「20th DOMANI・明日展」 国立新美術館

国立新美術館
「未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果」 
1/13~3/4



国立新美術館で開催中の「20th DOMANI・明日展」を見てきました。

文化庁の新進芸術家海外研修制度の成果発表の場として設けられた「DOMANI・明日展」も、今年度で第20回目を数えるに至りました。

今回は「寄留者の記憶」をサブタイトルに、研修を終えて比較的時間の浅い11名の作家を迎え、各々が個展の形式で作品を公開していました。


田中麻記子 展示風景

冒頭は2013年から約1年間パリへ渡り、現在もフランスのカシャンを拠点に活動する田中麻記子でした。これまでに「現実と幻想の狭間」(キャプションより)にある風景を表現してきた作家は、渡仏してから絵のスタイルが変わったと語り、パリでは、自らの目で見た移民や多国籍文化などの、実在的なモチーフを1日1枚の水彩に描き続けました。


田中麻記子 展示風景

確かに、渡仏前の幻想的な作風とは異なり、パリでの水彩は、ポートレートや目の前の花などを、素早い筆触と瑞々しい色彩で捉えていました。さらに最近は、よりポップでファンシーなイラストレーションの分野へと進んでいるそうです。

私としては渡仏前の、人や風景などが細かな線描で入り交じった、夢の中を覗き込むような作品に惹かれましたが、研修の経験が、作家に新たな創作を呼び込んでいるのかもしれません。


三宅砂織 展示風景

フォトグラムの手法によって作品を制作しているのが、昨年、フランスに派遣された三宅砂織でした。この展示では、テーマの「寄留者の記憶」に沿い、1936年のベルリン五輪に体操で出場し、日中戦争に出征したのち、亡くなるまで体操の指導や、得意の尺八の奏者として生きた、Y氏をモチーフにした連作を手がけていました。何でも作家自身が、Y氏の残した写真やアルバム、書籍や記念品などのコレクションを譲り受けたそうです。


三宅砂織 展示風景

オリンピックでの競技や、尺八を演奏する姿を捉えたフォトグラムを前にすると、Y氏の人生の物語が、断片的ながらも、浮き上がって見えるかもしれません。その独特の質感にも見入りました。

一昨年、ベルギーに派遣され、現在はパリで活動する盛圭太の作品は、実際に目の前で見ないと、繊細な質感が分からないかもしれません。


盛圭太 展示風景

「Bug report」と題された壁画風の作品に目がとまりました。横幅5メートルにもおよぶ壁を支持体に、一見、幾何学的な抽象模様と受け取れる線が交差していて、遠目から眺めれば、何らかの装置のようにも見えなくはありません。初めはペンによるドローイングかと見間違えましたが、近くに寄ると、線は糸で出来ていることが見て取れました。実際にも、青やピンクなどの木綿や絹糸を素材として使用しています。


盛圭太 展示風景

盛は、テーマの「寄留者」に応えるべく、「Bug report」の制作に際して、パリのトランジットセンターで回収した難民の服を解いた糸を用い、一連に構築されたイメージを提示しました。それは建築的、また情緒的といえる「途上の光景」(キャプションより)であるそうです。


中谷ミチコ 展示風景

2012年から約2年間、ドレスデンに赴いたのち、現在は三重を拠点に活動する中谷ミチコの表現も、質感に大きな特徴がありました。モチーフは鳥や人などで、やはり遠目、ないし写真では、単にタブローのように見えるかもしれません。


中谷ミチコ 展示風景

近づいて驚きました。作品はレリーフで、皮膜の向こうに奥行きがありました。実際のところ、粘土や樹脂、さらに黒い顔料などの、複雑なプロセスを経て生み出されていますが、一見しただけでは、平面作品としか思えませんでした。


猪瀬直哉「文化的景観ー希望の潮流」 2013年

ロンドンに滞在し、社会や環境の問題を題材にして絵画を制作する、猪瀬直哉の絵画に迫力がありました。とりわけ印象に深いのは、「文化的景観ー希望の潮流」と題した一枚で、コンクリートで覆われた溝渠を手前に、高層ビル群の立ち並ぶ都市の風景を描いていました。しかしビルは鉄骨がむき出しとなり、一部は壁も崩落しているのか、廃墟と化していました。


猪瀬直哉「快楽の園(未修復ーボッシュへのオマージュ」、「修復完了」、「修復中」) 2010年

一方で「快楽の園」では、画家のヒエロニムス・ボッシュを引用し、絵画に表現していました。両サイドのボッシュ画のイメージに挟み込まれたのは、大都市の景観で、先の「文化的景観」と同様に、ビルは曲がり、朽ちていました。災害に襲われたのか、黙示録的な世界が広がっているかのようでした。


雨宮陽介 展示風景

現在、ベルリンで活動する雨宮陽介は、会場で「人生で一番最後に作る作品の一部を決めるための練習や推敲」をすることを試みています。それは白鳥の死に模して、スワンソングと呼び、最終作を「スワンソングA」と名付けました。そして会場に滞在し、制作プロセスを公開しています。また本人からも話を伺うことも出来ました。


雨宮陽介 展示風景

これまでの「DOMANI・明日展」にて、作家本人が展示室で終始、制作を公開し、パフォーマンスを行ったことはあったのでしょうか。かなりチャレンジングな取り組みと言えそうです。


やんツー 展示風景

まるで観賞者のように彷徨うのはセグウェイでした。それが、2015年にスペインに派遣され、現在は東京や京都で活動している、やんツーのインスタレーション、「現代の観賞者#1」でした。デュシャンの語った「みるものが芸術をつくる」とする言葉に疑問を持ち、そもそも「芸術を規定するものは何か」と問いかける作家は、芸術者や表現者の価値を揺さぶるべく、機械や装置といった主体による表現を手がけるようになりました。


やんツー 展示風景

セグウェイは忙しなく動いたと思うと、突然、まるで作品を観賞するかのように立ち止まりました。さらにその姿を、外側から我々が見るという仕掛けです。ここでやんツーは、セグウェイという鑑賞者自体も作り出しているのかもしれません。美術における、創造と観賞の関係を問い直すかのような作品でした。

2010年からナイロビに滞在し、現在は奈良で拠点を構える西尾美也は、世界の諸都市で偶然にすれ違った人に現地の言葉でお願いし、衣服を交換する「self Select」を展開してきました。これまでにもパリやナイロビなどの世界の4都市で行い、計117名と衣服を交換してきました。


西尾美也 展示風景

それを今回は東京を舞台に移して行いました。ただし全く同じではなく、ナイロビでの研修時に助手を務めたオモンディを東京に招いた上、彼を街に送り出し、見ず知らずの通行人と衣服を交換するプロジェクトを行いました。その交換の様子は、映像や写真で見ることが出来ました。


西尾美也 展示風景

オモンディは、生まれて初めてケニアを抜け出し、はるばる日本へとやって来たそうです。当然ながら服のサイズも異なるため、時にとても窮屈そうに衣服を着ることもあります。もちろん交換のプロセスの段階で、言語やアイディンティについて考えることもあったのでしょう。まさに「寄留者の記憶」について踏み込んだ作品とも言えるかもしれません。


今年のドマーニ展は、いつも以上に表現に幅広く、また先鋭的な内容が目立っていたような気もしました。

会場内は余裕がありました。撮影も出来ます。3月4日まで開催されています。

「未来を担う美術家たち 20th DOMANI・明日展 文化庁新進芸術家海外研修制度の成果」@DOMANI_ten) 国立新美術館@NACT_PR
会期:1月13日(土)~3月4日(日)
休館:火曜日。年末年始(12/20~1/10)
時間:10:00~18:00
 *毎週金・土曜日は夜20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大学生500(300)円、高校生以下無料。
 * ( )内は20名以上の団体料金。
 *1月21日(日)は、DOMANI展第20回目を記念して無料。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分
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