都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「貴婦人と一角獣展」 記者発表会
国立新美術館で開催予定の「貴婦人と一角獣展」の記者発表会に参加してきました。

「貴婦人と一角獣展」記者発表会(12/20。国立新美術館)
フランスはパリの国立クリュニー中世美術館。15世紀末の館と古代ローマの浴場の遺構を利用し、5~15世紀のヨーロッパ美術品を23000点も所蔵。うち充実した中世美術コレクションで良く知られているところかもしれません。

フランス国立クリュニー中世美術館
中でも6面のタピスリー「貴婦人と一角獣」は、中世ヨーロッパ美術の傑作としても貴重な作品。実際、館外に貸し出されたことは一度だけ。1974年にアメリカのメトロポリタン美術館に出品されただけでした。

タピスリー「貴婦人と一角獣」1500年頃 羊毛・絹
前振りが長くなりました。ここに朗報、「貴婦人と一角獣」が史上初めて日本へやって来ます。
「フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展」
東京:国立新美術館 2013年4月24日(水)~7月15日(月・祝)
大阪:国立国際美術館 2013年7月27日(土)~10月20日(日)
会期は東京先行で来春から六本木の国立新美術館にて。東京展終了後、大阪・中之島の国立国際美術館へ巡回します。

クリュニー中世美術館館長のビデオメッセージ
というわけで、先日行われた「貴婦人と一角獣」展のプレス発表会に参加。クリュニー中世美術館館長のビデオメッセージの後、展覧会コミッショナーで国立新美術館学芸課長の南雄介氏による展示解説が行われました。
その様子を以下にまとめてみます。
まずは超・基本、いわゆる織物であるタピスリーとは何ぞやというお話から。縦糸に麻糸、横糸に絹や羊毛を織って図柄を作成。特に大型のタピスリーは城や教会の壁面を飾るのに重宝され、14~16世紀のヨーロッパで黄金時代を迎えました。

クリュニー中世美術館での「貴婦人と一角獣」の展示風景
そして「貴婦人と一角獣」が作られたのも1500年頃。作者、もしくは制作場所は諸説あり、北フランスかフランドル。具体的にはリール、ブリュッセルの他、パリではないかと考えられています。
さてこのタピスリーが歴史の表舞台に登場したのは、時代が下って19世紀初めの頃です。
フランス中部の古城の調度品として文献に載ったタピスリーは、当時の文学者、メリメやサンドらの関心を呼びます。と同時に政府による調査研究もスタート。結果、1882年に買い上げられ、クリュニー中世美術館に収められることになりました。
ちなみに「貴婦人と一角獣」、作品は全部で6面。あわせると全22メートルにも及ぶ大作です。
いずれも地に赤色の「千花文様」と呼ばれる文様を配し、中央には藍色の島のような場を表現。樹木や紋章とともに、貴婦人と一角獣のモチーフを描いています。
ではそこに描かれたモチーフの意味とは一体何でしょうか。
簡単に言ってしまえば人間の感覚、つまり触覚、味覚、嗅覚、聴覚、視覚です。いくつか例をあげましょう。

タピスリー「貴婦人と一角獣『触覚』」1500年頃 羊毛・絹
まずは触覚から。中央の貴婦人が右手で旗竿を、また左手で一角獣の角を握り、また猿も繋がれた鎖に手を触れていることが分かります。

タピスリー「貴婦人と一角獣『味覚』」1500年頃 羊毛・絹
次の味覚では貴婦人が侍女の持つ器からお菓子を取り、オウムの口へ与え、さらに猿も何かを食べるような仕草をしていることが見て取れます。

タピスリー「貴婦人と一角獣『聴覚』」1500年頃 羊毛・絹
この他、嗅覚、聴覚、視覚においても、貴婦人がそれらを表す行動をしているわけです。
さて6面としたのに、ここで挙げた作品は5面。あと1面が足りません。
実は最後の1面、最も大きな「我が唯一の望み」こそが、一連のタペストリーをどこか謎めいた、それでいてより魅惑的な作品として価値を高めているものなのです。

タピスリー「貴婦人と一角獣『我が唯一の望み』」1500年頃 羊毛・絹
タイトルの「我が唯一の望み」とは背景の天幕に記された銘文に由来するもの。貴婦人が一見、侍女の持つ箱から宝石を取り出しているように見えることから、結婚や愛を意味しているのではないかと考えられています。
しかしながら実は貴婦人が箱に宝石を戻していると解釈するとどうなのか。
すると貴婦人はいわゆる物質的な価値を捨て、より高次とされる精神的なもの、悟性や知性を示しているのではないかという意味に変化します。ようはそれ以前の5面で描いた人の感覚を統括し得る第6の感覚が示されているわけでした。

「一角獣の形をした水差し」1400年頃 ブロンズ・彫金
そして本展ではこうしたタピスリーを読み解く観点からも、そのモチーフにまつわる主に同時代の工芸品などをあわせて紹介。

「領主の生活のタピスリー『恋愛の情景』」1500-1520年頃 羊毛・絹
「貴婦人と一角獣」以外にもタピスリーが6面(つまりタピスリーは計12面)が出品される上、一角獣を象った水差しや紋章の指輪、さらにはマグダラのマリアのレリーフなど、全部で40点ほどの工芸品が展示されます。
さて最後にもう一つの見どころです。

バーチャルリアリティー映像「貴婦人と一角獣」現地制作風景
東博のシアターでもお馴染みの凸版印刷によるバーチャルリアリティー映像、「貴婦人と一角獣」が会場にて投影されます。

バーチャルリアリティー映像「貴婦人と一角獣」展示イメージ
これが上のイメージの如く大画面。美術館の壁面全体を使い、通常肉眼では分かりにくい細部も拡大。それに高い位置にある図柄も正面で映すことで、タピスリーの美しさをより分かりやすく、また体感的に味わえるようになるそうです。

バーチャルリアリティー映像「貴婦人と一角獣」拡大サンプル映像
フランスでも至宝とまで呼ばれる作品。まさか日本へやって来るとは、と驚かれた方も多いのでしょうか。一期一会の展覧会になること間違いありません。期待大です。
「貴婦人と一角獣展」は2013年4月24日より国立新美術館で開催されます。(東京展終了後、国立国際美術館(2013/7/27~10/20)へと巡回。)
*関連エントリ(プレビューに参加してきました。)
「貴婦人と一角獣」@国立新美術館

「フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展」 国立新美術館
会期:2013年4月24日(水)~7月15日(月・祝)
時間:10:00~18:00(金曜日は20時まで) *入館は閉館30分前まで
休館:火曜日。但し4月30日は開館。
会場:国立新美術館(港区六本木7-22-2)
主催:国立新美術館、フランス国立クリュニー中世美術館、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
後援:外務省、フランス大使館
料金:一般1500(1300)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
*( )は20名以上の団体、及び前売券。前売券は2013年1月9日から販売。
*早割ペア券(2枚セットで2000円)あり。販売期間は2013年1月9日(水)から2月28日(木)。

「貴婦人と一角獣展」記者発表会(12/20。国立新美術館)
フランスはパリの国立クリュニー中世美術館。15世紀末の館と古代ローマの浴場の遺構を利用し、5~15世紀のヨーロッパ美術品を23000点も所蔵。うち充実した中世美術コレクションで良く知られているところかもしれません。

フランス国立クリュニー中世美術館
中でも6面のタピスリー「貴婦人と一角獣」は、中世ヨーロッパ美術の傑作としても貴重な作品。実際、館外に貸し出されたことは一度だけ。1974年にアメリカのメトロポリタン美術館に出品されただけでした。

タピスリー「貴婦人と一角獣」1500年頃 羊毛・絹
前振りが長くなりました。ここに朗報、「貴婦人と一角獣」が史上初めて日本へやって来ます。
「フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展」
東京:国立新美術館 2013年4月24日(水)~7月15日(月・祝)
大阪:国立国際美術館 2013年7月27日(土)~10月20日(日)
会期は東京先行で来春から六本木の国立新美術館にて。東京展終了後、大阪・中之島の国立国際美術館へ巡回します。

クリュニー中世美術館館長のビデオメッセージ
というわけで、先日行われた「貴婦人と一角獣」展のプレス発表会に参加。クリュニー中世美術館館長のビデオメッセージの後、展覧会コミッショナーで国立新美術館学芸課長の南雄介氏による展示解説が行われました。
その様子を以下にまとめてみます。
まずは超・基本、いわゆる織物であるタピスリーとは何ぞやというお話から。縦糸に麻糸、横糸に絹や羊毛を織って図柄を作成。特に大型のタピスリーは城や教会の壁面を飾るのに重宝され、14~16世紀のヨーロッパで黄金時代を迎えました。

クリュニー中世美術館での「貴婦人と一角獣」の展示風景
そして「貴婦人と一角獣」が作られたのも1500年頃。作者、もしくは制作場所は諸説あり、北フランスかフランドル。具体的にはリール、ブリュッセルの他、パリではないかと考えられています。
さてこのタピスリーが歴史の表舞台に登場したのは、時代が下って19世紀初めの頃です。
フランス中部の古城の調度品として文献に載ったタピスリーは、当時の文学者、メリメやサンドらの関心を呼びます。と同時に政府による調査研究もスタート。結果、1882年に買い上げられ、クリュニー中世美術館に収められることになりました。
ちなみに「貴婦人と一角獣」、作品は全部で6面。あわせると全22メートルにも及ぶ大作です。
いずれも地に赤色の「千花文様」と呼ばれる文様を配し、中央には藍色の島のような場を表現。樹木や紋章とともに、貴婦人と一角獣のモチーフを描いています。
ではそこに描かれたモチーフの意味とは一体何でしょうか。
簡単に言ってしまえば人間の感覚、つまり触覚、味覚、嗅覚、聴覚、視覚です。いくつか例をあげましょう。

タピスリー「貴婦人と一角獣『触覚』」1500年頃 羊毛・絹
まずは触覚から。中央の貴婦人が右手で旗竿を、また左手で一角獣の角を握り、また猿も繋がれた鎖に手を触れていることが分かります。

タピスリー「貴婦人と一角獣『味覚』」1500年頃 羊毛・絹
次の味覚では貴婦人が侍女の持つ器からお菓子を取り、オウムの口へ与え、さらに猿も何かを食べるような仕草をしていることが見て取れます。

タピスリー「貴婦人と一角獣『聴覚』」1500年頃 羊毛・絹
この他、嗅覚、聴覚、視覚においても、貴婦人がそれらを表す行動をしているわけです。
さて6面としたのに、ここで挙げた作品は5面。あと1面が足りません。
実は最後の1面、最も大きな「我が唯一の望み」こそが、一連のタペストリーをどこか謎めいた、それでいてより魅惑的な作品として価値を高めているものなのです。

タピスリー「貴婦人と一角獣『我が唯一の望み』」1500年頃 羊毛・絹
タイトルの「我が唯一の望み」とは背景の天幕に記された銘文に由来するもの。貴婦人が一見、侍女の持つ箱から宝石を取り出しているように見えることから、結婚や愛を意味しているのではないかと考えられています。
しかしながら実は貴婦人が箱に宝石を戻していると解釈するとどうなのか。
すると貴婦人はいわゆる物質的な価値を捨て、より高次とされる精神的なもの、悟性や知性を示しているのではないかという意味に変化します。ようはそれ以前の5面で描いた人の感覚を統括し得る第6の感覚が示されているわけでした。

「一角獣の形をした水差し」1400年頃 ブロンズ・彫金
そして本展ではこうしたタピスリーを読み解く観点からも、そのモチーフにまつわる主に同時代の工芸品などをあわせて紹介。

「領主の生活のタピスリー『恋愛の情景』」1500-1520年頃 羊毛・絹
「貴婦人と一角獣」以外にもタピスリーが6面(つまりタピスリーは計12面)が出品される上、一角獣を象った水差しや紋章の指輪、さらにはマグダラのマリアのレリーフなど、全部で40点ほどの工芸品が展示されます。
さて最後にもう一つの見どころです。

バーチャルリアリティー映像「貴婦人と一角獣」現地制作風景
東博のシアターでもお馴染みの凸版印刷によるバーチャルリアリティー映像、「貴婦人と一角獣」が会場にて投影されます。

バーチャルリアリティー映像「貴婦人と一角獣」展示イメージ
これが上のイメージの如く大画面。美術館の壁面全体を使い、通常肉眼では分かりにくい細部も拡大。それに高い位置にある図柄も正面で映すことで、タピスリーの美しさをより分かりやすく、また体感的に味わえるようになるそうです。

バーチャルリアリティー映像「貴婦人と一角獣」拡大サンプル映像
フランスでも至宝とまで呼ばれる作品。まさか日本へやって来るとは、と驚かれた方も多いのでしょうか。一期一会の展覧会になること間違いありません。期待大です。
「貴婦人と一角獣展」は2013年4月24日より国立新美術館で開催されます。(東京展終了後、国立国際美術館(2013/7/27~10/20)へと巡回。)
*関連エントリ(プレビューに参加してきました。)
「貴婦人と一角獣」@国立新美術館

「フランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展」 国立新美術館
会期:2013年4月24日(水)~7月15日(月・祝)
時間:10:00~18:00(金曜日は20時まで) *入館は閉館30分前まで
休館:火曜日。但し4月30日は開館。
会場:国立新美術館(港区六本木7-22-2)
主催:国立新美術館、フランス国立クリュニー中世美術館、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
後援:外務省、フランス大使館
料金:一般1500(1300)円、大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
*( )は20名以上の団体、及び前売券。前売券は2013年1月9日から販売。
*早割ペア券(2枚セットで2000円)あり。販売期間は2013年1月9日(水)から2月28日(木)。
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