都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「1968年 激動の時代の芸術」 千葉市美術館
千葉市美術館
「1968年 激動の時代の芸術」
9/19~11/11

千葉市美術館で開催中の「1968年 激動の時代の芸術」を見てきました。
今から半世紀前、1968年は、全共闘やベトナム反戦運動、それに成田闘争など、いわば「激動」とも呼べうる時代にありました。
その1968年を中心とした美術の潮流を俯瞰するのが、「1968年 激動の時代の芸術」で、絵画、写真、立体、およびインスタレーションのほか、各種資料など、400点もの作品が展示されていました。

羽永光利 《新宿西口フォークゲリラ》 1969年 羽永太朗蔵
冒頭から、当時の社会を示す資料で溢れていて、日大闘争や三里塚闘争を捉えた北井一夫をはじめ、新宿騒乱を写した森山大道の写真、さらには3億円事件のポスターなどが並んでいました。さらには、自作詩の朗読を新宿闘争のフィルムに映した、城之内元晴の「新宿ステーション」の映像も目を引いていて、終始、「ステーション」を連呼する独特の音声が頭から離れませんでした。
日本初の超高層ビルである霞が関ビルが完成したのも、この年で、木村恒久は「多少の欠陥」において、ビルの一部を欠落させたフォトモンタージュを見せていました。言うまでもなく、当時は高度経済成長の間にありました。

鶴岡政男 《ライフルマン》 1968年 広島県立美術館
そして現代美術が続き、千円札裁判でも知られた赤瀬川原平を中心に、横尾忠則、山下菊二、粟津潔の作品などが展示されていました。またこの時代は、環境芸術やインターメディアが盛んで、同芸術のブームを引き起こした、1966年の「空間から環境へ」展の出展作が紹介されていました。
中でも吉村益信の「反物質 ライト・オン・メビウス」が異彩を放っていて、メビウスの輪のようにねじれたステンレスの物体に、たくさんの電球がつき、終始、ピカピカと光っていました。こうした一連の環境芸術は、のちの大阪万博にて隆盛を極めました。*作品保護のため、「反物質 ライト・オン・メビウス」の点灯時間は12時〜16時。
大阪万博も一つのハイライトでした。太陽の塔や各パビリオンの写真をはじめ、横尾忠則のデザインによるせんい館を飾った、四谷シモンの「ルネ・マグリットの男」が、なにやら不敵な笑みを浮かべるような表情で、辺りを見渡していました。一方、万博に対抗した反博にも美術家は参加していて、バスで大阪へ向かいながら、各地で反博のパフォーマンスを行った「反博キャラバン」の写真が目を引きました。
さてこの時代には、「アングラ」と呼ばれた演劇や実験映画、舞踏も多く行われるようになりました。そしてイラストレーションも氾濫し、グラフィックデザインや出版物も盛んになりました。
「赤瀬川原平漫画大全/赤瀬川原平/河出書房新社」
赤瀬川原平が月刊漫画ガロに掲載した、「お座敷」が面白いのではないでしょうか。まさにお座敷を舞台に、反体制派と警官を巡る駆け引きを、半ばドタバタ劇のように戯画として描いていました。会場では全て一面に開いていて、ストーリーを追うことも出来ました。

田名網敬一 《ジェファーソン・エアプレイン ヒッピーの主張》1968年 NANZUKA
LSDなどによる幻覚のイメージを、半ば「デザイン化」(解説より)したサイケデリックも、この時代に一大ムーブメントを起こしました。田名網敬一や横尾忠則にも影響を与えていて、極彩色に彩られたポスター類が多く展示されていました。

藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018
ゴーゴークラブ「MUGEN」にて行われた藤本晴美のライトショーは、実際に再現版を体験することも出来ました。ライフスタイルプロデューサーの浜野安宏がプロデュースした空間で、幾何学的なパターンが、リズミカルな音楽とともに次から次へと空間を演出していました。

藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018
ともかく水玉とも曲線とも捉えうる文様がひたすらに変化していて、極彩色に染まる蝶や植物と思しきモチーフが、まるでネオンサインに光り輝いていました。

藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018
ライトショーのブースのみ撮影も可能です。なにやら不思議でもありつつ、妙にはまるような独特の演出にしばらく見入りました。
ラストは「新世代の台頭」と題し、写真同人誌の「プロヴォーグ」ともの派と概念芸術の活動でした。
1968年、「プロヴォーグ」が創刊されると、森山大道や中平卓馬らの写真家が、「アレ・ブレ・ボケ」と表された旧来の写真の概念から離れた表現を行いました。

関根伸夫 《位相−大地》 1968/1986年 静岡県立美術館
またもの派の発端とされる、関根伸夫の「位相ー大地」も、この年に発表されました。概念芸術では河原温の活動が重要であるかも知れません。
ともかく扱う内容が膨大です。それこそ全共闘、成田闘争、千円札裁判、美共闘、環境芸術、大阪万博に反博、アンダーグラウンドの演劇や舞踏、イラストレーションにガロなどの漫画、サイケデリックの芸術に写真のプロヴォーク、さらにもの派、概念芸術と、一通り挙げても、これほどにまで多岐に渡ります。
率直なところ、怒涛のように続く作品を前にして、途方に暮れることもありましたが、美術を中心としながらも、社会の諸相も抉り取っていて、当時の世に渦巻いた熱気も感じられるような展覧会でした。

藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018
1968年生まれの方は観覧料が500円になります。(要証明書)11月11日まで開催されています。おすすめします。
「1968年 激動の時代の芸術」 千葉市美術館(@ccma_jp)
会期:9月19日(水)~11月11日(日)
休館:10月1日(月)、11月5日(月)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*1968年割引:1968年生まれの場合は観覧料500円。
*10月18日(木)は「市民の日」につき観覧料無料
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
「1968年 激動の時代の芸術」
9/19~11/11

千葉市美術館で開催中の「1968年 激動の時代の芸術」を見てきました。
今から半世紀前、1968年は、全共闘やベトナム反戦運動、それに成田闘争など、いわば「激動」とも呼べうる時代にありました。
その1968年を中心とした美術の潮流を俯瞰するのが、「1968年 激動の時代の芸術」で、絵画、写真、立体、およびインスタレーションのほか、各種資料など、400点もの作品が展示されていました。

羽永光利 《新宿西口フォークゲリラ》 1969年 羽永太朗蔵
冒頭から、当時の社会を示す資料で溢れていて、日大闘争や三里塚闘争を捉えた北井一夫をはじめ、新宿騒乱を写した森山大道の写真、さらには3億円事件のポスターなどが並んでいました。さらには、自作詩の朗読を新宿闘争のフィルムに映した、城之内元晴の「新宿ステーション」の映像も目を引いていて、終始、「ステーション」を連呼する独特の音声が頭から離れませんでした。
日本初の超高層ビルである霞が関ビルが完成したのも、この年で、木村恒久は「多少の欠陥」において、ビルの一部を欠落させたフォトモンタージュを見せていました。言うまでもなく、当時は高度経済成長の間にありました。

鶴岡政男 《ライフルマン》 1968年 広島県立美術館
そして現代美術が続き、千円札裁判でも知られた赤瀬川原平を中心に、横尾忠則、山下菊二、粟津潔の作品などが展示されていました。またこの時代は、環境芸術やインターメディアが盛んで、同芸術のブームを引き起こした、1966年の「空間から環境へ」展の出展作が紹介されていました。
中でも吉村益信の「反物質 ライト・オン・メビウス」が異彩を放っていて、メビウスの輪のようにねじれたステンレスの物体に、たくさんの電球がつき、終始、ピカピカと光っていました。こうした一連の環境芸術は、のちの大阪万博にて隆盛を極めました。*作品保護のため、「反物質 ライト・オン・メビウス」の点灯時間は12時〜16時。
大阪万博も一つのハイライトでした。太陽の塔や各パビリオンの写真をはじめ、横尾忠則のデザインによるせんい館を飾った、四谷シモンの「ルネ・マグリットの男」が、なにやら不敵な笑みを浮かべるような表情で、辺りを見渡していました。一方、万博に対抗した反博にも美術家は参加していて、バスで大阪へ向かいながら、各地で反博のパフォーマンスを行った「反博キャラバン」の写真が目を引きました。
さてこの時代には、「アングラ」と呼ばれた演劇や実験映画、舞踏も多く行われるようになりました。そしてイラストレーションも氾濫し、グラフィックデザインや出版物も盛んになりました。

赤瀬川原平が月刊漫画ガロに掲載した、「お座敷」が面白いのではないでしょうか。まさにお座敷を舞台に、反体制派と警官を巡る駆け引きを、半ばドタバタ劇のように戯画として描いていました。会場では全て一面に開いていて、ストーリーを追うことも出来ました。

田名網敬一 《ジェファーソン・エアプレイン ヒッピーの主張》1968年 NANZUKA
LSDなどによる幻覚のイメージを、半ば「デザイン化」(解説より)したサイケデリックも、この時代に一大ムーブメントを起こしました。田名網敬一や横尾忠則にも影響を与えていて、極彩色に彩られたポスター類が多く展示されていました。

藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018
ゴーゴークラブ「MUGEN」にて行われた藤本晴美のライトショーは、実際に再現版を体験することも出来ました。ライフスタイルプロデューサーの浜野安宏がプロデュースした空間で、幾何学的なパターンが、リズミカルな音楽とともに次から次へと空間を演出していました。

藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018
ともかく水玉とも曲線とも捉えうる文様がひたすらに変化していて、極彩色に染まる蝶や植物と思しきモチーフが、まるでネオンサインに光り輝いていました。

藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018
ライトショーのブースのみ撮影も可能です。なにやら不思議でもありつつ、妙にはまるような独特の演出にしばらく見入りました。
ラストは「新世代の台頭」と題し、写真同人誌の「プロヴォーグ」ともの派と概念芸術の活動でした。
1968年、「プロヴォーグ」が創刊されると、森山大道や中平卓馬らの写真家が、「アレ・ブレ・ボケ」と表された旧来の写真の概念から離れた表現を行いました。

関根伸夫 《位相−大地》 1968/1986年 静岡県立美術館
またもの派の発端とされる、関根伸夫の「位相ー大地」も、この年に発表されました。概念芸術では河原温の活動が重要であるかも知れません。
ともかく扱う内容が膨大です。それこそ全共闘、成田闘争、千円札裁判、美共闘、環境芸術、大阪万博に反博、アンダーグラウンドの演劇や舞踏、イラストレーションにガロなどの漫画、サイケデリックの芸術に写真のプロヴォーク、さらにもの派、概念芸術と、一通り挙げても、これほどにまで多岐に渡ります。
本日9/29~ロードショーの映画『太陽の塔』@Taiyonoto_movie 当館すぐ横の千葉劇場@chibagekijo_usc でも公開中です!もちろん展覧会「1968年 激動の時代の芸術」では、太陽の塔ならびに万博関係の作品、資料そして万博反対派の活動についても展示中。ぜひ映画とともにお楽しみください。 pic.twitter.com/RWjDZtHhLz
— 千葉市美術館 (@ccma_jp) 2018年9月29日
率直なところ、怒涛のように続く作品を前にして、途方に暮れることもありましたが、美術を中心としながらも、社会の諸相も抉り取っていて、当時の世に渦巻いた熱気も感じられるような展覧会でした。

藤本晴美(ライティング・アート・プロデュース)、浜野安宏(トータル・プロデュース)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショー 2018
1968年生まれの方は観覧料が500円になります。(要証明書)11月11日まで開催されています。おすすめします。
「1968年 激動の時代の芸術」 千葉市美術館(@ccma_jp)
会期:9月19日(水)~11月11日(日)
休館:10月1日(月)、11月5日(月)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(960)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*1968年割引:1968年生まれの場合は観覧料500円。
*10月18日(木)は「市民の日」につき観覧料無料
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口よりC-bus(バスのりば16)にて「中央区役所・千葉市美術館前」下車。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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