都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
東京交響楽団 「ブルックナー:交響曲第8番」 11/12

ブルックナー 交響曲第8番
指揮 ユベール・スダーン
2005/11/12 18:00 サントリーホール2階
東響の顔としてすっかり定着した感のあるスダーン。彼の手がけるブルックナーはとても優れていると耳に挟んだので、先日初めて聴いてきました。曲はブルックナーの一連のシンフォニーの中でも、特に重厚長大な第8番。ノヴァーク版第2稿にての演奏でした。
スダーンのブルックナーは確かに充実していました。一言で言い表せば、とても見通しの良く、大変に美しいブルックナーです。スダーンは、一つ一つのフレーズを全く疎かにすることなく、巧みに情感を付けて、音に魂を注入していきます。と言っても、決して感情没入に一辺倒の演奏ではありません。音の強弱や全体のテンポの変化などは、殊更強く提示することがないので、結果とした全体の流れは、実に流麗に仕上がります。美しい弦のカンタービレを響かせたと思いきや、その上に優しい木管の軽やかな響きをのせる。金管群は比較的抑制的に、ともすれば響き過ぎることもあるこのホール音響を熟知しているかのように、穏やかに息長く鳴らしていきます。この曲の一種のクライマックスでもある第三楽章の究極の強奏部や、第四楽章のコーダの勇ましい音の大行進では、それこそ全身の力を振り絞るかのように、オーケストラへエネルギーの波動を与えるのですが、それでもやはりそこから紡がれる音楽の束は、決して限界を超えた、言い換えればブルックナーの音楽にて良く使用される言葉でもある、「神」や「彼岸」へ到達することがないのです。鳥のさえずりや川のせせらぎの音が聞こえる人里離れた森の小径にて、ブルックナーが笑顔で愉しく散歩する。そんなイメージが湧いてきます。(それはそれで怖いかもしれませんが…。)
音楽は終始インテンポで、実にキビキビと進行しますが、先ほども書いたように、各フレーズに豊かな情感をこめてしっかりと表現していくので、単純にサラッと流れてしまうことはありません。このテンポ感で、息の長いフレーズを明瞭に聴かせること。さらにはゆとりのある「ブルックナー休止」をとること。それらが驚くほど美しく自然に表現されるのです。瑞々しい弦の煌めきと、ふくよかな木管金管の膨らみ。何かと神々しく表現されるこの曲が、これほどに人懐っこい表情にて、さらには柔らかに響いてくるとは思いませんでした。
東京交響楽団も、スダーンの指示に的確に反応していきます。隅々まで解釈が行き届いているのか、ピアニッシモでの繊細な美しさやフォルティッシモでの咆哮の全てが、自然体に表現されます。一つ気になったのは、全体の重厚感の不足でしょうか。(かなりこぢんまりと響きます。)また、あともう一歩、コントラバスの下支えとティンパニに強さがあればとも思います。ただ、弦、特にバイオリンとチェロ、そしてトランペットの正確さには驚きです。音楽監督スダーンの求める音作りが浸透し始めてきたのでしょうか。大変に失礼ながら、これまでの東響のイメージが大分変わりました。
今年何回かホールでブルックナーを聴いてきましたが、その中では最も心にしみ入る演奏でした。今度もこのコンビには接し続けていきたいです。
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