「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building」 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー
「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building」
10/19〜12/24



東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building」へ行ってきました。

1979年に東京で生まれた建築家の田根剛は、26歳にしてエストニア国立博物館の国際設計競技に勝利するなど、若くしてヨーロッパと日本を中心に多くのプロジェクトを手がけてきました。

その田根の美術館の初の個展が「未来の記憶 Archaeology of the Future」で、「Digging & Building」と題し、建築の場所の記憶を掘り下げながら、今も進行する田根の多様なプロジェクトを紹介していました。


「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building」会場風景

もしあるとすれば、一般的な建築展を想像すると、良い意味で期待を裏切られるかもしれません。冒頭に登場するのは、床面に半ば散乱するようにして置かれた古材で、京都で進行中のプロジェクトで用いられたものでした。


「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building」会場風景

続くスペースには、写真やデッサンほか、無数のイメージが、床から壁の全てを氾濫するかのように広がっていました。これは、田根が「記憶の発掘」として、古代から未来へ向かう記憶を考古学的にリサーチした結果で、各プロジェクトにおいて実施する手法を、美術館の空間で再現しました。


「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building」会場風景

リサーチは、「CLASSIFICATION 記憶は整理される」や「IMPACT 衝撃は最も強い記憶にある」、それに「COMPLEXITY 複雑性に記憶はない」など12のテーマが設定されていて、地図や図面のほか、遺跡や地形、さらには気象や災害の痕跡、はたまた生き物や人体の一部を捉えた写真など、実に多岐に渡る素材が展開していました。ともすると、一見、建築とは結びつかないかもしれません。


「エストニア国立博物館」 タルトゥ 2006年〜2016年

全長10メートルにも及ぶ巨大模型が姿を現しました。それこそが「エストニア国立博物館」の模型で、50分の1のスケールで作られました。


「エストニア国立博物館」 タルトゥ 2006年〜2016年

同博物館の敷地は、かつてのソビエトの軍用施設として占拠された滑走路があり、設計に際しては、その記憶を継承すべく、滑走路の延長線上に接続されました。田根の最終案の採用より、約10年の歳月をかけ、2016年に開館したそうです。


「エストニア国立博物館」 タルトゥ 2006年〜2016年

そして模型の周囲には、古材とともに、田根が「記憶の発掘」をリサーチする過程で集められた、資料やオブジェクトが展示されていました。一連のオブジェクトからは、建築へ至った、田根の思考も伺い知れるかもしれません。


「新国立競技場案 古墳スタジアム」 東京 2012年

「エストニア国立博物館」に次いで目立っていたのは、「新国立競技場案 古墳スタジアム」でした。これは言うまでもなく、2020年の東京オリンピック招致に向けて建て替えの決まった、新たな国立競技場の競技デザイン案で、田根はオリンピックと古代日本最大のピラミッドである古墳が一体となる建築を提案しました。


「新国立競技場案 古墳スタジアム」 東京 2012年

こんもりと積もる森は、まさに神宮の森に連なるかのようで、実に特徴的な景観を見ることが出来ました。ただし、既に知られるように田根案は採用されず、最優秀賞を獲得したザハ・ハディド案から紆余曲折を経て、最終的には隈研吾案が決まり、現在も工事が続いています。


「新国立競技場案 古墳スタジアム」 東京 2012年

模型を覆う苔は本物で、会期中も定期的に水遣りを欠かせないそうです。また明治神宮外苑の古地図や、リサーチに用いられた古墳の資料なども出展されていました。


「Todoroki House in Valley」 東京 2017年〜2018年

ほかにも会場では、「10 kyoto」(京都、2017年〜進行中)や「A House for Oiso」(神奈川、2014〜2015年)、それに「Todoroki House in Valley」(東京、2017〜2018年)など、計7つのプロジェクトが、大型模型とオブジェクトによって紹介されていました。


「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building」会場風景

いずれもキャプションこそあるものの、明確にスペースが区切られていなく、緩やかに繋がるように展開していました。古い遺物などを見やりながら、縫うように歩いていると、さながら森の中に迷い込んだかのような錯覚に陥るかもしれません。


「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building」会場風景

ラストには、完成、未完、さらにコンペの勝利有無を問わず、これまでに田根が提案してきた100以上のプロジェクトが、年表の形式で紹介されていました。


「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building」会場風景

ここでは、例えば「新井淳一の布」(東京オペラシティーアートギャラリー、2013年)の会場構成や、舞踊団Noismの「劇的舞踊 ラ・バヤデール 幻の国」(りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館、2016年)の舞台美術など、単に建築だけに留まらない、田根の幅広い活動も見ることが出来ました。


「エストニア国立博物館」 映像:藤井光

アーティストの藤井光が「エストニア国立博物館」などを捉えた、大型プロジェクションの映像作品も迫力がありました。田根の思想に共鳴した藤井は、竣工プロジェクトやパリのアトリエを訪問し、撮影を行ったそうです。


TOTOギャラリー・間での展示風景

「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future―Search & Research」TOTOギャラリー・間
会期:10月18日(木)~12月23日(日・祝)
https://jp.toto.com/gallerma/

また田根は、本展と同時に、ギャラリー・間でも同名のタイトルでの個展を開催し、今度は「Search & Research」のテーマの元、建築における思考や考察のプロセスを模型などで紹介しています。(12月23日終了。)


「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building」会場風景

ともに会期末を迎えましたが、初台と乃木坂の双方で、田根の過去と現在、そして未来への活動を知る良い機会と言えそうです。

「田根 剛 アーキオロジーからアーキテクチャーへ/TOTO出版」

撮影も可能です。12月24日まで開催されています。

「田根 剛|未来の記憶 Archaeology of the Future ─ Digging & Building」 東京オペラシティアートギャラリー
会期:10月19日(金)〜12月24日(月)
休館:月曜日。
 *但し12月24日は開館。
時間:11:00~19:00 
 *金・土は20時まで開館。
 *入場は閉館30分前まで。
料金:一般1200(1000)円、大・高生800(600)円、中学生以下無料。
 *同時開催中の「収蔵品展064 異国で描く」、「project N 73 中村太一」の入場料を含む。
 *( )内は15名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
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