「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」 東京国立博物館

東京国立博物館・表慶館
「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」
1/23~5/13 *3/18までより会期延長



東京国立博物館・表慶館で開催中の「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」を見てきました。

イスラム教の最大の聖地、メッカを有し、古代より交易路が交差し、人々の行き交ったサウジアラビアより、同国の誇る貴重な文物が、初めてまとめて日本へとやって来ました。

100万年以上前の石器にはじまり、5000年前の石柱、そしてローマ時代の出土品から、イスラムに関する調度品、さらには現王国の文物までを網羅しています。出展は約420件と膨大でした。


「礫器」 ワーディー・ファーティマ 前期旧石器時代アシュール文化 サウジアラビア国立博物館 ほか

旧石器時代のアラビア半島は、「緑のアラビア」とも呼ばれ、今と異なり、草原が広がり、湖や川も流れていました。さらに紀元前9000年頃から、農耕や牧畜を中心とする定住社会がはじまりました。今も遺跡で発見される石器は、矢尻などの狩猟具が多く含まれています。


「馬」 マカル 新石器時代・前6500年頃 サウジアラビア国立博物館

また、南部のマカルでは、動物像が地元民により発見され、注目を集めました。山羊や猟犬、それに、一際大きな馬も目を引くのではないでしょうか。新石器文化の存在を示唆する、貴重な資料でもあるそうです。


「石製容器」 タールート島 前2400年頃 サウジアラビア国立博物館

アラビア半島の歴史は交易からはじまりました。紀元前2500年頃にメソポタミア文明が成立すると、アラビア湾はインダス文明とを繋ぐ、海の上の道と化しました。アラビア半島の湾岸地域は「ディムルン」と呼ばれ、各地の特産品が集まりました。その拠点の1つがタールート島でした。


「祈る男」 タールート島 前2900〜前2600年頃 サウジアラビア国立博物館

そのタールート島から発掘された石製の容器が多く展示されていました。また目立つのは「祈る男」で、同じくタールート島より出土し、手を前に合わせては、直立する姿を捉えていました。石灰岩で出来ていて、やや上方を向いているようにも見えました。顔やポーズは、シュメール美術の影響を受けているとも言われているそうです。


「インダス式彩文壺」 タールート島 前2200〜前1800年頃 サウジアラビア国立博物館 ほか

「インダス式彩文壺」も同島よりの出土品でした。インダス川流域に特徴的な植物文様が施されていて、ディルムン一帯が、如何に東方のインダスと交流していたのかを、明らかにする資料と言えるかもしれません。

紀元前1000年頃にラクダが運搬動物として利用されると、当時、珍重されていた香料の交易のため、アラビア半島内陸の都市は発展を遂げました。南アラビアの香料や東アフリカの産物などを載せた隊商は、エジプトや地中海世界、またはメソポタミアや湾岸地域へと旅し、多くの人々と交易を行いました。


「柱の台座または祭壇」 タイマー 前5〜前4世紀 サウジアラビア国立博物館

北アラビアのタイマーも交通の要所で、紀元前6世紀頃に大いに栄え、エジプトやメソポタミアの王らにも注目を集めました。「柱の台座または祭壇」は、タイマーにあった砂岩の彫刻で、メソポタミアやエジプトの図像が入り混じり、神官が儀式を行う様子を表していました。


「男性頭部」 ウラー 前4世紀頃 サウジアラビア国立博物館

同じ頃、北西アラビアを代表するオアシス都市であったのは、ダーダーン(現在のウラー)で、先のタイマーと敵対関係にあり、戦争を行なっていました。また紀元前6世紀末にはリフヤーン族が、ダーダーンに代わり、新たな王国を築き上げました。


「男性像」 ウラー 前4〜前3世紀頃 キング・サウード大学博物館 ほか

ここで目立つのは、ダーダーン、つまり現在のウラーに由来する砂岩の彫刻、中でも人間の像でした。立ち並ぶ「男性像」は、いずれも半身が裸で、腰布を巻いていて、ダーダーン王国の王族を象ったとも言われています。

ヘレニズム・ローマ時代に入っても、アラビア半島は交易で繁栄しました。その様子を残すのが、半島南部に広大に伸びる砂漠、ルブゥ・アルハーリー砂漠の端のオアシス都市、カルヤト・アルファーウから発掘された文物で、地中海のガラス器、ヘレニズム世界の神の小像、そしてイエメンの高炉など、幅広い地域から人や物が集まっていたかを知ることが出来ました。


「饗宴」 カルヤト・アルファーウ 1〜2世紀頃 サウジアラビア国立博物館 ほか

ギリシャの酒の神、デュオニュソスを象徴したフレスコ画、「饗宴」も貴重な作品ではないでしょうか。1〜2世紀頃の制作にもかかわらず、まだ色を失っていませんでした。


「イシス=テュケー」 カルヤト・アルファーウ 前1〜3世紀頃 キング・サウード大学博物館 ほか

同じくカルヤト・アルファーウの「イシス=テュケー」は、西のエジプトのイシス女神と、ヘレニズム世界の女神テュケーが習合した神像でした。また美しいマーブル模様を描くガラスの器や、交易に欠かせなかったラクダを象った土製の人形にも目を奪われました。


「男性頭部」 カルヤト・アルファーウ 前1〜2世紀頃 キング・サウード大学博物館 ほか

オアシス都市の出土品はこれだけに留まりません。「男性頭部」はカルヤト・アルファーウの品で、ギリシャ・ローマ風の等身大の人物像の一部であったと言われています。


「葬送用ベットの脚」 テル・アッザーイル 1世紀頃 サウジアラビア国立博物館

ほか1世紀頃の金の「葬送用マスク」や、「葬送用ベットの脚」、また2世紀頃のライオンの頭部を象った青銅製の「ライオン」、さらには1950年頃の発掘調査で複数の墓が発見された、アイン・ジャーワーンに由来する細かな装身具も目を引きました。


「ペンダント」 アイン・ジャーワーン 2世紀頃 サウジアラビア国立博物館

アイン・ジャーワーンの装身具に至っては、ウランのパルティア王国の工芸品との類似も指摘されているそうです。ともかく東西しかり、アラビアと他の地域の交流は、実に幅広いものがありました。


「壁面装飾」 ラバザ 9世紀 サウジアラビア国立博物館

7世紀に入ると、イスラム教が各地へ広まりました。中でも聖地マッカ(メッカ)は重要視され、各地への交易、巡礼路が整備されて行きました。特に重要とされたのが、アッバース朝時代に都クーファと結んだ「ダルブ・ズバイダ」でした。そうした巡礼、交易都市に由来する文物も数多くやって来ていました。中でも最大の巡礼都市だったのは、ラバザで、コーランの一節を象った漆喰の「壁面装飾」なども、興味深い作品と言えるかもしれません。


「彩色坏」 9世紀 サウジアラビア国立博物館

「緑釉壺」や「ラスター彩鉢」、それに「彩色坏」などの工芸に魅惑的なものが少なくありません。植物のモチーフも多く、中には日本の器を思わせるような作品もありました。


「アブドゥッラーの息子アッバースの墓碑」 マッカ 9世紀 サウジアラビア国立博物館 ほか

アラビア文字の美しさには目を見張りました。いわゆる書の芸術で、アラビア文字の刻まれた墓碑がずらりと並ぶ様は、まさに壮観ではないでしょうか。文字は装飾的でかつ、音楽的なリズムを刻み込むようでもありました。


「カァバ神殿の扉」 マッカ オスマン朝時代・1635〜1636年 サウジアラビア国立博物館

マッカのカァバ神殿に関する文物も見逃せません。とりわけ圧巻なのは、「カァバ神殿の扉」でした。オスマン朝時代、1635年から翌年にかけて作られた巨大な扉で、文字の細かな装飾なども施されていました。おおよそ300年間、1930年頃まで神殿で実際に使われていたそうです。一部は明らかにすり減っていて、数百年に渡る歴史の重みも感じられるかもしれません。


「預言者モスク、シリア扉のカーテン」 マディーナ キング・アブドゥルアジーズ図書館

「預言者モスク、シリア扉のカーテン」も壮麗でした。高さは天井付近にまで及ぶ巨大な絹のカーテンで、金糸で草などのモチーフが実に鮮やかに彩られていました。さらに神殿を覆った「キスワ」と呼ばれる布や、「香炉」も見どころと言えそうです。


「アブドゥルアジーズ王の上衣」 20世紀 キング・アブドゥルアジーズ財団 ほか

ラストは「王国への道」と題し、サウジアラビア王国の初代国王である、アブドゥルアジーズ王の遺品を紹介しています。


「アブドゥルアジーズ王の刀」 20世紀 キング・アブドゥルアジーズ財団

金や銀の精緻な装飾による王の刀からは、現在のイスラム工芸の一つの昇華した形を見ることが出来るかもしれません。


「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」会場風景

これほど充実した質量にも関わらず、特別展扱いでなはなく、常設展観覧料(一般620円)のみで楽しむことが出来ました。しかも表慶館の建物内部を含む、全ての作品の撮影も可能でした。


「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」会場風景

一度、夜間開館時に観覧し、再度、休日の午後に改めて見てきましたが、館内はかなり盛況でした。同じく東京国立博物館で開催中の「仁和寺と御室派のみほとけ」展で、目玉となる葛井寺の「千手観音菩薩坐像」の出陳もはじまったこともあり、博物館全体に人出が増して来ました。ひょっとすると終盤は混み合うかもしれません。


「アラビア体験コーナー」(アラビアの遊牧民テント)

会場の表慶館の前には、「アラビア体験コーナー」として、アラビアの遊牧民テントが設営中です。当初は会期の冒頭、2月4日までの限定でしたが、2月中の土日祝日にも、引き続き設置されることが決まりました。


「アラビア体験コーナー」(アラビアの遊牧民テント)

中にはアラビックコーヒーに関する民具や、香炉、それに敷物や毛織物、伝統衣装などが展示されているほか、各日先着1000名に限り、アラビックコーヒーと、ナツメヤシの実のお菓子であるデーツが無料で振る舞われます。


私が2度目に出向いた際は、既に14時の段階で終了していましたが、アラビアの方もいて、ちょっとした異文化体験をすることも出来ました。テントの設営している間に出かけるのも楽しいかもしれません。*2月中旬以降中のテント設営日:2月17日(土)、2月18日(日)、2月24日(土)、2月25日(日) 各10:00~15:00


「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」会場風景

3月18日まで開催されています。おすすめします。

*当初の会期が延長され、5月13日(日) までの開催が決まりました。

「アラビアの道ーサウジアラビア王国の至宝」 東京国立博物館・表慶館(@TNM_PR
会期:1月23日(火)~5月13日(日) *3月18日(日)までより会期延長。
時間:9:30~17:00。
 *毎週金・土曜日は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。但し2月12日(月・休)は開館し、2月13日(火)は休館。
料金:一般620(520)円、大学生410(310)円、高校生以下無料。
 *( )は20名以上の団体料金。
 *「仁和寺と御室派のみほとけ」展のチケットでも観覧可。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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