都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「アノニマス・ライフ」 ICC
NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)
「アノニマス・ライフ 名を明かさない生命」
2012/11/17-2013/3/3

NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)で開催中の「アノニマス・ライフ 名を明かさない生命」へ行ってきました。
アノニマスと聞いて思い出すのは、しばらく前に話題を集めた国際的ハッカー集団。そもそも「アノニマス」(anonymous)とはギリシャ語の接頭語an(~なしの)にonyma(名前)を組合せ、「名前がない」ということを意味します。
もちろん本展はハッキングの展覧会ではなく、匿名や「名前がない」を意味する広義のアノニマスを問うもの。
名付けえない生命、また社会の諸相(セクシャリティーやアイデンティティなど。)に存在する曖昧な境界、揺らぎに目を向け、それを表現しようという試みです。
新進気鋭、主にメディアアートを舞台にする以下の7組のアーティストが出品していました。
やなぎみわ
渡辺豪
高嶺格
スプツニ子!
齋藤達也+石黒浩
毛利悠子
オルラン
さて初めにチラシのテキストから色々とややこしいことを引用しましたが、ずばり言ってしまうとこの展覧会、感覚的にとても楽しめます。
まずはやなぎみわから代表的な「エレベーターガール」のシリーズが。

やなぎみわ「案内嬢の部屋3F」1998年
狭く閉ざされた空間で溶け出すエレベーターガール。現実と幻の狭間を彷徨うようなイメージ、同じくマネキンのような女性の並ぶ「案内嬢の部屋」(1997)に通じるものがあります。
さて同じく狭間といえば、人間か機械なのか、一瞬迷ってしまうほど精巧に出来た石黒浩の「米朝アンドロイド」(2012)。いうまでもなく桂米朝のアンドロイドに他なりません。

「米朝アンドロイド」2012年 制作指揮:石黒浩
こちらは桂米朝の米寿記念に作製されたというロボットですが、ともかくしばらく眺めていると、それこそ本物の桂米朝と見間違うほどにリアル。すっと開く口、そしてひくっと動く肩、さらには右へ左へと小刻みに曲がるクビなどが、それこそほぼ完璧なほどに再現されています。
さらに虚が現実を侵食せんとするのが、その横にある桂米朝の舞台の映像。多少の種明かしになってしまうのであえて触れませんが、もはや驚異の世界。その出来に少し怖くなってしまうほどでした。
さて自らの身体へ積極的に介在して「生」の在り方を問うオルランの作品は迫力があります。

オルラン「これが私の身体…、これが私のソフトウェア」1993/2007年
彼女は何と自身の整形手術をパフォーマンスして表現、その様子を写真ばかりか映像に記録して配信します。
切除した肉片までを作品にするという試み。展示はもはやグロテスクですらありましたが、美と醜、その境界とは何ぞやということを身体をはって探ろうとする心意気には感心しました。
展示中、最も華やかでありながら、それでいて社会の根底にある問題に切り込んでいたのが、お馴染みのスプツニ子!でしょう。
作品は3点、「菜の花ヒール」、カラスボット☆ジェニー」、そして「生理マシーン、タカシの場合。」です。

スプツニ子!「菜の花ヒール」2011-2012年
黄色の菜の花がうず高く積まれた「菜の花ヒール」。一見、とてもポップな作品ですが、実はこれ、菜の花には放射性物質を吸収する働きがあることに着目し、ヒールの先に種を埋め込んで、歩くと花が咲いていくというアイデアを体現したもの。
美しい黄色の菜の花に潜む放射能汚染の脅威。言うまでもなく、原発事故の惨劇を思い出してなりません。
「生理マシーン、タカシの場合。」はセクシャリティーの問題に切り込んだ意欲作。
女性に憧れる少年タカシへ何と生理の痛みを実際に経験させるパフォーマンス、夜の街に繰り出したタカシの下腹部に激痛が走る様子が映し出されていました。

高嶺格「Ask for aTrade」1993年
来年、水戸芸術館で個展も予定されている高嶺は映像1点。NYで路上生活を行う人々と衣服を交換しながら友人宅を目指すというパフォーマンスを捉えた「Ask for a Trade」(1993)が出品されています。
ラストを飾るのは今年、MOTのブルームバーグ・パヴィリオンでも展示のあった毛利悠子のインスタレーション、「fort-da」(2012)が。

毛利悠子「サーカス」展示風景(参考図版)2012年 東京都現代美術館
PC、楽器、ライト、電線、歯車、ロープ、その他諸々、一見関係ないような機械や道具が、それこそ人体の神経組織を再現するかの如く有機的に連関。
打ち抜いた壁の向こうから滑車を伝ってやってくるロープ。その動きは淡々と、それでいながら永遠に止まることもありません。まるでこのオペラシティという建物に寄生するサイボーグ、機械生物であるかのようでした。
ICCのオープンスペースでは20点以上のメディアアートも。あわせて楽しむのも良さそうです。
久々にICCへ行きましたが、予想以上にはまりました。おすすめ出来ます。
【関連イベント】
・パフォーマンス「模像と鏡像 - 美容師篇」
作・演出:齋藤達也
出演:リプリーQ2(アンドロイド)、小林慎(美容師)
日時:2012年12月15日(土)15時から。
協力:石黒浩(大阪大学大学院教授)
技術協力:小川浩平(大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻特任助教)
・アーティスト・トーク「齋藤達也×石黒浩」
出演:齋藤達也、石黒浩(大阪大学大学院教授,ロボット工学)
日時:2013年1月19日(土)15時より
定員:70名(先着順)
*ともに会場はICC4階の特設会場。入場無料。(展示を観覧する場合は要チケット。)
2013年3月3日まで開催されています。
「アノニマス・ライフ 名を明かさない生命」 NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)
会期:2012年11月17日(土)~2013年3月3日(日)
休館:月曜日。(月曜が祝日の場合は翌日。)。年末年始(12/28~1/4)、保守点検日(2/10)。
時間:11:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般・大学生500(400)円、高校生以下無料。割引クーポン。
*( )内は15名以上の団体料金。会期中1回に限り再入場可。
住所:新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4階
交通:京王新線初台駅東口から徒歩2分。
「アノニマス・ライフ 名を明かさない生命」
2012/11/17-2013/3/3

NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)で開催中の「アノニマス・ライフ 名を明かさない生命」へ行ってきました。
アノニマスと聞いて思い出すのは、しばらく前に話題を集めた国際的ハッカー集団。そもそも「アノニマス」(anonymous)とはギリシャ語の接頭語an(~なしの)にonyma(名前)を組合せ、「名前がない」ということを意味します。
もちろん本展はハッキングの展覧会ではなく、匿名や「名前がない」を意味する広義のアノニマスを問うもの。
名付けえない生命、また社会の諸相(セクシャリティーやアイデンティティなど。)に存在する曖昧な境界、揺らぎに目を向け、それを表現しようという試みです。
新進気鋭、主にメディアアートを舞台にする以下の7組のアーティストが出品していました。
やなぎみわ
渡辺豪
高嶺格
スプツニ子!
齋藤達也+石黒浩
毛利悠子
オルラン
さて初めにチラシのテキストから色々とややこしいことを引用しましたが、ずばり言ってしまうとこの展覧会、感覚的にとても楽しめます。
まずはやなぎみわから代表的な「エレベーターガール」のシリーズが。

やなぎみわ「案内嬢の部屋3F」1998年
狭く閉ざされた空間で溶け出すエレベーターガール。現実と幻の狭間を彷徨うようなイメージ、同じくマネキンのような女性の並ぶ「案内嬢の部屋」(1997)に通じるものがあります。
さて同じく狭間といえば、人間か機械なのか、一瞬迷ってしまうほど精巧に出来た石黒浩の「米朝アンドロイド」(2012)。いうまでもなく桂米朝のアンドロイドに他なりません。

「米朝アンドロイド」2012年 制作指揮:石黒浩
こちらは桂米朝の米寿記念に作製されたというロボットですが、ともかくしばらく眺めていると、それこそ本物の桂米朝と見間違うほどにリアル。すっと開く口、そしてひくっと動く肩、さらには右へ左へと小刻みに曲がるクビなどが、それこそほぼ完璧なほどに再現されています。
さらに虚が現実を侵食せんとするのが、その横にある桂米朝の舞台の映像。多少の種明かしになってしまうのであえて触れませんが、もはや驚異の世界。その出来に少し怖くなってしまうほどでした。
さて自らの身体へ積極的に介在して「生」の在り方を問うオルランの作品は迫力があります。

オルラン「これが私の身体…、これが私のソフトウェア」1993/2007年
彼女は何と自身の整形手術をパフォーマンスして表現、その様子を写真ばかりか映像に記録して配信します。
切除した肉片までを作品にするという試み。展示はもはやグロテスクですらありましたが、美と醜、その境界とは何ぞやということを身体をはって探ろうとする心意気には感心しました。
展示中、最も華やかでありながら、それでいて社会の根底にある問題に切り込んでいたのが、お馴染みのスプツニ子!でしょう。
作品は3点、「菜の花ヒール」、カラスボット☆ジェニー」、そして「生理マシーン、タカシの場合。」です。

スプツニ子!「菜の花ヒール」2011-2012年
黄色の菜の花がうず高く積まれた「菜の花ヒール」。一見、とてもポップな作品ですが、実はこれ、菜の花には放射性物質を吸収する働きがあることに着目し、ヒールの先に種を埋め込んで、歩くと花が咲いていくというアイデアを体現したもの。
美しい黄色の菜の花に潜む放射能汚染の脅威。言うまでもなく、原発事故の惨劇を思い出してなりません。
「生理マシーン、タカシの場合。」はセクシャリティーの問題に切り込んだ意欲作。
女性に憧れる少年タカシへ何と生理の痛みを実際に経験させるパフォーマンス、夜の街に繰り出したタカシの下腹部に激痛が走る様子が映し出されていました。

高嶺格「Ask for aTrade」1993年
来年、水戸芸術館で個展も予定されている高嶺は映像1点。NYで路上生活を行う人々と衣服を交換しながら友人宅を目指すというパフォーマンスを捉えた「Ask for a Trade」(1993)が出品されています。
ラストを飾るのは今年、MOTのブルームバーグ・パヴィリオンでも展示のあった毛利悠子のインスタレーション、「fort-da」(2012)が。

毛利悠子「サーカス」展示風景(参考図版)2012年 東京都現代美術館
PC、楽器、ライト、電線、歯車、ロープ、その他諸々、一見関係ないような機械や道具が、それこそ人体の神経組織を再現するかの如く有機的に連関。
打ち抜いた壁の向こうから滑車を伝ってやってくるロープ。その動きは淡々と、それでいながら永遠に止まることもありません。まるでこのオペラシティという建物に寄生するサイボーグ、機械生物であるかのようでした。
ICCのオープンスペースでは20点以上のメディアアートも。あわせて楽しむのも良さそうです。
久々にICCへ行きましたが、予想以上にはまりました。おすすめ出来ます。
【関連イベント】
・パフォーマンス「模像と鏡像 - 美容師篇」
作・演出:齋藤達也
出演:リプリーQ2(アンドロイド)、小林慎(美容師)
日時:2012年12月15日(土)15時から。
協力:石黒浩(大阪大学大学院教授)
技術協力:小川浩平(大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻特任助教)
・アーティスト・トーク「齋藤達也×石黒浩」
出演:齋藤達也、石黒浩(大阪大学大学院教授,ロボット工学)
日時:2013年1月19日(土)15時より
定員:70名(先着順)
*ともに会場はICC4階の特設会場。入場無料。(展示を観覧する場合は要チケット。)
2013年3月3日まで開催されています。
「アノニマス・ライフ 名を明かさない生命」 NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)
会期:2012年11月17日(土)~2013年3月3日(日)
休館:月曜日。(月曜が祝日の場合は翌日。)。年末年始(12/28~1/4)、保守点検日(2/10)。
時間:11:00~18:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般・大学生500(400)円、高校生以下無料。割引クーポン。
*( )内は15名以上の団体料金。会期中1回に限り再入場可。
住所:新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4階
交通:京王新線初台駅東口から徒歩2分。
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