都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「やなぎみわ展」 原美術館 10/29
原美術館(品川区北品川)
「やなぎみわ -無垢な老女と無慈悲な少女の信じられない物語- 」
8/13~11/6
原美術館で開催中のやなぎみわの個展です。彼女の作品は、これまでに何点か拝見したことがありますが、まとまった形で見るのは今回が初めてです。かなり前々から気になっていた展覧会でしたが、先日、ようやく見ることが出来ました。
二律背反的とも言える少女と老女が、画面の中で劇を繰り広げる「寓話」シリーズ。それが今回の展覧会の目玉です。どれも極めて物語性を感じさせる作品ばかりで、何らかの前提知識を持っていなくても、スッとその作品世界へ入り込むことができます。美術館の入口すぐの展示室に置かれていた、真っ黒な、まるでテント小屋のような作品は、ビデオ・インスタレーションの「砂少女」(2004年)です。荒涼とした砂漠の中で、テントを頭から被りながら戯れる二人の少女。この約5分ほどの映像は、展覧会全体の奇怪な雰囲気のイメージを、大変に効果的に植え付けます。優れた導入です。
グリムやアンデルセン童話に基づく「寓話」シリーズでは、表裏一体の老女と少女によって作られた劇の核心が、モノクロの写真に無骨に表現されていきます。少女によるモデルは、童話の悪役としての老女と、善玉としての少女に分かれて、それぞれに劇を演じます。一見純粋無垢な少女が、悪魔的な表情を浮かべながら、悪役としての老女を襲う。役柄における元来のイメージは、半ば倒錯される形で行為そのものの凄みを伝えて、見る者に強烈な違和感や恐怖感を与えます。無垢な少女の無慈悲な行い。タイトルの「無垢な老女と無慈悲な少女の信じられない物語」のイメージが浮かび上がります。
Gallery5でのビデオ・インスタレーション「砂女」(2005年)は、砂女という極めてお伽話的な、半ば伝説上の架空の存在を通して、少女と老女の「無垢」と「無慈悲」をつなげる作品です。砂女は、展覧会の初めにも出てきたようなテントを頭から被り、老いた手と少女のような足を持っています。そこには、老若の対立項は消え去っていて、語り手の老婆と、聞き手の少女は、半ば表裏一体となっていきます。「砂女に合いたい。」として、砂女を探しにいく少女の姿。「砂女」の残滓には海の匂いが残っていたというフレーズが特に印象的でした。
どの作品も、特殊メイクによって「老」を作り出した少女による寓話劇を、そのままビデオや写真に置き換えたものですが、そこから生み出されるイメージは、かなりに自由に広がります。丁度、象徴派の作品を前にした時に、その背景にある物語に自由に思いを馳せるような、そのような気持ちを味わうことも出来ます。
かつて生活の場所であった原美術館そのものが持つ特有の雰囲気は、寓話の少女と老女が、今もここに暮らしているかのような不気味さすら生み出します。振り返ればそこに砂女がいる。来館者によるギシギシという足音が、まるで砂女の足音のように聞こえます。今月の6日までの開催です。
「やなぎみわ -無垢な老女と無慈悲な少女の信じられない物語- 」
8/13~11/6
原美術館で開催中のやなぎみわの個展です。彼女の作品は、これまでに何点か拝見したことがありますが、まとまった形で見るのは今回が初めてです。かなり前々から気になっていた展覧会でしたが、先日、ようやく見ることが出来ました。
二律背反的とも言える少女と老女が、画面の中で劇を繰り広げる「寓話」シリーズ。それが今回の展覧会の目玉です。どれも極めて物語性を感じさせる作品ばかりで、何らかの前提知識を持っていなくても、スッとその作品世界へ入り込むことができます。美術館の入口すぐの展示室に置かれていた、真っ黒な、まるでテント小屋のような作品は、ビデオ・インスタレーションの「砂少女」(2004年)です。荒涼とした砂漠の中で、テントを頭から被りながら戯れる二人の少女。この約5分ほどの映像は、展覧会全体の奇怪な雰囲気のイメージを、大変に効果的に植え付けます。優れた導入です。
グリムやアンデルセン童話に基づく「寓話」シリーズでは、表裏一体の老女と少女によって作られた劇の核心が、モノクロの写真に無骨に表現されていきます。少女によるモデルは、童話の悪役としての老女と、善玉としての少女に分かれて、それぞれに劇を演じます。一見純粋無垢な少女が、悪魔的な表情を浮かべながら、悪役としての老女を襲う。役柄における元来のイメージは、半ば倒錯される形で行為そのものの凄みを伝えて、見る者に強烈な違和感や恐怖感を与えます。無垢な少女の無慈悲な行い。タイトルの「無垢な老女と無慈悲な少女の信じられない物語」のイメージが浮かび上がります。
Gallery5でのビデオ・インスタレーション「砂女」(2005年)は、砂女という極めてお伽話的な、半ば伝説上の架空の存在を通して、少女と老女の「無垢」と「無慈悲」をつなげる作品です。砂女は、展覧会の初めにも出てきたようなテントを頭から被り、老いた手と少女のような足を持っています。そこには、老若の対立項は消え去っていて、語り手の老婆と、聞き手の少女は、半ば表裏一体となっていきます。「砂女に合いたい。」として、砂女を探しにいく少女の姿。「砂女」の残滓には海の匂いが残っていたというフレーズが特に印象的でした。
どの作品も、特殊メイクによって「老」を作り出した少女による寓話劇を、そのままビデオや写真に置き換えたものですが、そこから生み出されるイメージは、かなりに自由に広がります。丁度、象徴派の作品を前にした時に、その背景にある物語に自由に思いを馳せるような、そのような気持ちを味わうことも出来ます。
かつて生活の場所であった原美術館そのものが持つ特有の雰囲気は、寓話の少女と老女が、今もここに暮らしているかのような不気味さすら生み出します。振り返ればそこに砂女がいる。来館者によるギシギシという足音が、まるで砂女の足音のように聞こえます。今月の6日までの開催です。
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「やなぎみわ展のイメージケーキ」 カフェ・ダール 10/29
「カフェ・ダール」
原美術館
やなぎみわ展のイメージケーキ
東京の美術館の併設カフェとしては、あまりにも有名なカフェ・ダールです。ガラス張りのテラス席は、晴れていれば燦々と陽光が差し込んで、とても心地よい空間となります。中庭に置かれた作品、例えばソル・ルウィットの「不完全な立方体」などを横目にしながら、つい長居してしまうような、とてものんびりとした雰囲気。もちろん、中庭内の屋外席を利用することも可能です。(カラスが少々気になりますが…。)フルボトルのワインの付いたセットをテーブルに並べ、顔を赤めながら、愉しそうに会話しているグループも良く見かけます。
ランチは、セットメニューで約2000円前後と、美術館併設カフェとしてはやや高めでもありますが、価格に見合ったレベルの料理も提供されるということで、わざわざ入場料を払って、食事のみを楽しむ方もいらっしゃるようです。(ランチの記事はまた次の展覧会の際にでもアップしたいです。)
この日は、食事は他で済ませていたので、カフェ・ダール一番の名物メニューでもあるイメージケーキを注文しました。ちなみに、イメージケーキとは、その名の通り、展覧会のイメージに見合って作られるケーキのことで、当然ながら毎回変わります。やなぎみわの奇怪な作品をどうケーキに作り替えるか、これはなかなか見物です。
ということで運ばれてきたのはこちらです。作品「砂女」風でしょうか。
コーヒーとのセットで1000円ほどです。
マンゴーのムースをベースにしています。お味は、作品の奇怪なイメージとは少々異なりますが、なかなか美味です。
チョコのムースか何かで仕立てて、もっと重厚感のあるお味にした方が、作品にピッタリかと思いましたが、如何でしょうか。
ケーキを食べながら、展覧会にも思いを馳せる。この日も、原美術館ならではの楽しみ方を充分に味わうことが出来ました。
原美術館
やなぎみわ展のイメージケーキ
東京の美術館の併設カフェとしては、あまりにも有名なカフェ・ダールです。ガラス張りのテラス席は、晴れていれば燦々と陽光が差し込んで、とても心地よい空間となります。中庭に置かれた作品、例えばソル・ルウィットの「不完全な立方体」などを横目にしながら、つい長居してしまうような、とてものんびりとした雰囲気。もちろん、中庭内の屋外席を利用することも可能です。(カラスが少々気になりますが…。)フルボトルのワインの付いたセットをテーブルに並べ、顔を赤めながら、愉しそうに会話しているグループも良く見かけます。
ランチは、セットメニューで約2000円前後と、美術館併設カフェとしてはやや高めでもありますが、価格に見合ったレベルの料理も提供されるということで、わざわざ入場料を払って、食事のみを楽しむ方もいらっしゃるようです。(ランチの記事はまた次の展覧会の際にでもアップしたいです。)
この日は、食事は他で済ませていたので、カフェ・ダール一番の名物メニューでもあるイメージケーキを注文しました。ちなみに、イメージケーキとは、その名の通り、展覧会のイメージに見合って作られるケーキのことで、当然ながら毎回変わります。やなぎみわの奇怪な作品をどうケーキに作り替えるか、これはなかなか見物です。
ということで運ばれてきたのはこちらです。作品「砂女」風でしょうか。
コーヒーとのセットで1000円ほどです。
マンゴーのムースをベースにしています。お味は、作品の奇怪なイメージとは少々異なりますが、なかなか美味です。
チョコのムースか何かで仕立てて、もっと重厚感のあるお味にした方が、作品にピッタリかと思いましたが、如何でしょうか。
ケーキを食べながら、展覧会にも思いを馳せる。この日も、原美術館ならではの楽しみ方を充分に味わうことが出来ました。
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