窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

AI時代の数学の楽しみー第120回YMS

2020年11月12日 | YMS情報


 気がつけば、銀杏が色づき、世の中も冬の装いです。さて、先月10周年を迎えたYMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)ですが、11月11日、さらに節目となる第120回YMSをmass×mass関内フューチャーセンターにて開催しました。

 今回の講師は、YMS創設メンバーであり最年長の㈱エルデータサイエンスの山口行治さん。曰く、山口さんにとってYMSとは、「自分はまだまだだと思っている人の集まり」。そんな山口さんが「120回やってきたけど、『数学』がテーマだったことがないよね?(注)」ということで、今回のテーマは、「AI時代の数学の楽しみ-経営戦略の数理」。

注:数学ではなく、会計など「数字」を扱ったテーマということであれば何回かあります。

 さて、数学が苦手な人にとって、数学の世界およびそこに住んでいる人たち(数学が得意な人)というのは、何となく自分は入っていけないのではという近寄りがたさを感じるのではないかと思います。子供の頃、数学が得意な友達に問題の解き方を聞いても、何のことを言っているのか分からない宇宙語のような感覚、理解できないことによる無力感…。「オイラーの定理の美しさ」なんて言われても、「いったい何の話だ?」という感じです。数学が好きな人というのは、数学の何が楽しいのか?山口さん自身は、「それが何かの役に立った時」だと言います。そして、「数学は気長に楽しめばよい」と。子供の頃、あっという間に授業についていけなくなった絶望的記憶、我々もいい加減その桎梏を取り払って良い年頃なのかもしれません。

 山口さんにとって、好きだからやっていた数学が役に立つことによって楽しいと感じられたエピソードとして、40年以上も前、まだPCなど存在しなかった時代にアメリカの統計プログラムを変更して日米貿易摩擦の問題解決に貢献できた話、また20年以上前に当時の日本の製薬会社においてより丁寧な計算を行うことにより、新薬開発リスクを大幅に低下させた話などがありました。それこそ、個人の計算が数億円規模で役に立つわけですから、凄い話です。我々の身の回りを見ても、元々は人間の頭の中の数学だったという技術やサービスで溢れています。



 数学というと、厳密な定義と式でただ一つの解を導くという論理的なイメージがあります。確かに2000年以上続く長い数学の歴史の中で問題解決としての数学の側面は大きいですが、数学にはもう一つ問題発見の側面もあります。今回のお話しでは前者を「論理」、後者を「数理」と呼んで区別していました。後者の側面は、いうなれば「証明はできなくとも、『こうではないか?』という仮説の下で計算を繰り返し未知の物事を解明していく」プロセスと言えるのではないかと思います。例えば、2012年にその存在が確認され話題となった、物質の質量を決めるヒッグス粒子は、1964年には計算上の仮定として提唱されていました。仮説と計算によって未知の地平を切り開くのも数学ということですね。数学というのは人間の思考を形にしていくツールと言えるのかもしれません。「第45回燮会」で採り上げた「ベイズの定理」もその一つです。山口さんの言葉を借りれば、「論理は証明、数理は『気づき』の技術」だと言えます。

 特に近年、AIの発達によって膨大な計算が短時間にできるようになり、かつそうして得られた情報がますます安価に入手できるようになっています。そうすると、人間はかつて計算に費やしていた膨大な時間と労力を問題発見、つまり気づきの方に費やすことができるようになります。ビジネスの世界においても、経営戦略はこれまで論理の側面から展開してきました。今後はそれに加えて数理の側面がますます重要になるのかもしれません。どんな人でも数学的な思考が必要であり、「文系/理系」の区分自体がナンセンスであるように思えます。

 今回参加された多くの方が「(話が)難しかったけれども、楽しかった」とおっしゃっていましたが、それこそ数理的な考え方が「気づき」の技術であるところの所以なのかもしれません。

過去のセミナーレポートはこちら

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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