都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「墨と金 狩野派の絵画」 根津美術館
根津美術館
「墨と金 狩野派の絵画」
1/10~2/12

根津美術館で開催中の「墨と金 狩野派の絵画」を見てきました。
室町時代の京都で興った狩野派は、足利将軍の御用をつとめ、歴代の権力者の庇護を受けながら、江戸時代を通して、画壇の頂点に君臨しました。
狩野派の基本にあったのは、水墨でした。特に初代の正信の子、元信は、先行した中国の水墨の様式を整理し、いわゆる真体、行体、草体の三種の画体を作り出しました。

「養蚕機織図屏風」(右隻) 伝狩野元信 室町時代・16世紀 根津美術館
そのうち、緻密な構図と描線を特徴としたのが真体で、伝元信の「養蚕機織図屏風」に例を見ることが出来ました。ちょうど屏風の中央に水辺が広がり、左右に山々、ないし楼閣が並ぶ山水の景観を表していて、その中に、中国の「耕織図」に由来する、養蚕と機織りの13の作業場面を描きました。
水墨の筆は的確で、繭を選別するプロセスの人々の姿も細かく、機織りの場面で、織物がぴんと張る様子も忠実に再現していました。しかし全てが緻密というわけではなく、例えば水面の揺らぎを柔らかな曲線で表し、時に等伯の松林図を彷彿させるような松林を描き加えるなど、硬軟を交ぜた筆さばきも、見事と言えるのではないでしょうか。また「耕織図」の主題には、施政者が農民の労苦を労る意味も持ち得ていて、まさに権力者に接近した、狩野派ならではの作品なのかもしれません。
こうした真体と、崩した描写の草体の中間にあるのが、行体と呼ばれる画体でした。一例が元信印の「四季花鳥図屏風」で、山水の自然へ、鳥が集う様子を描いていました。丸く、柔らかみのある筆は伸びやかで、鳥の羽の一枚一枚を丁寧に描きつつ、柳の木の葉が風に揺れる様子なども巧みに表現していました。また鳥たちの表情も生き生きとして、細部へと寄ってみれば、それこそ鳥の囀りが聞こえてくるような臨場感があるかもしれません。制作に際しては、元信の弟である之信、ないし三男の松栄の関与も指摘されているそうです。

「犬追物図屏風」(右隻) 江戸時代・17世紀 根津美術館
「犬追物図屏風」も見逃せませんでした。武家が騎射、つまり馬上から矢を射る訓練のために行われた競技を描いた作品で、大勢の人たちが見守る中、馬に乗った武人らが、円を描くように馬を進めたり、犬を追いかけたりしていました。特に目を引いたのが、見物人の姿で、指を差しては武人を楽しそうに眺めたり、何やら宴会をしているような者もいました。大変な賑わいで、ちょっとしたお祭りであったのかもしれません。
大作の屏風だけでなく、比較的小さな掛軸画にも、思いがけない優品がありました。狩野探幽の妹の国と、弟子の久隅守景の間に生まれた、清原雪信による「西王母図」も、魅惑的な作品と言えないでしょうか。2つの花と実をつけた桃を持つのが、中国で古くから信仰された西王母で、すくっと立つ姿からして美しく、実に典雅な雰囲気を漂わせていました。

「梟鶏図」(部分) 狩野山雪 江戸時代・17世紀 根津美術館
狩野山雪の「梟鶏図」も面白い作品でした。2幅の画面に、左に朝の鶏、そして右に夜の梟を対比させるように描いていました。ともかく鶏と梟の表情が滑稽で、何やら鶏は不機嫌なのか、しかめっ面であり、一方の梟も上目遣いですっとぼけたような仕草を見せていました。擬人化ならぬ、人の心理を投影させて表現したのかもしれません。
思いがけないくらい感銘を受けた作品がありました。それが久隅守景の「舞楽図屏風」で、6曲1双の大画面に、左へ「納曾利(なそり)」と「蘭陵王」、さらに右には武将の舞である「太平楽」の舞楽が描かれていました。一目で思い浮かぶのは、俵屋宗達の「舞楽図屏風」で、実際に舞人の姿が酷似することから、宗達、ないし共通するモチーフに基づいて描かれたのではないかと推測出来ます。
舞人の衣装や装身具などは極めて精緻で、胡粉を盛り上げては顔面を表現するなど、随所に拘りの描写も見られますが、何よりも素晴らしいのは、余白、ないし間の使い方でした。屏風の折り目まで意識して描いたのか、屏風の左右、少し斜めから目をやりながら進むと、それこそパラパラ絵本のごとくに舞人が現れ、まるで実際に動いているようにも見えなくはありません。
出展作は全24点です。(展示替えあり。)作品数こそ物足りないかもしれませんが、ともかく作品が粒揃いで感心しました。見応えは十分でした。

「百椿図」(部分) 伝狩野山楽 江戸時代・17世紀 根津美術館
また階上の「展示室5」では、新春恒例、伝狩野山楽による「百椿図」も公開されていました。100種類以上もの椿が、様々な器物と組み合わされて描かれた巻物で、実に艶やかな色彩美が魅惑的な作品でもありました。こちらもお見逃しなきようおすすめします。

2月12日まで開催されています。
「墨と金 狩野派の絵画」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:1月10日(水)~2月12日(月・祝)
休館:月曜日。2月12日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100円、学生800円、中学生以下無料。
*20名以上の団体は200円引。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
「墨と金 狩野派の絵画」
1/10~2/12

根津美術館で開催中の「墨と金 狩野派の絵画」を見てきました。
室町時代の京都で興った狩野派は、足利将軍の御用をつとめ、歴代の権力者の庇護を受けながら、江戸時代を通して、画壇の頂点に君臨しました。
狩野派の基本にあったのは、水墨でした。特に初代の正信の子、元信は、先行した中国の水墨の様式を整理し、いわゆる真体、行体、草体の三種の画体を作り出しました。

「養蚕機織図屏風」(右隻) 伝狩野元信 室町時代・16世紀 根津美術館
そのうち、緻密な構図と描線を特徴としたのが真体で、伝元信の「養蚕機織図屏風」に例を見ることが出来ました。ちょうど屏風の中央に水辺が広がり、左右に山々、ないし楼閣が並ぶ山水の景観を表していて、その中に、中国の「耕織図」に由来する、養蚕と機織りの13の作業場面を描きました。
水墨の筆は的確で、繭を選別するプロセスの人々の姿も細かく、機織りの場面で、織物がぴんと張る様子も忠実に再現していました。しかし全てが緻密というわけではなく、例えば水面の揺らぎを柔らかな曲線で表し、時に等伯の松林図を彷彿させるような松林を描き加えるなど、硬軟を交ぜた筆さばきも、見事と言えるのではないでしょうか。また「耕織図」の主題には、施政者が農民の労苦を労る意味も持ち得ていて、まさに権力者に接近した、狩野派ならではの作品なのかもしれません。
こうした真体と、崩した描写の草体の中間にあるのが、行体と呼ばれる画体でした。一例が元信印の「四季花鳥図屏風」で、山水の自然へ、鳥が集う様子を描いていました。丸く、柔らかみのある筆は伸びやかで、鳥の羽の一枚一枚を丁寧に描きつつ、柳の木の葉が風に揺れる様子なども巧みに表現していました。また鳥たちの表情も生き生きとして、細部へと寄ってみれば、それこそ鳥の囀りが聞こえてくるような臨場感があるかもしれません。制作に際しては、元信の弟である之信、ないし三男の松栄の関与も指摘されているそうです。

「犬追物図屏風」(右隻) 江戸時代・17世紀 根津美術館
「犬追物図屏風」も見逃せませんでした。武家が騎射、つまり馬上から矢を射る訓練のために行われた競技を描いた作品で、大勢の人たちが見守る中、馬に乗った武人らが、円を描くように馬を進めたり、犬を追いかけたりしていました。特に目を引いたのが、見物人の姿で、指を差しては武人を楽しそうに眺めたり、何やら宴会をしているような者もいました。大変な賑わいで、ちょっとしたお祭りであったのかもしれません。
大作の屏風だけでなく、比較的小さな掛軸画にも、思いがけない優品がありました。狩野探幽の妹の国と、弟子の久隅守景の間に生まれた、清原雪信による「西王母図」も、魅惑的な作品と言えないでしょうか。2つの花と実をつけた桃を持つのが、中国で古くから信仰された西王母で、すくっと立つ姿からして美しく、実に典雅な雰囲気を漂わせていました。

「梟鶏図」(部分) 狩野山雪 江戸時代・17世紀 根津美術館
狩野山雪の「梟鶏図」も面白い作品でした。2幅の画面に、左に朝の鶏、そして右に夜の梟を対比させるように描いていました。ともかく鶏と梟の表情が滑稽で、何やら鶏は不機嫌なのか、しかめっ面であり、一方の梟も上目遣いですっとぼけたような仕草を見せていました。擬人化ならぬ、人の心理を投影させて表現したのかもしれません。
思いがけないくらい感銘を受けた作品がありました。それが久隅守景の「舞楽図屏風」で、6曲1双の大画面に、左へ「納曾利(なそり)」と「蘭陵王」、さらに右には武将の舞である「太平楽」の舞楽が描かれていました。一目で思い浮かぶのは、俵屋宗達の「舞楽図屏風」で、実際に舞人の姿が酷似することから、宗達、ないし共通するモチーフに基づいて描かれたのではないかと推測出来ます。
舞人の衣装や装身具などは極めて精緻で、胡粉を盛り上げては顔面を表現するなど、随所に拘りの描写も見られますが、何よりも素晴らしいのは、余白、ないし間の使い方でした。屏風の折り目まで意識して描いたのか、屏風の左右、少し斜めから目をやりながら進むと、それこそパラパラ絵本のごとくに舞人が現れ、まるで実際に動いているようにも見えなくはありません。
1/10から開催の「墨と金-狩野派の絵画-」(根津美術館)は、「墨と金」という言葉に象徴される狩野派の系譜を豪華な優品とともに巡ります。また、展示室5では江戸時代のフラワーアレンジメントともいえる《百椿図》を、展示室6では「戊戌」にちなんだものを紹介。新年にふさわしい華やかな内容です。 pic.twitter.com/qCrFeUae2X
— 芸術新聞社 (@geishin) 2018年1月9日
出展作は全24点です。(展示替えあり。)作品数こそ物足りないかもしれませんが、ともかく作品が粒揃いで感心しました。見応えは十分でした。

「百椿図」(部分) 伝狩野山楽 江戸時代・17世紀 根津美術館
また階上の「展示室5」では、新春恒例、伝狩野山楽による「百椿図」も公開されていました。100種類以上もの椿が、様々な器物と組み合わされて描かれた巻物で、実に艶やかな色彩美が魅惑的な作品でもありました。こちらもお見逃しなきようおすすめします。

2月12日まで開催されています。
「墨と金 狩野派の絵画」 根津美術館(@nezumuseum)
会期:1月10日(水)~2月12日(月・祝)
休館:月曜日。2月12日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。
*入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1100円、学生800円、中学生以下無料。
*20名以上の団体は200円引。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )