都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「運慶ー鎌倉幕府と霊験伝説」 神奈川県立金沢文庫
神奈川県立金沢文庫
「運慶ー鎌倉幕府と霊験伝説」
1/13~3/11
神奈川県立金沢文庫で開催中の「運慶ー鎌倉幕府と霊験伝説」を見てきました。
平安末期から鎌倉時代にかけて活動した仏師、運慶は、奈良で興福寺再建事業に参加するも、鎌倉幕府へと接近し、東国でも造仏を行いました。
主に鎌倉、ないし東国に所縁のある運慶仏、または運慶派の仏像を集めた展覧会です。出展は約42点で、うち直接的に運慶、もしくは運慶の手が加わったとされる仏像は3点でした。
重要文化財 「十二神将立像(巳神)」 鎌倉時代 曹源寺
まず目立つのは、神奈川県の曹源寺の「十二神将立像」で、子、丑、寅から、戌、亥へと至る干支をつけた十二神の姿が象られていました。手を振り上げ、足を曲げては、見得を切るかのようなポーズには躍動感もあり、写実性の強い造形も見事でした。また顔面の表現も迫真的で、例えば未では、ちょうど木目を活かして、肉付きが浮かび上がるように表現していました。さらに口を大きく開き、鋭い歯を剥き出しにした戌も、迫力十分ではないでしょうか。運慶派による作品ですが、運慶の十二神将の模作という考えもあるそうです。
重要文化財 「地蔵菩薩坐像」 康慶作 治承元(1177)年 瑞林寺
運慶の父、康慶の「地蔵菩薩坐像」も目を引きました。静岡県の瑞林寺の仏像で、泰然とした姿であり、表情は穏やかで、物静かな雰囲気を漂わせていました。深めの衣文も際立っていたかもしれません。
チラシ表紙を飾るのが、愛知県の瀧山寺に伝わる「梵天立像」で、源頼朝の供養のために、従兄弟の僧、寛伝が発願し、運慶と子の湛慶が協力して作った仏像だとされています。ちょうど瀧山寺の運慶、湛慶の合作は、先だっての東京国立博物館の「運慶展」にも「聖観音菩薩立像」が出展されていました。鮮やかな色は、のちの補彩ではありますが、ふくよかな顔立ちなどに、共通する作風が見られるかもしれません。
重要文化財 「大日如来坐像」 鎌倉時代 光得寺
栃木県の光得寺の「厨子入大日如来坐像」も、運慶の手による可能性が高く、丸みを帯びた顔と、高く結った髪が印象的な仏像でした。また装身具が殊更に繊細で、円成寺の運慶による国宝作を彷彿させる面があるかもしれません。
重要文化財 「阿弥陀如来坐像及び両脇侍立像」 宗慶作 建久7(1196)年 保寧寺
運慶が東国へ引き連れた、運慶周辺の仏師にも力作が揃っていました。一例が運慶の兄弟弟子である宗慶の「阿弥陀如来坐像及び両脇侍立像」で、やや口をすぼめながらも、恰幅の良い姿からは、威厳も感じられるのではないでしょうか。また「両脇侍立像」のステップを踏むかのように軽やかな姿も、興味深いものがありました。それに静岡県の修善寺の「大日如来坐像」も見どころの1つで、源頼家の供養のために、夫人が造立したと言われています。運慶の弟子の実慶が制作しました。
重要文化財 「阿弥陀如来立像及び両脇侍立像」 鎌倉時代 光触寺
運慶仏の霊験について言及しているのも、展覧会の大きな特徴でした。その最たる例が「阿弥陀如来立像及び両脇侍立像」で、神奈川県の光触寺の秘仏として信仰を集めて来ました。
重要文化財 「頬焼阿弥陀縁起絵巻」(部分) 鎌倉時代 光触寺
そこで重要なのが、同寺に伝わる絵巻の「頬焼阿弥陀縁起」で、中には仏師運慶の名とともに、阿弥陀如来が法師の身代わりになったという、「阿弥陀如来立像」の造立にまつわる霊験が記されています。さらに同じく光触寺には、阿弥陀の姿を絹本に写した「阿弥陀三尊像」があり、これはおそらく礼拝者に、仏像の霊験を伝えるために作られたのではないかと考えられているそうです。仏像、絵巻、そして絵画の3点をあわせ見ることで、運慶仏の信仰の在り方が浮かび上がって来るかもしれません。
重要文化財 「陵王面」 運慶作 鎌倉時代 瀬戸神社
最近の研究で運慶作とされた「陵王面」にも迫力がありました。いつもながらの手狭なスペースのため、スケールの面では、昨年に大きな話題を集めた東京国立博物館の「運慶展」に遠く及びません。ただし、運慶と運慶派を東国に引きつけ、仏像の霊験について触れるなど、一歩踏み込んで検証していたのが印象に残りました。また凝った照明こそありませんが、展示ケースが近く、総じて至近距離で仏像を鑑賞出来るのも嬉しいところでした。
ここ数年来、「運慶ー中世密教と鎌倉幕府」(2011年、金沢文庫)、そして「興福寺中金堂再建記念特別展 運慶」(2017年、東京国立博物館)、そして「運慶ー鎌倉幕府と霊験伝説」(2018年、金沢文庫)と、運慶に関する展覧会が続きました。
幸いにも私は全て追いかけることが出来ました。これほど運慶、ないし運慶派の仏像をまとめて拝める機会など、もうしばらくないかもしれません。
休日の午後に出かけて来ましたが、館内は思いの外に盛況でした。実際に会期3週目の段階で、入館者は延べ1万名に達したそうです。
まだ寒い日も続きますが、隣接の称名寺へのお参り、もしくは散策を兼ねて出かけるのも良さそうです。
ひょっと会期末に向けて混み合うかもしれません。3月11日まで開催されています。
「特別展 運慶ー鎌倉幕府と霊験伝説」 神奈川県立金沢文庫(@Kanagawa_bunko)
会期:1月13日(土)~3月11日(日)
休館:月曜日。但し2月12日は除く。2月13日(火)は休館。
時間:10:00~16:30 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般800(700)円、20歳未満・学生600(500)円、65歳以上200(100)円、高校生100円。
*( )は20名以上の団体料金。
住所:横浜市金沢区金沢町142
交通:京急線金沢文庫駅東口より徒歩12分。シーサイドライン海の公園南口駅より徒歩12分。
「運慶ー鎌倉幕府と霊験伝説」
1/13~3/11
神奈川県立金沢文庫で開催中の「運慶ー鎌倉幕府と霊験伝説」を見てきました。
平安末期から鎌倉時代にかけて活動した仏師、運慶は、奈良で興福寺再建事業に参加するも、鎌倉幕府へと接近し、東国でも造仏を行いました。
主に鎌倉、ないし東国に所縁のある運慶仏、または運慶派の仏像を集めた展覧会です。出展は約42点で、うち直接的に運慶、もしくは運慶の手が加わったとされる仏像は3点でした。
重要文化財 「十二神将立像(巳神)」 鎌倉時代 曹源寺
まず目立つのは、神奈川県の曹源寺の「十二神将立像」で、子、丑、寅から、戌、亥へと至る干支をつけた十二神の姿が象られていました。手を振り上げ、足を曲げては、見得を切るかのようなポーズには躍動感もあり、写実性の強い造形も見事でした。また顔面の表現も迫真的で、例えば未では、ちょうど木目を活かして、肉付きが浮かび上がるように表現していました。さらに口を大きく開き、鋭い歯を剥き出しにした戌も、迫力十分ではないでしょうか。運慶派による作品ですが、運慶の十二神将の模作という考えもあるそうです。
重要文化財 「地蔵菩薩坐像」 康慶作 治承元(1177)年 瑞林寺
運慶の父、康慶の「地蔵菩薩坐像」も目を引きました。静岡県の瑞林寺の仏像で、泰然とした姿であり、表情は穏やかで、物静かな雰囲気を漂わせていました。深めの衣文も際立っていたかもしれません。
チラシ表紙を飾るのが、愛知県の瀧山寺に伝わる「梵天立像」で、源頼朝の供養のために、従兄弟の僧、寛伝が発願し、運慶と子の湛慶が協力して作った仏像だとされています。ちょうど瀧山寺の運慶、湛慶の合作は、先だっての東京国立博物館の「運慶展」にも「聖観音菩薩立像」が出展されていました。鮮やかな色は、のちの補彩ではありますが、ふくよかな顔立ちなどに、共通する作風が見られるかもしれません。
重要文化財 「大日如来坐像」 鎌倉時代 光得寺
栃木県の光得寺の「厨子入大日如来坐像」も、運慶の手による可能性が高く、丸みを帯びた顔と、高く結った髪が印象的な仏像でした。また装身具が殊更に繊細で、円成寺の運慶による国宝作を彷彿させる面があるかもしれません。
重要文化財 「阿弥陀如来坐像及び両脇侍立像」 宗慶作 建久7(1196)年 保寧寺
運慶が東国へ引き連れた、運慶周辺の仏師にも力作が揃っていました。一例が運慶の兄弟弟子である宗慶の「阿弥陀如来坐像及び両脇侍立像」で、やや口をすぼめながらも、恰幅の良い姿からは、威厳も感じられるのではないでしょうか。また「両脇侍立像」のステップを踏むかのように軽やかな姿も、興味深いものがありました。それに静岡県の修善寺の「大日如来坐像」も見どころの1つで、源頼家の供養のために、夫人が造立したと言われています。運慶の弟子の実慶が制作しました。
重要文化財 「阿弥陀如来立像及び両脇侍立像」 鎌倉時代 光触寺
運慶仏の霊験について言及しているのも、展覧会の大きな特徴でした。その最たる例が「阿弥陀如来立像及び両脇侍立像」で、神奈川県の光触寺の秘仏として信仰を集めて来ました。
重要文化財 「頬焼阿弥陀縁起絵巻」(部分) 鎌倉時代 光触寺
そこで重要なのが、同寺に伝わる絵巻の「頬焼阿弥陀縁起」で、中には仏師運慶の名とともに、阿弥陀如来が法師の身代わりになったという、「阿弥陀如来立像」の造立にまつわる霊験が記されています。さらに同じく光触寺には、阿弥陀の姿を絹本に写した「阿弥陀三尊像」があり、これはおそらく礼拝者に、仏像の霊験を伝えるために作られたのではないかと考えられているそうです。仏像、絵巻、そして絵画の3点をあわせ見ることで、運慶仏の信仰の在り方が浮かび上がって来るかもしれません。
重要文化財 「陵王面」 運慶作 鎌倉時代 瀬戸神社
最近の研究で運慶作とされた「陵王面」にも迫力がありました。いつもながらの手狭なスペースのため、スケールの面では、昨年に大きな話題を集めた東京国立博物館の「運慶展」に遠く及びません。ただし、運慶と運慶派を東国に引きつけ、仏像の霊験について触れるなど、一歩踏み込んで検証していたのが印象に残りました。また凝った照明こそありませんが、展示ケースが近く、総じて至近距離で仏像を鑑賞出来るのも嬉しいところでした。
ここ数年来、「運慶ー中世密教と鎌倉幕府」(2011年、金沢文庫)、そして「興福寺中金堂再建記念特別展 運慶」(2017年、東京国立博物館)、そして「運慶ー鎌倉幕府と霊験伝説」(2018年、金沢文庫)と、運慶に関する展覧会が続きました。
先日tvk「カナフルTV」にて放送された運慶展特集が、tvkのyoutube公式ページからご覧いただけます。見逃してしまった方、是非ご覧ください!#金沢文庫 #運慶展https://t.co/iwV3Hh1Unc
— 神奈川県立金沢文庫 (@Kanagawa_bunko) 2018年2月4日
幸いにも私は全て追いかけることが出来ました。これほど運慶、ないし運慶派の仏像をまとめて拝める機会など、もうしばらくないかもしれません。
休日の午後に出かけて来ましたが、館内は思いの外に盛況でした。実際に会期3週目の段階で、入館者は延べ1万名に達したそうです。
まだ寒い日も続きますが、隣接の称名寺へのお参り、もしくは散策を兼ねて出かけるのも良さそうです。
ひょっと会期末に向けて混み合うかもしれません。3月11日まで開催されています。
「特別展 運慶ー鎌倉幕府と霊験伝説」 神奈川県立金沢文庫(@Kanagawa_bunko)
会期:1月13日(土)~3月11日(日)
休館:月曜日。但し2月12日は除く。2月13日(火)は休館。
時間:10:00~16:30 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般800(700)円、20歳未満・学生600(500)円、65歳以上200(100)円、高校生100円。
*( )は20名以上の団体料金。
住所:横浜市金沢区金沢町142
交通:京急線金沢文庫駅東口より徒歩12分。シーサイドライン海の公園南口駅より徒歩12分。
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