)中身が見えるようにパッケージを変え(売り方を変える)ヒット。首都圏のみならず、関西圏、福岡にも広がる。

 続いて、ネットワーク化として域内のマッチングを増やしていった例です。従来域外で加工していたものを域内で加工だけでなく、そこから新たな商品を生み出し差別化していきました。

 原発事故で大きな被害を受けた牛乳・乳製品の製造販売会社。主力商品は「アイスまんじゅう」といって、地元で60年以上親しまれてきました。しかし、アイスクリームは冷凍のため販路エリアが限られるという欠点もありました。そこで牛乳を使った常温商品はできないかということで、県内の常温で120日もつという技術を持つプリン製造業者とマッチング。地元で知名度のある同社の社名を冠したカスタードプリン(売り方を変える)を発売しました(売り物を変える)。常温で120日もつということは、小さな商品のために特別な設備を必要とせず補完できるということです。これが強みとなり、大手コンビニエンスストアにも販路が広がりました(売り先を変える)。

 さらに、地元で150年続く醤油味噌店とコラボレーション。県内限定(売り方を変える)で醤油プリン、山塩プリン、ピーナッツプリンなど地元の食材を掛け合わせた変わり種プリンを次々とシリーズ化させました(売り物を変える)。



 さて、ここまでは地域の自立・自走のための第二段階までを主にお話ししてきました。後半は作り上げたネットワークを持続可能なものとする第三段階のお話しです。地域活性化支援のありかたを「公助」、「共助」、「自助」に分類するとするなら、伴走型支援は「共助」にあたります。老子のいう「人に授けるに魚を以ってするは、漁を以ってするに如かず」ですね。ネットワークを俯瞰してコーディネートできるハブ(地域商社)をプロジェクトの中で同時に育成していきます。さらにはそうしてできた浜通り、中通り、会津の地域商社を連合させ、全福島で機能する仕組みに育てていきます。

 そうした、地域間連携の例をいくつかご紹介しましょう。

●ドッグカフェ×水産加工業者=未利用魚を使ったペットフードの開発
●コーヒーショップ×和菓子メーカー=コーヒーにあう羊羹の開発
●水揚げ地×水産加工業者でそれぞれの強み弱みを補完=震災でタコが採れなくなったいわきの水産加工業者で相馬のタコを加工
●水産加工業者×2=給食需要がない時の余力を観光向け魚肉ナゲットの製造に

 このようにネットワークを俯瞰的に見て、どこが困っているかを把握し、つなげるのが地域商社の役割です。伴走型支援は、このように走りながら同時に人材の育成にも取り組みます。

 さらには、JR東日本自身がもつ様々なリソースを活用できるのも強みです。例えば、2020年3月、被災した常磐線が全線開通(復旧)しました。そのイベントに載せて、福島の様々な食材でオリジナル駅弁を作りました。その駅弁は「駅弁グランプリ」に出展され、その他の商品も「JR東日本お土産グランプリ」に出展されました。こうしたところでの受賞歴は、地元商品のブランド力向上に貢献します。

 また別の例では、たまたま震災を生き残った唐辛子の苗をみんなが元気に語れるような話題として活用しようと、地元の女性の発案で唐辛子をみんなで育てる「唐辛子プロジェクト」が始まりました。これが拡大するにつれ唐辛子の収穫量が増えたので、地元のお土産商品とするだけでなく、駅構内のお蕎麦屋さんで「ごま辣油つけそば」としてメニュー化してもらいました。さらに蕎麦と言えばお酒、大堀相馬焼の徳利と猪口、福島の地酒もお店で扱ってもらうことができました。逆にJR東日本は販路を持っていますが、こうした新しい商品を自ら見つけることができないのです。そこをこちらが補うことができます。

 最後に。伴走型支援を成功させるには、何といっても自立・自走を目指すわけですから、地元の中に推進役、そして外部からの協力者を引き入れられる人がいることが重要だそうです。YMSに参加されていた何人かの方もおっしゃっていましたが、さまざまな地域でさまざまな人たちそれぞれ努力して何とか地域を活性化しようと奮闘しておられます。しかしながら、そうした努力も閉じられた世界の中で行われているために発展しない、あるいは持続しない例が多くあるそうです。そうした点では、今回のお話しは大変参考になるのではないかと思いました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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教養としての「魚」文化―第151回YMS

2023年06月15日 | YMS情報


 6月14日、「夢・あいホール」にて第151回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。今回の講師は、おさかなコーディネータのながさき一生様。昨年秋に放送されたドラマ「ファーストペンギン!」の監修ほか、水産業の活性化、魚文化の普及にご活躍されています。実はながさきさんは、YMS黎明期の第3回(2010年12月)にもご参加いただいており、今回は久しぶりの再会となりました。

 そのながさきさんは、今年4月、『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める本』という書籍を出版されており、早くも第3版を数えているそうです。今回は同書に沿いつつ、「『魚ビジネス』魚の教養を身につけて世界でも一目置かれる経営者になろう」と題し、YMSのためにアレンジされた内容でお話しいただきました。





 私たち日本人にとって有史以来大変身近な魚食文化。世界的な健康志向の高まりを受け、2013年に和食がユネスコの無形文化遺産に登録されると共に、魚食文化が大変注目を集めています。ながさきさん曰く、「今や魚についての知識は、フランス人にとってのワインと同様、魚食文化の発信源である日本人が身に着けるべき教養である」と。しかし、初歩的な魚の区別すら曖昧というのが実際のところで、とても外国の方に魚食文化を語れる水準にありません。ということで、今回短い時間ですが、しっかりと勉強させていただきました。

1.サバ缶の教養~100円のサバ缶と3000円のサバ缶は何が違う?



 早速ですが、ブームの中で今や魚の缶詰のトップに躍り出た「サバ缶」の食べ比べ「利きサバ」を行いました。試食したのは価格差5倍の水煮缶詰。どちらも原料はサバと食塩のみです。個人的には匂い、食感(但し、食感はたまたま当たった部位によって異なります)、塩味に差があるように感じました。確率1/2なので正解しましたが、安い方のサバ缶も十分に美味しかったです。

 日本の食卓に上がるサバには、マサバ ゴマサバ タイセイヨウサバ(ノルウェーサバ)の三種類があります。では、この価格差は何処にあったのかというと、原料であるサバ。安い方は外国産で、高い方は石巻の金華サバで、現地で加工されたものでした。

 サバの缶詰は元々安いサバに付加価値をつける目的で作られていましたが、2013年に美容、健康に良いという報道からブームが起こり消費層が拡大、2016年にはツナ缶を抜き、魚の缶詰の生産量トップに躍り出ました。また2020年からは新型コロナによる巣ごもり需要で消費が拡大しましたが、昨年の記録的な不漁で生産量はやや落ちています。

2.マグロの教養~「大間まぐろ」と「近大マグロ」は何がすごい?

 続いてマグロについて。一口にマグロと言っても、クロマグロ(本マグロ)、ミナミマグロ(インドマグロ)、メバチマグロ、キハダマグロ、ビンチョウマグロ(注)、コシナガマグロなど様々な種類があります。ここで取り上げる大間まぐろと近大マグロはクロマグロです。

注:胸鰭が長いので「びんちょう(鬢長)」というらしいです。英語の“fin”が訛ったのかと思っていましたが、「ひげ」なんですね。

 青森県下北郡大間のブランドマグロとして名高い「大間まぐろ」。大間のまぐろが美味しい理由は、流れの速い津軽海峡が漁場であること、まぐろを傷つけたり消耗させたりしない一本釣り、または延縄漁であること、そして水揚げしてすぐに市場に送られる流通の早さが挙げられます。意外とこの流通の早さが魚の品質の決め手になるそうです。

 一方の「近大マグロ」は何が凄いか?何よりも苦節30年、2002年、世界で初めて完全養殖に成功したことです。まず、天然の魚を生簀に入れて育てることを「畜養」と言います。これに対し、卵から孵化させた稚魚を生簀で育てることを「養殖」と言います。「完全養殖」とは、養殖で大きくした魚に卵を産ませ、孵化した稚魚をさらに養殖することです。

 マグロの完全養殖が難しかったのは、ご存知の通りマグロが極めて広範囲を泳ぐ回遊魚で、その生態に不明な部分が多かったためです。しかし近畿大学は試行錯誤の末、稚魚の飼い方にポイントがあることを突き止めました。完全養殖の意義は何といっても水産資源を減らさずに済むことです。

 なお、天然マグロと養殖マグロどちらが良いかについては、季節、嗜好、調理法などにより異なるため、一概に言えません。

3.鮮度保持の教養~誤解だらけ!?「生魚」と「冷凍魚」はどちらが良い?

 三番目は魚の「鮮度」について。鮮度とは新鮮さの度合いのことですが、客観的に判断する基準として、「K値」と呼ばれる指標があるそうです。K値の試験方法は2022年に農林水産省がJAS規格で制定しています。簡単に言うと、魚の筋肉に含まれるATP(アデノシン三リン酸)が、魚の死後うまみ成分であるイノシン酸、さらには苦み成分であるイノシン、ヒポキサンチンに分解されていきます。K値はこのイノシン、ヒポキサンチンの割合のことで、値が低い程鮮度が良いということになります。

 魚の鮮度を保つ方法として、締める、冷凍するといった方法が知られています。

① 氷締め…氷水に入れて凍死させる
② 脳締め…脳を刺すなどして即死させる
③ 血抜き…血をできる限り抜く(腐敗の進行を遅らせ、臭みを防ぐ)
④ 神経締め…魚の中骨上部に沿って走っている神経束を抜く(体の細胞に死んだという情報を伝えず、うま味成分が残る)

なお、以前このブログでご紹介した、屋久島の「首折れサバ」は一本釣りしたゴマサバを船上で首を折り血抜きをした後、氷水で冷やしたものです。

 冷凍は、船上あるいは水揚げ後直ちに冷凍することで時間の進行を止め、鮮度を保ちます。水分子が結晶化することで細胞壁を破壊し、解凍した際、細胞液が漏れ出るドリップという現象が起こる場合があります。これを防ぐため、急速冷凍を行います。水は0度~ー5℃で膨張するので、細胞壁を壊さないようにするためにはこの温度帯の時間を短くする必要があります。そこで超低温で一気に凍らせてしまうのです。急速冷凍の方法としてCAS(過冷却(注)を利用して一気に凍らせる)、3D冷凍(高湿度で均一に冷却することで、水分を保持したまま急速冷凍する)などがあります。なおご家庭で冷凍魚のドリップを防ぐには魚を袋に入れ、氷水に漬けて解凍するのが良いそうです。

注:凝固点より温度が低くても固体に変化しない現象のこと。この過冷却状態で衝撃を与えると、急速に液体が凝固して固体になる。下の写真は僕が昨年2度成功した、過冷却によるビールの「みぞれ酒」。



 生魚と冷凍魚どちらが良いかについても、冷凍の仕方や熟成させた方が美味しい調理法もあるなど、場合によります。

4.お買い物の教養~漁港で海鮮丼は食べない方が良い?



 結論から言うと、その漁港で揚がる魚を選びましょうということです。これは経験的にも良く分かりますね。漁港の売りは何といっても鮮度であり、漁港ごとに揚がる魚も異なります。漁港の魚売り場へ行けば山地が表示されているので、そこでこの漁港ではどんな魚が揚がるか確認できます。

 逆に魚市場の売りは、世界各地から魚が集まる種類の豊富さ。小売店は手軽さだと言えるでしょう。最近、いわゆる魚屋さんは少なくなりましたが、素人である私たちが魚の目利きを目指すより、良い魚屋を見つける方が良いということです。良い魚屋を見分ける手掛かりとして、対面販売であること、店員が多いことが挙げられます。

5.最新の教養~ゲノム編集とは?細胞水産業とは?

 初めに培養サーモンの写真を見て、そんなものがあるのかとビックリ!魚の可食部の生きた細胞を培養して増やすのだそうです。一方、ゲノム編集というのは、しばしば異なる種の遺伝子を組み合わせる「遺伝子組み換え」と混同されますが、狙った遺伝子の塩基配列を変化させる(編集する)技術です。魚では京大、近大などの研究で真鯛が先行しており、成長を抑制する遺伝子の機能を欠損させ筋肉量を増やした真鯛の写真を見ました。すでにネットで購入できるのだとか。遺伝子組み換えは自然界では起こり得ませんが、ゲノム編集は遺伝子異常など自然界でも起こり得ることを人工的に操作したものです。

6.水産資源の教養~バイアスの極み「魚が食べられなくなる」は本当か?

 最後に、水産資源の減少で「魚が将来食べられなくなる」というのは本当か?という話です。水産資源の変動は、海洋環境の変化、漁獲の影響、人間による環境の変化など様々な要因が複雑に絡み合って起こります。メディアの報道には偏ったものや媒体によって矛盾しているものも多く、適切に管理すれば大丈夫とのことです。水産資源管理の基本には、

① インプット・コントロール…網を入れる回数を制限する
② テクニカル・コントロール…網目の大きさや漁獲能力を制限する
③ アウトプット・コントロール…漁獲量を制限する

の三種類があり、日本は①②、欧米は③が主体だそうです。

 知らないことばかりであっという間の90分でしたが、より詳しくお知りになりたい方は、冒頭に挙げたながさきさんのご著書をぜひどうぞ。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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間は兵の要にして、三軍の恃みて動く所なり-第150回YMS

2023年05月14日 | YMS情報


 5月10日、YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)は、節目となる第150回を迎えました。2010年10月13日の第1回よりこれまでご参加いただいた、のべ2,688名の皆様に心より感謝申し上げます。



 その記念すべき回の講師は、警視庁OBでセキュリティ・コンサルタントの松丸俊彦様。テーマはずばり、「産業スパイと戦う」。メディアにも多数ご出演の松丸様ですが、ちょうど5月8日に起きた「銀座時計店強盗事件」の記事が掲載されましたので、ぜひリンクよりご覧ください。

 松丸様は警視庁時代、防諜対策や大使館のセキュリティアドバイザーなどを担当。現在は主にセキュリティ・コンサルタントとしてご活躍されていますが、2022年に「経済安全保障推進室」が内閣府に設置されて以降、産業スパイの手口を世に広めることで対策に役立てようという動きが見られるそうです。

 さて、現代ビジネスに限らず、政治、軍事、人間の諸活動のあらゆる面において情報およびそれを収集する諜報活動は最も重要なものとされてきました。例えば最も有名な兵法書『孫子』では、「(諜報活動は)戦争において最も重要なものであり、全軍はその情報を頼りに動くのである(「用間篇」)」と述べています。その『孫子』によれば、諜報活動、つまりスパイには次の5種類があります。

1.郷間…敵国内の住民を間者として利用する。
2.内間…敵中枢にいる役人を間者として利用する。
3.反間…敵の間者をこちらの間者として逆用する。
4.死間…偽ってこちらの間者を敵に加担したとみせかけて虚報を伝える。
5.生間…敵国で情報収集し、そのままこちらに持ち帰ってくる間者。

 また、上の5つのスパイ活動に対応して、唐代の名将李靖と名君太宗(李世民)との問答形式で書かれた兵法書『李衛公問対』では、誰をターゲットとして狙うかについて、次の7種類を挙げています。

1.間君…君主を狙う
2.間親…君主の一族を狙う
3.間能…組織内の有能な人物を狙う
4.間助…仲間を狙う
5.間隣…同盟者を狙う
6.間左右…側近を狙う
7.間縦横…弁舌の巧みな者を狙う

 松丸様のお話を聞きますと、兵法書に書かれたスパイの種類とターゲットは現代でも通じるところが多いことが分かります。例えば、産業スパイは我々が映画などでイメージするスパイとは異なり、組織内部にいる人間がスパイとなることが主流です。『孫子』でいう内間です。組織に出入りする業者を利用するのであれば、それは郷間です。一般に我々がイメージする、プロのスパイが敵国や企業に潜入して直接諜報活動をするのは生間です。もちろん、プロのスパイ(生間)が主流である国もありますが、生間はリスクが高いので、内通者を利用する方が多くなるわけです。特に企業をターゲットにした商業スパイにおいて内通者となるのは、

1.悪意のある従業員
2.不注意な従業員
3.悪意のある第三者
4.不注意な第三者

すなわち間助であり、特に多いのが退職者、転職者だそうです。つい最近も大手回転すしチェーンや携帯電話会社の情報漏洩事件が話題になりましたね。

 組織内でアクセス権限を付与されている者が、意図的であるなしに拘わらず情報を漏らしてしまうこともあります。これは間能です。このような場合、アクセス権の付与や行動範囲に制限をかけるなどの対策をとると共に、警察への相談を躊躇しないで欲しいとのことでした。

 残念ながら産業スパイ事案が起こってしまったら、民事・刑事での法的対応を考えます。日本にはスパイ活動防止法がないので、別の法令違反で対処する必要があるためです。また、情報開示の範囲とタイミングも考えます。知り合いの弁護士にこの方面につい良い弁護士を紹介してもらったり、危機管理コンサルタントに相談するのも良いでしょう。その他、評判コストの見積もりと対応があります。即ち、マスコミ対策、炎上対策、炎上した場合の鎮静化対策などです。

 まとめると、産業スパイの防止策としては、一つには従業員のバックグラウンドチェック。二つ目は、特権的なアクセス権者の定期確認です。たとえ採用時はまともだったとしても、例えばプライベートで借金を抱えたなどの理由から、スパイに手を染めることがあり得ます。また、強力な権限を持つ役職に長時間留めないようにするという対策もあるでしょう。三つめは、適切な解雇手続きを作成することです。恨みを買うことが、内間を生む温床となり得るためです。内間は組織内の重要人物ばかりでなく、不遇な者や恨みを持つ者もなり得ます。

 私たちの身の回りの諜報活動は、企業内に留まりません。例えば、詐欺などで使われる闇名簿の問題があります。闇名簿は複数の情報ソースを使って次々と情報をつけ足していく「名寄せ」が行われるため、驚くほど詳しい情報が記載されているそうです。ですから、不審な電話がかかってきた時などは、一切話に応じないことが大切とのこと。たとえ無害と思われる受け答えだとしても、それがヒントとなって重要な情報になる恐れがあります。こういう場合も、躊躇なく家族や管轄警察署に相談して欲しいということでした。

 さらに空き巣や強盗などは事前に下見を行うことが多いです。電気や水道点検を装って下見をする泥棒もいます。彼らは顔を見られるのを嫌がるため、不審な人物を見かけたら、挨拶をするといったことが防犯上有効だそうです。とは言え、しつこく問い質すようなことは危険です。声をかけ反応を見るだけでなく、例えば地域外の不審な車が止まっていないかなども推測材料になります。また、何かあるとすぐ警察を呼ぶような地域なのだと相手に思わせることも効果的だそうです。

 このように諜報活動は決して私たちにとって縁遠い話ではなく、身の回りで日常的に行われていることが分かります。『孫子』が13篇の中からわざわざ「用間篇」として諜報活動について1篇を割いているのは、時代を問わず情報こそが競争優位をもたらす決定的要因だからにほかなりません。スパイや謀略の話など、道徳的に嫌悪感を感じられる方もおられるかもしれません。しかし、プロイセンの軍略家であるクラウゼビッツが「戦争に含まれている粗野な要素を嫌悪するあまり、戦争そのものの本性を無視しようとするのは、無益な、それどころか本末を誤った考え方である」と述べているように、道徳的に受け入れ難いようなことでも、そこに含まれる重要な要素を学んでおくことは、現代を生きるどんな人にとってもやはり大切なことなのではないかと思います。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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世界で愛されるベリーダンスとその魅力-第149回YMS

2023年04月13日 | YMS情報


 4月12日、「夢・あいホール」にて第149回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。今回の講師は「ずっと行きたかったトルコ・ディナー-ニューアリババ②(関内・相生町)」でもご紹介した、ベリーダンサーのヤヤ・ジャスミン様。「世界中の女性から愛されるベリーダンスとその魅力」と題してお話しいただきました。

 ジャスミンさんのプロフィールを簡単にご紹介します。ジャスミンさんは中国西安出身。幼い頃から中国舞踊に親しみ、留学をきっかけに来日してからは研究者、会社員として活躍しておられましたが、2021年にプロのベリーダンサーに転身されました。



 ここからは当日参加されたZOOM聴講者の方からいただいた感想を元にご紹介したいと思います(残念ながら、今回僕は出席することができませんでした)。

<ZOOM聴講者の方より>

スライドを事前にシェアしていただいたので、特にZOOM参加者は助かりました。ありがとうございます。

YayaJasmine(ヤヤ・ジャスミン)
中国出身
チャイナベリー®︎(注:中国舞踊×ベリーダンスの融合スタイル)創始者
(今年1月商標登録、おめでとうございます)

Ⅰ自己紹介

中国西安出身で、大学で日本語を専攻し、留学で日本に来てから、日本での生活は15年になります。
Q:チャイナベリー®︎のお弟子さんは育成していますか?

Ⅱダンスとの出会い

自分自身も綺麗になりながらのお仕事だったら最高だなと思い、研究者から会社員のキャリアを渡って、ダンサーのお仕事ができるように道を作ってきました。
Q:日本の会社の印象は?特に高学歴の女性として。

Ⅲベリーダンスについて

出典:一般社団法人 日本ベリーダンス連盟など
研究者出身らしく、事実にもとづいた、詳しいご説明でした。

ベリーダンスはアラブ文化圏で発展した踊り

世界最古の踊りと言われるベリーダンスは、女神崇拝のための儀式として巫女たちが踊ったのがそのはじまりだと言われています。そして、豊穣を祝うための踊りとして、脈々とアラブの女性たちに受け継がれていきました。現在の洗練されたショー・スタイルはインドから西へと旅を続けたジプシーたちが作り上げたと言われています。その土地土地の踊りを自分のスタイルに取り入れる才に長けていたジプシーたちは、アラブの民族舞踊を自分たちの踊りに取り入れ、ストリートパフォーマンスを行うことで、生計を立てていました。

オリエンタルスタイルの3大スタイル<動画を紹介していただきました>

・優雅なエジプシャンスタイル
エジプトが発祥のエジプシャンスタイル。このスタイルは、優雅で細かい仕草が多く、あまり激しい動きはありません。衣装も露出が少なめで、基本素足で踊ります。

・ダイナミックなターキッシュスタイル
ターキッシュスタイル。大きな動作が多く、寝転がったり膝をついたりします。大胆な衣装が多く、ハイヒールで踊ることも。

・生活に根差したジプシースタイル
料理を作ったり、子供をあやすなどの生活動作が入るスタイルです。衣装はひらひらの裾や袖で、フリンジなどで飾ります。

米国のトライアルは、ヒップホップなどとのフュージョンで、恰好よいのですが難易度が高いです。

<ベリーダンスの基本の動きを実演していただきました>



ベリーダンスが日本で定着するまではスペインのフラメンコやハワイのフラダンスが主流でしたが、最近は習い事として始める人が増加してきました。東京を始めとする地方都市でも大きなダンスショーが開催されていることから今後もベリーダンスに注目が集まると思われます。現在、日本におけるベリーダンス人口は10万人を超えるともいわれているほど、人気を集めているダンスです。

‍ 日本では、中東の料理店でもベリーダンスショーを開催しているところがあるので、料理を楽しみながら目の前でダンスを披露してもらえるので、興味のある人は行ってみてください(注:このブログでもご紹介しました。冒頭のリンク、「ずっと行きたかったトルコ・ディナー-ニューアリババ②(関内・相生町)」をご覧ください)。

<スタイルアップ>

一見優雅に見える踊りですが、全身を使って動くので、インナーマッスルが鍛えられ、ボディラインが整うのです。

<体質改善や美容にも効果的>

正しい姿勢を保ちながら体を動かすことは、血液やリンパの流れを正常にし、活性化させることにつながります。 女性ホルモンのバランスもよくなり、女性特有の体調不良、月経不順、更年期障害などの改善にも! またリンパの流れを活性化することで、お肌の新陳代謝を促し、美肌効果も期待できますね。

<女磨き>

ベリーダンスの動きは、女性の曲線的なラインを強調し、上品かつしなやかなので、柔らかな女性らしいしぐさが自然に身についていきます。長い髪が女性的で、きれいです。

男性のベリーダンスは、男性らしく表現します。スケートの羽生選手を思い出します。

Ⅳこれからの活動について

チャイナベリー®︎を今後イベントだけではなく、文化プロジェクトとして進めていきたいとのことです。イベントでの活動は、年末まで非常に多く多忙に予定されています。
Q:女性がつなぐ世界の文化プロジェクトになれば素敵ですね。



懇親会でのQ&A続きに参加できなくて残念です。

<ご感想ありがとうございました>

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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運動発達をさかのぼることで身心を整える-第148回YMS

2023年03月13日 | YMS情報


 3月8日、「夢・あいホール」にて第148回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。お話しいただくのは、神奈川県小田原市で「からだ指導室 あんじん」を主宰されている、栗本啓司様。発達の過程で生じた「運動発達のヌケや未発達」に着目し、「からだ育て」の観点から老若男女・障害の有無を問わず、一人一人の身体感覚を大切にした健やかな成長をサポートしていらっしゃいます。お話のテーマは、「発達障害と運動発達の関係〜運動発達をさかのぼることで身心を整える〜」です。発達障害をテーマとしたものとしては、昨年4月の第136回YMSで榎本澄雄様からのお話がありましたが、今回の栗本さんは榎本さんからのご紹介でもあります(注)

注:YMSは皆さまからのご紹介のリレーから成り立っております。ジャンルは問いませんので、お話しいただける方のご紹介をお待ちしております。



 さて、発達障害とは何でしょうか?発達障害者支援法においては、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。2013年、アメリカ精神医学会の診断基準DSMが改訂され(DSM5)、そこでは「幼児期、小児期、青年期に初めて診断される障害」としてまとめられていた各種の精神障害や発達障害が、「神経発達障害」と総称されるようになりました。良くわかりませんが、脳機能障害として狭くとらえられていたものが、神経発達障害とより広く捉えられるようになったということでしょうか?

 いずれにせよ、栗本さんはこの「神経の発達」という観点から、神経に刺激を与えるものとしての「運動」に着目し、実際に発達障害とされる多くの子供たちと向き合っておられます。というのも、発達障害の子供たちを見ていると、身体の発達過程において一部が欠落していると思われる動作が多々あるからだそうです。

 人間は生まれてから寝返りを打ち、腹ばいになり、ハイハイをし、お座り、つかまり立ちを経てやがて二足歩行へと移行していきます。昔何かの本で読んだことがあるのですが、これは魚類の動き、爬虫類の動き、人類の動きと進化の過程を辿っているものだという説があります。栗本さんによれば、これは人間が重力、つまり地球に適応する過程であって、非常に重要な時期なのだそうです。

 この時期に様々な要因によって過程の一部が欠落する、例えばハイハイの期間が異常に短い、といったことがあると、重力に上手く適応できないまま成長し、例えば姿勢の維持ができない、あるいは意図しないのに飛び上がってしまう、手が出てしまうといった症状が見られることがあるそうです。これらは神経の未発達であって単なる脳の障害だけでは説明できません(脳も神経の塊ではありますが)。

 先に述べた「様々な要因」は、文字通り様々であって特定することは困難です。それこそ、親の育て方であったり(例えば、早く立たせようとし過ぎる)、家庭環境であったり(例えば、虐待やネグレクト)、便利さ快適さを優先した多彩な育児アイテムの問題であったり、生活環境の変化(例えば、自然に触れることが少なすぎる、地域コミュニティの喪失など)、神経刺激ですからあらゆることが影響している可能性があります。

 しかしながら、神経には可塑性があり、成長してからでも変化させることが可能です。そこで「からだ指導室 あんじん」のように、身体動作からアプローチして、「自然な体作り」、「生活のリズムを整える」ことをあくまで子供の自主性を大切にしながら無理なく目指しているそうです。

 人間は実に複雑です。脳が全てではありませんし、身体が全てでもありません。あらゆることが複雑に絡み、影響し合った結果、様々な形で表出する言動。表に出ている部分だけからでは、根っこの繋がりは分かりません。しかし、「根っこ」の一つから働きかけることにより、万能の解決策とはならないまでも、単に薬で抑えるよりは子供たちにとって好ましい「何か」が見えてくるような気がします。



繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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どんな物にもヒビがある。だが光が差し込むのはそこからであるー第147回YMS

2023年02月09日 | YMS情報


 「どんな物にもヒビがある。だが光が差し込むのはそこからである」。表題にもあるこの言葉は、ナポレオン・ボナパルトが遺したものだと言われています(諸説あり)。陰極まれば陽に転じ、陽極まれば陰に転ず、古くから言われていることがまさに真理だと感じるお話しでした。

 2月8日、「夢・あいホール」にて第147回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。お話しいただくのは、株式会社ユサワフードシステム代表取締役、湯澤剛様。湯澤さんについては、以前当ブログ「食に人生あり-大船海鮮食堂 魚福(大船)」でもご紹介したことがあります。お話しのテーマは、「あきらめなければ道は拓ける。朝の来ない夜はない。~負債40億円からの挑戦~」。

序. コロナで売上が突然ゼロに

 湯澤さんは先代から45年、神奈川県下に海鮮系の居酒屋を展開していらっしゃいます。それでお分かりと思いますが、2020年新型コロナウィルスの世界的流行により、人々は外出自粛を余儀なくされ、飲食業界は大きな打撃を受けました。2020年4月7日に緊急事態宣言が発令されると、湯澤さんの会社は5月に至るまで売り上げが何と2019年比90%減という事態に見舞われました。

 「コロナはやがて終息する、しかしサラリーマンの宴会は戻らない。従業員の雇用を守るには新規出店しかない」、そう考えた湯澤さんは2021年6月「大船海鮮食堂 魚福」をオープン。ところが直後の7月、4回目の緊急事態宣言が発令され、9月は売上ゼロに。43名の従業員を抱えながら売上が全く立たないという苦しみは如何ばかりか…。しかし、これは湯澤さんが会社を継いで23年、潜り抜けてきた幾多の「夜」の一つに過ぎなかったのです。



1.サラリーマンから突然負債40億円の会社の社長に

 湯澤さんは大学卒業後、大手飲料メーカーで12年サラリーマンをされていました。ところが1999年1月、創業者であるご尊父の突然の死により、「株式会社湯佐和」(当時)を引き継がざるを得なくなります。その会社は当時33店舗を経営しており、年商が20億円ありましたが、有利子負債が年商の倍の40億円。単純計算でも完済に80年かかるという有様でした。

 長くサラリーマンをされていた湯澤さんに会社経営の経験はなく、元より父親の会社を継ぐつもりがなかったため、業界知識はおろか店舗に足を運んだことさえなかったそうです。では、社内に業務の分かる番頭さんがいたのかと言うと、ワンマン経営だったためそれもゼロ(正確に言えば、様々な問題でいなくなってしまっていた)。店には店長すらおらず、33店舗の店をわずか二人の社員で担当していました。そして各店は流しの板前と数名のパートで回していました。

 その上、3年前に不正経理で解雇された本部長が人材をごっそり引き抜き、競合店を始め、それが繁盛しているという有様でした。

 飲食店経営の経験はなく、頼れるベテラン社員もおらず、店舗は人手が足りない。それでも借金や請求の支払は待ってくれません。何から手を付ければよいか考える余裕もなく、金策に追われる日々が続きます。お詫び行脚の日々に心も遊んでいき、雨が降ると店の売上が落ちるので、天気予報を見るのが怖く吐いてしまうほど身体もボロボロでした。

 さらに悪いことに、金策に奔走するあまり店の方はほったらかしになり、売上が右肩下がりに下がっていきます。現場のモラルは低下し様々な問題が続出しますが、従業員に辞められては店が回らないので強く注意することもできず。

 そんなある日、地下鉄丸ノ内線のホームで、無意識のうちに電車に向かって飛び込もうとしている自分に気づき愕然とします。いくら苦しくても自殺など考えたこともないのに、身体が無意識のうちにリセットをかけようとするのです(余談ですが、これに近いことは僕も経験があります)。絶望の極み、まさに陰が極まった時、湯澤さんにひとつの覚悟が生まれます。

2.カラスと借り物の羽根

 その覚悟とは、80年などという途方もない時間を考えていたら絶望してしまうので、とにかく1827日間は全力を尽くそうというものでした。1827日というのは5年間のことです。そして、この先に起こりうる最悪の状況を「最終計画」として紙に書き出してみました。湯澤さんがおっしゃっていたのは、「不安や恐怖というものは、頭の中に置いておくと際限なく増幅する。ところが、紙に書き出して客観視してみると少しは冷静になり、一歩前に踏み出そうという気持ちになる」と言うことでした。これは以前、名古屋大学大学院情報学研究科准教授川合伸幸先生のお話を伺った時、怒りの感情をコントロールするにはその感情を客観視することが大切であり、手法の一つとして怒りの原因となった出来事を紙に書き出すのが良いとおっしゃっていましたが、それに通じると思います。

 そして「結果が絶望的な時は、結果ではなくプロセスに着目する」とも。

 さて、覚悟を決めた湯澤社長は八方塞がりの中から脱却するため、まずは小さな成功事例を作ることに集中し、それを拡げていく「一点突破、全面展開」に取り組み始めます。僕も学生の頃、組織を変革していくのに少数の触媒をまず作り、その影響力を拡げていくということをやった経験があるので、これは分かる気がします。具体的には、数ある店舗の中の1店舗を改装、メニューや接客も一新し、これまで中高年のサラリーマンが中心だった客層を若い女性やファミリー層にも広げていくというモデル店舗を作ることでした。そのモデル店舗を触媒として会社を変えていこうという狙いだったのです。

 ところがそのモデル店舗、リニューアル当初こそ売上が急上昇したものの、すぐに反転急降下してしまいます。それどころか、リニューアル前の古びた居酒屋のころの売上、利益すら下回る始末。新たなターゲットとして取り込みを狙った若い女性やファミリー層からは酷評され、根強く支持してくれていた中高年男性層の顧客まで店が変わってしまったことで離れていってしまいました。

 失敗の本質は、自分の弱点を補おうとして、自分でない何者かになろうとしたことにありました。まさに、クジャクの羽根をまとったカラスの寓話のように。しかし、弱点とはそもそも苦手だから弱点なのであって、その克服は容易なことではありません。不安な時ほど自分の長所ではなく短所ばかりに目が行き、足りていないものを補うことに血道を上げてしまう。個人でも起こりがちなことではないでしょうか?

3.違いに着目し、光が差し込む

 この反省を踏まえ、湯澤さんは弱みではなく、強みを伸ばす方針に切り替えました。しかし言うは易し、強みというものはそう簡単には見つかりません。そもそもそれだったらここまで絶望的な状況に陥っていないのです。ならば、と強みではなく「違い」に着目しました。というより、違いこそ「強み」だと考えたのです。「何をやるか」よりできないことを自覚し、「何をやらないか」を考える。再び顧客層を本来の支持層だった中高年男性に絞り込み、今度はそこに徹底した店づくりをしました。そして3ヶ月に1度のペースで各店舗を改装し、成功モデルを展開していく。その結果、売上は1.5倍、利益は2倍に大幅にアップ。長い暗闇の先にようやく差し込んだ一筋の光でした。

4.BSE問題でまたピンチに

 ところが、そんな矢先にまたしてもピンチが襲います。2001年頃から世界に広がったBSE(狂牛病)問題。報道の過熱や相次ぐ牛肉偽装事件などにより、牛丼チェーンの吉野家が2004年から2008年までの長期にわたり、牛丼の販売を停止しました。当時湯澤さんの会社では吉野家のFCを5店舗展開していましたが、これらの店舗からの利益が飛んでしまったのです。

 吉野家部門のロスを補うため、居酒屋部門は徹底した合理化を進めました。その結果、湯澤さんの会社は2006年に過去最高の利益を達成。しかし、そのしわ寄せは着実に居酒屋部門を蝕んでいたのです。

 2009年1月、ある店舗で食中毒が発生してしまいます。体調を崩していたスタッフが、店に迷惑はかけられないと無理して仕事をしたことが裏目に出た結果でした。2月には、長らく糖尿病を患っていたベテラン社員が他界してしまいます。さらに追い打ちをかけるように、3月にはまたある店舗が火事で全焼してしまいます。人手不足の中、かけた火が油まみれの換気ダクトに引火したのが原因でした。わずか3ヶ月の間に立て続けに起こった災難に、さしもの湯澤さんも心が折れたと言います。

5.何のために仕事をするのか?

 心が折れた湯澤さんは事業を辞めようと決意します。そして、会社を大手に売却することについてどう思うか、何気なく従業員に聞いてみました。湯澤さんは反対が出るとは思っていなかったのですが、彼らは本気で反対したそうです。

「ここで投げ出したくなる気持ちも分かりますけど、自分たちも人生賭けてますから」

 従業員たちの言葉に湯澤さんは救われたと言います。そしてこのように次々と問題が起こったのは、経営者に問題があったからだと気付いたそうです。たった3ヶ月の間に起こった大事件もつぶさに見れば、借金返済のためだったとはいえ、利益至上主義で現場に過度なしわ寄せが行ったことが原因でした。その原因を作ったのは?すべては経営者の責任、自分が源泉、それを神様が教えてくれたのだと。

 「自分が変わらない限り、問題はまた発生する」と考えた湯澤さんは、そもそも何のために仕事をしているのかを考えます。当時の答えは、「すべてはお客様と働く仲間の笑顔と喜びのために」でした。

6.我欲の経営者

 これが映画やドラマであったなら、ここから目覚めた経営者によるV字回復の物語が始まるのでしょう。映画『ロッキー』なら「ロッキーのテーマ」のファンファーレがこだまする場面、「英雄の旅」の「変容」の時です。しかし、負債は半減したとはいえまだ20億円。目の前のことに忙殺される中、決意したところでそう簡単に変われるものでもないというのが現実を生きる生身の人間ではないでしょうか?ある日突然莫大な借金を背負わされたトラウマ、数字・実績に縛られる毎日が、分かっていても利益優先・返済優先へと駆り立てます。湯澤さんは謙虚にそれを「我欲の経営者」とおっしゃっていますが、渦中にいるものからしてみれば、「なら、どうすればいいんだ?」と言いたくなるのが本音ではないかと思います。さらに返済に邁進し、負債はついに10億円になりました。そんなある日、10年以上会社の立て直しのため一緒に頑張ってきたベテラン社員が退職を申し出てきます。その社員にこう言われたそうです、

「この会社で働いて良かったと思っています。会社と社長、お客様には感謝しています。ですが、これをあと10年続けるのは無理です。だから辞めさせてください」

7.なぜここまで来られたのか?

 湯澤さんの会社は16年かけて40億円の負債を返済しました。コロナでまた少し負債が増えたとのことですが、会社の目的は借金の返済から理念の実現へと着実に歩みを変えています。その理念とは、

「人が輝き 地域を照らし 幸せの輪を拡げます」

 では、どうしてここまで来られたのか?最後に湯澤さんの言葉をまとめます。

① 当面策と根本策を並行する
→そのための時間と場所を分けないと、目の前のことに忙殺されてしまう。
② 折れない心
→状況に対する受け止め方を自分でコントロールする
→今時分にできることは何か?できないことは受け入れるしかない
→今ここから学べることは何か?
→すべては過ぎ去っていく
→目に入るもの、耳に入るものの影響に注意
③ 恨んでいた父親の日記
→他界した父親の苦しみを知った
④ 存在理由に立ち戻る
→物心の「モノ」については大企業に及ばないが、個々の「ココロ」に対しては中小企業の方にアドバンテージがある
→自分が社会に貢献している、必要とされている実感



 湯澤さんのお話しは、企業経営のみならず、個人が力強く幸せに生きていくために根本的に重要なことが示唆されていると感じました。そして、人の心を揺さぶるものは困難を潜り抜け成長を遂げた生身の人間の物語なのだと思いました。嫌なことや辛いことは避けられません、それでも人生は素晴らしい。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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コロナ禍で得たもの、失ったものー第146回YMS

2023年01月16日 | YMS情報


 1月11日、13年目を迎える新年最初のYMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 今回の講師は、株式会社横濱屋の山本宗男社長。YMSで毎年大好評の夏のイベント、「ワインセミナー」は山本社長の多大なご協力で開催させていただいております。その意味で、YMSと大変縁の深い社長様です。

【過去のワインセミナーの様子】
2022年:真夏にガブ飲みできるスッキリ爽やかワイン
2019年:おうちで楽しめるテーブルワイン
2018年:ワインを飲んでいる時間を無駄な時間だと思うな。その時間にあなたの心は休養しているのだから
2017年:酷暑の中でさっぱり飲めるワイン特集
2016年:世界が認める勝沼甲州ワインを軸にした日本ワインとフレンチのマリアージュ
2015年:夏に合うワインと料理のマリアージュを楽しむ
2014年:注目のジャパニーズ・ワインを楽しむ
2013年:手ごろなワインと料理のマリアージュを楽しむ

 横濱屋さんは創業133年、横浜市内に食品スーパー5店舗、酒屋さん4店舗、「業務スーパー」のフランチャイズ1店舗を展開する業務用酒類販売の商社さんです。それでピンと来られる方もいらっしゃるかもしれませんが、今回のテーマは「コロナ禍で失ったもの、或いは得たもの」です。

 前述の通り、横濱屋さんは1889年(明治22年)3月に現在の横浜市南区宮元町(当時は区制前)で「山本屋」として創業されました。余談ですが、僕は南区新川町の生まれですので、1㎞ほどしか離れていない地元になります。元は近くの弘明寺観音へ参拝する人々や、鎌倉街道を往来する人々に向けてお茶屋を作ったのが始まりだそうです。その後次第に萬屋化していき、1978年(昭和53年)にはスーパーを開店。1990年(平成2年)に老舗の井藤酒舗と合併し、株式会社横濱屋と改組してから業務が拡大していったそうです。



 一方、山本社長自身は1993年に横濱屋に入社。当時社長だった叔父さんから業務のイロハを教えていただいたとおっしゃっていました。

「業務用酒販は百人百様の営業をしなければならない」
「全勝する必要はない、(相撲も)8勝7敗すれば上に上がれる」

というのは叔父さんの教えだそうです。

 しかし、その叔父さんが2017年に他界。代わって社長に就任しますが、今度は会長であるお父さんが2019年に他界。そして数字をご覧になってお分かりと思いますが、直後に新型コロナが襲います。特に横浜は港にダイヤモンドプリンセス号が停泊していたことから、いち早くコロナによるネガティブな影響を受けた地域です。その後、酒類販売を主とする飲食店が大変な困難に見舞われたのは記憶に新しいところ。

 社長に就任して日も浅く、会社の基礎を築かれた先代二人を失ってのコロナ禍。その後苦労は並大抵のものではなかっただろうと思います。2020年には酒類の売上が1/4に落ち込みました。幸い、食品スーパーとの二本柱で事業を行っていたため、全体の売上が1/4に落ち込むことにはなりませんでしたが、逆に売上減に伴う給付金も受けられず。

 「会社経営とはバトンランナーである。バトンをつなぐことが一番重要」というのは、お父様の言葉だそうですが、このような激変する環境に起死回生の一手などなく、いかに会社を守るかが至上命令でした。

 仕事が減ってしまった業務系酒販事業の人員を、お客様へのサービスレベルを落とさないよう配慮しながらスーパー事業へ回すことで雇用を確保。2020年度、2021年度と連続の赤字に見舞われましたが、2022年度は何とか黒字回復できそうだとのことでした。



 このように、コロナによって失ったものもある代わりに、得たものもあると山本社長はおっしゃいます。一つには、業務系酒販事業の人員がスーパー事業を経験することにより、今まで知らなかった別事業の苦労をお互いに理解する契機となったこと。また組織としても柔軟に対応する風土も生まれました。さらには、お客様との絆。特に非常に苦労されている飲食店様にスーパー事業の強みを活かして当時不足していたマスクを提供したことは、大変喜ばれたそうです。四つ目として、仕事環境が激変することにより、目の前の仕事に忙殺されてきた日常から少し距離を置くことができたこと。それがそれまで当たり前と思ってきた業務を見直す良い時間となったそうです。まとめて言えば、本業により深く向き合えるようになったと。

「総じてみれば失ったものより得たものの方が大きい」

と、山本社長はおっしゃっていました。

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2022年もありがとうございましたー第145回YMS

2022年12月15日 | YMS情報


 12月14日、横浜中華街「菜香新館」にて、第145回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)忘年会を開催しました。菜香新館は過去13回の忘年会で4回目となります。

第41回YMS
第65回YMS
第115回YMS

 145回の延べ参加者総数は1,603名。今年は以下のようなセミナーを開催しました。2019年(沖縄)以来の地方開催も再開することができました。

1月:願望とモチベーションープラス思考の落とし穴
2月:リスク管理の課題とヒント
3月:自社を守り強くする。人事労務に役立つ!誰でも簡単に学べる!身につく!『刑事スキル7つの法則』
4月:元刑事が見た発達障害と身体知 自傷・他害・パニックを防ぐ90日アクションプログラム
5月:なぜ関わり方って必要なのか?社員を活かすも殺すもあなた次第
6月:私のきもの革命!日本のきものを未来へつなぐために
7月:働きがいある組織づくり~自組織のやりがい環境を考える~
8月:真夏にガブ飲みできるスッキリ爽やかワイン
8月:大阪「オオサカジン」様との交流会(大阪開催)
9月:母子世帯の貧困とシングルマザーの自立について
10月:主力サービスのピボットと社名変更に至る道のり~地方創生の現状と私たちが目指す地域活性化~
11月:三菱重工グループのものづくりと、みなとみらいの変遷



 来年も定例のセミナーは既に決まっており、たくさんの興味深いテーマをご用意しておりますが、地方開催もより増やしていきたいとも思っております。みなさまお誘いあわせの上、来年もどうぞお気軽にご参加ください。今後ともYMSをよろしくお願いいたします。

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菜香新館



神奈川県横浜市中区山下町192



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大人の社会科見学-第144回YMS

2022年11月10日 | YMS情報


 11月9日、13年目に突入したYMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)初の試みとして、いつものセミナー会場を飛び出した大人の社会科見学、「三菱みなとみらい技術館」見学ツアーを開催しました。実はこの企画、当初は2020年3月に実施する予定だったのですが、コロナの影響で延期。その後再延期を経てようやく実現しました。



 講師の三菱みなとみらい技術館営業・連携/広報グループ長、佐野麻季様、ご協力いただいた三菱重工様にはこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。





 さて、館内に入ると最初にHⅡ-Aロケットの1/10模型と回収されたフェアリング(ロケットの先端部)の実物が出迎えます。HⅡ-Aロケットは直径4m、全長53mありますので、1/10スケールでもキリンより大きいのです。早くもワクワクしてきます。



 初めに、全幅が15mもある大型スクリーンで、ロケットの製造から打ち上げまでの流れを見ました。1年半かけ技術の粋を集めて製造されるロケットも、打ち上げ後のミッションはわずか十数分。儚い気もしますが、それだけ宇宙に出ていくというのは簡単ではないということですね。因みに、ロケットが地球の重力に抗して宇宙に出ていくには、秒速11.2㎞以上の速度が必要です。つまり、289トンあるロケットをわずか47秒で東京から大阪まで(約500㎞)運べるほどのパワーが必要になるのです。



 したがって、ロケットはなるべく軽く、しかも丈夫に作らなければなりません。上の写真は、アルミ合金製の燃料タンクの一部です。軽量化と強度を両立させるため、内側が正三角形のリブで補強されています。これを「アイソグリッド構造」と言うそうです。しかもリブは、プレスや溶接ではなく厚板を削り出して作るのだとか。アイソグリッド構造は、缶チューハイ「氷結」や缶コーヒー「FIRE」などの「ダイヤモンドカット缶」にも応用されています。この話は子供より大人の方が感心するかもしれません。



 HⅡ-Aロケットのエンジン(LE-7A)。実際に燃焼実験に使われたものが展示されており、ところどころ焼けただれているのが分かります。隣には前身のHⅡロケットのエンジン(LE-7)も展示されおり、LE-7Aの方が小型化されているのが分かります。液体水素と液体酸素を燃焼させ、温度は3,000度にも達するそうです(HⅡ-Aの“H”は水素を表しています)。このエンジンを搭載しているロケットの第一段が使われるのは、打ち上げ後わずか6~7分のことですが、燃焼実験ではスカート部が30分まで耐えられる基準を課しているそうです。なお、3,000度の高温にスカート部が耐えられるのは、内側の溝の部分に液体水素を送り込んで冷却しているからだそうです。この部分に僅かなチリでも入ると爆発の恐れがあるため、非常に厳しいクリーンルームで製造されます。



 右からHⅡ-A、HⅡ-B、HⅢの1/25模型。HⅡ-Aは2023年に退役し、後継機HⅢに引き継がれる予定でしたが、延期となっているとのこと。



 宇宙ステーションに水や食料、実験装置などの物資を届ける、宇宙ステーション補給機(こうのとり)の模型。



 国際宇宙ステーションの日本の実験モジュール「きぼう」の内部様子を体験できる模型。ここに通常は2名で作業をするそうです。



 三菱スペースジェットの模型。元々は三菱リージョナルジェット(MRJ)として知られていましたが、2019年に名称変更したそうです。YS-11以来の国産旅客機であり、日本初のジェット旅客機でしたが2020年に事実上の開発凍結となりました。非常に残念で、ぜひ復活して欲しいです。



 宇宙、空ときて、今度は海へ。有人深海調査船「しんかい6500」の模型です。僕が子供の頃は「しんかい2000」の時代でしたが(2004年引退)、しんかい6500は1989年に就航、現在世界で2番目に深く潜れる潜水調査船だそうです。6,500mまで潜るには2.5時間必要で、帰りも同じくらいだとすれば往復だけで5時間、運用時間が規定で8時間となっているため、実質の作業時間は3時間となります。全長9.7m、幅2.7m、高さ3.2m(コックピットは直径2mの球体)、この狭い空間に2名~3名で8時間。かなり過酷な任務と言えます(トイレも当然食堂もありません)。ただこのコックピットみたいなカプセルホテルがあったらぜひ泊まってみたいです。



 ここみなとみらい地区はかつて三菱重工横浜造船所でした。上の写真は造船所二号ドックで使われていた石だそうです。こんな立派な石が使われていたとは知りませんでした。なお、二号ドックは現在ランドマークタワーの麓のドックヤードガーデンとして生まれ変わっています。



 最後に。2025年に大阪万博が開かれますが、こちらは1970年の大阪万博の際、三菱未来館が予想した50年後、すなわち一昨年2020年の世界だそうです。

・労働時間1日4時間、肉体労働は姿を消す
・ガン克服
・うなぎの完全人工養殖
・台風の制圧
・蛇口から牛乳、料理は自動
・人気のスポーツはグライダーと海底散歩
・住宅は筒形でゆっくりと回転する
・壁掛けテレビや電子頭脳が普及
・仕事は完全自動化

 どうして蛇口から牛乳が出るようになると思ったのでしょうね…。



 社会科見学、遠足と言えばお楽しみはお弁当の時間。それが大人になるとお酒になります。

三菱みなとみらい技術館



神奈川県横浜市西区みなとみらい3-3-1



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山に登れば次の山が見えるー第143回YMS

2022年10月13日 | YMS情報


 YMSはこの10月で丸12年を迎え、13年目に入りました。これまで講師をしていただいた108名の皆さま、ご参加いただいたのべ2,569名の皆さまに心より御礼申し上げます。そして去る10月12日、スマートレンタルスペースbelle関内601にて第143回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催いたしました。



 今回の講師は、ローカルパワーエンジン株式会社代表取締役、曽根田太郎様。「主力サービスのピボットと社名変更に至る道のり~地方創生の現状と私たちが目指す地域活性化~」と題してお話しいただきました。

 お話しは今日の事業内容に至る経緯から始まりました。曾根田さんは初め会計系コンサルティング会社に就職され、その後大手不動産ポータルサイト運営会社で新築分譲戸建事業会社向け営業をご経験。さらに、不動産・住宅業界のネット集客のコンサルティング会社で経験を積まれました。2015年に現在の会社の前身となる株式会社追客力を設立、ネット反響の歩留まりを向上させる追客支援ツールの提供を始められました。

 変化のきっかけは、たまたま同時期に親の介護のため退職された女性、介護職を辞め事務職に転職された妹さん、そして奥様のお仕事についてと、3人の女性の転機に遭遇するにあたり、男女の所得格差を痛感されたこと。さらには、大手マーケティング・オートメーションサービスが次々と市場参入する中で、当初は画期的だった追客支援ツールにも陰りが見えていたことから、「このままでいいのか?」という問題意識を持たれたことにあったそうです。

 そこでこれまでの経験からご自身の強みを見直した結果、WEBマーケティングと不動産・住宅業界に対する造詣、ニュースレターの継続力の三つが浮かび上がってきたそうです。これら強みを鍵とすれば、錠である不動産・住宅業界には、全てではないにせよ当時コツコツと積み上げていく地味な仕事が苦手、WEBにはあまり強くない、売上至上主義という特徴がありました。この鍵と錠を掛け合わせた結果、コツコツとした積み上げ型仕事の代行、顧客第一主義の見える化と浸透、女性のスキルアップおよび所得向上支援という可能性が開きました。そうして誕生したのが今日のテーマである「地方創生」に連なる、地元密着型の不動産・住宅会社に代わって地元の魅力を紹介する記事を作成・発信する「地元紹介丸投げパック」です。ここでは地元の女性ライターがブログ形式(一部Instagramも活用)で情報を発信していきます。このサービスの良いところは、クライアントは集客、顧客フォロー、地域活性の姿勢を打ち出したブランディングにつながり、ライターは収入とスキルアップに加えて、地元愛の向上にも寄与し、閲覧者はお店の集客や定住者の増加、おなじく地元愛の向上などが期待できるという点です。

 そしてこれが本日のテーマに繋がる二つ目のきっかけは、3年前、ある人から「これは『地域活性化』そのものではないか?」と言われたことだそうです。ちょうど、2014年に発足した第二次安倍内閣が、東京一極集中の是正、地方の人口減少阻止、日本全体の活力向上を目的とした「地方創生」を政策の柱の一つとして掲げ、数年が経過した頃でした。

 さて、その目玉政策の一つである地方創生ですが、既にさまざまな失敗事例が明るみになっていました。自治体主導の地方創生事業の典型は箱モノづくり、イベント開催、第六次産業化推進、ふるさと納税促進などですが、計画がずさんであったり、効果が限定的か一過性のものであったり、ノウハウがないためコンサルに丸投げであったり、上手くいかない要因は様々です。また、地方創生を掲げる民間企業も数多くありますが、補助金ビジネス化している面も否めません。

 一方で成功している事例もあります。成功事例の特徴をまとめると次のようなことが浮かび上がってきました。

1.民間主導の場合が多いこと
2.地元のリーダーが推進役を担っていること
3.地域独自の資源を活用していること

 一言で言えば、地元の人間が当事者となり自らを活かしているということです。

 それならば、地元のリソースを結び付け地域活性化するために「地元紹介丸投げパック」が活かせるのではないか?そこから、社名を現在のローカルパワーエンジン株式会社に変更するに至りました。今年4月のことです。新しい会社のロゴは、地元企業、地域住民を結び付け地域活性する意味を象徴しています。つまり、地元紹介丸投げパックを媒介にして、地域内発的に新事業創生、既存事業活性、雇用創出へとつなげていこうというモデルです。さらに最近では、自社で培った採用ノウハウを活かし、採用オウンドメディア運用代行へとサービスを広げています。

 今回のお話をまとめると、全ては「このままでいいのか…」という問題意識から始まりました。その上で、自らの強みとそれを活かせる市場について、広く深く洞察していきます。そしてやるべきことが見えたなら、不確実な要素が残っていても動くこと。「山を登ると次の山が見える」とおっしゃっていましたが、最初は行く先が見えていなくても一歩を踏み出すということです。こうしたことは、いかなる業種に身をおく者であっても当てはまるのではないかと思いました。


 
 我々YMSも12年で143回を数え、紹介のリレーで繋いできた講師だけでも108名になります。この蓄積をまだまだ活かしきっていないように思います。そこで、あらためて12年前の設立趣旨を振り返ってみましょう。

<YMSの価値観>

 1859年に開港する前、横浜はわずか100軒足らずの小さな漁村に過ぎませんでした。しかし、それから150年を経て、現在では350万都市にまで成長しています。その原動力をわたしたちは、横浜が未知なる世界に進んで飛び込む自立心と好奇心をもち、常に流れ込んでくる新しい文化や人に対して心を開きつつも、地域に人一倍の愛着を持ってつながりを大切にする気風をもった人々が集い、和洋折衷した独自の文化を創造してきたことにあったのではないかと考えています。

 わたしたちは、20年の長きにわたって閉塞感漂うわが国を再び前向きにするものこそ、この横浜が育んだ気風であると考え、こうした気風をもつ人を出自によることなく”濱っ子”と呼び、特に事業活動に携わる”濱っ子”を”濱っ子マネージャー”と呼ぶことにしました。

 ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー(YMS)は、”濱っ子マネージャー”が集い、切磋琢磨できる場を提供することで、”濱っ子”の気風を広め、社会に貢献することを目指します。

<YMSの活動内容>

・YMSは、”濱っ子マネージャー”や”濱っ子マネージャー”を志す人が低負担で、頻繁に交流できる「活力ある場」を提供します。
・YMSは、”濱っ子経営”注)を学ぶ勉強会を主催します。参加者は各々の嗜好に応じ、参加を自発的に選択することができます。
・YMSは、これら交流の場や勉強会を参加者の主体性によってつくりあげます。

注)”濱っ子経営”とは、上記の価値観に基づき、社会の活性化を志す経営のことです。

過去のセミナーレポートはこちら

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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