「第24回 岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」 川崎市岡本太郎美術館

川崎市岡本太郎美術館
「第24回 岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」
2021/2/20~4/11



岡本太郎の精神を継承し、現代美術作家を顕彰する「岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」も、今年で第24回を迎えました。

今回の応募総数は、前回の452点より大幅に増えて616点でした。そのうち美術専門家を審査を得て、入選を果たした作品が、川崎市岡本太郎美術館にて公開されています。


大西芽布「レクイコロス」 岡本太郎賞

まず最高賞である岡本太郎賞に選ばれたのは、2003年生まれの大西芽布による「レクイコロス」で、グロテスクとも呼べるような人間の群像が大小様々なキャンバスへと溢れるように描かれていました。



この「レクイコロス」とは、レクイエムにコロナウイルスを合成した造語で、直接的に殺戮の場面などは見られなかったものの、それこそ死を思わせるような世界が広がっていました。大西は実際にも父の影響により、幼い頃からゾンビやホラーの外国映画に親しんでいたそうです。



大西は「人間の悲惨を作品化することに衝動を感じる」としていましたが、確かに生から死へと否応なしに追い込まれた人物の魂の叫びが発露しているかのようで、猟奇的なまでのエネルギーが渦巻いていました。またねっとりとした油彩の筆触そのものにも作家の衝動が憑依しているかのようで、大変な迫力を感じました。


モリソン小林「break on through」 岡本敏子賞

岡本敏子賞を受賞したモリソン小林の「break on through」にも魅せられました。約5メートル四方の空間には、標本植物の根が枠を突き抜けながら壁や床へと伸ばしていて、それらは他の植物と繋がっていました。



また床面からもシダを思わせる植物が生え、壁には花を咲かせた朝顔と思しき植物も蔓を巻いていて、全てが有機的に絡み合っていました。



いずれの植物も精巧に象られているため、一見するところ本物を用いたインスタレーションと思ってしまいがちですが、実際には全て金属で作られていました。何とも卓越した造形技術を駆使しているようで、にわかには金属と信じられないほどでした。


小野環「再編街」 特別賞

特別賞の小野環の「再編街」も意外な素材感からして面白い作品でした。合板の台の上には紙によって作られた建築模型が置かれていて、昭和期に日本住宅公団が建てた星型のスターハウスや、現在の鎌倉文華館である旧神奈川県立近代美術館鎌倉館などがありました。



さながらジオラマのように広がる模型そのものも魅惑的でしたが、細部に目を凝らすと、百科事典や美術全集などを素材としていることが分かりました。また元になる書籍を切り取って見せたり、本棚の並ぶ書斎、さらには彫像を製作するアトリエのような空間も作り上げていました。



戦後の日本の家庭でステータスシンボルでもあった美術全集が、多くは役目を終えて取り壊されたスターハウスなどに再構成されつつ、新たに蘇った作品と言えるのかもしれません。


金子朋樹「Undulation / 紆濤 -オオヤマツミ」

麻紙に墨や顔料などを用いた金子朋樹の「Undulation / 紆濤 -オオヤマツミ」にも心惹かれました。大型の変形屏風には高層ビルのシルエットとともに、幾重にも連なる山々が描かれていて、空にはヘリコプターや飛行船が飛びつつ、全ては白い霧に包まれているかのようでした。



はじめは屏風の表のみに絵画が描かれていると思いきや、実は裏面はおろか、展示室の壁面にも紙が連なっていて、やはり山々やビルのモチーフが浮かび上がっていました。オオツヤマツミとは古より山の神を表す言葉だそうですが、霞に包まれた幻想的な光景を目にしていると、あたかも神が息を吐いては大気を満たしているようにも感じられました。


西野壮平「別府温泉世界地図」

温泉街の別府に訪ねた旅の写真をコラージュしたのが、西野壮平の「別府温泉世界地図」でした。ここには約1ヶ月間、別府市内で撮影した2万枚もの写真を地図に則してキャンバスに貼り合わせていて、別府駅や道路をはじめ、ひしめく建物から浴場、さらには同地の看板までもが縮尺を問わずにモザイクのように広がっていました。


なかざわたかひろ「ウィズコロナの肖像」

コロナ禍における巣ごもり生活をいわば反映したとも言えるのが、なかざわたかひろの「ウィズコロナの肖像」と題する連作でした。なかざわは外出も難しい中、毎日誰か一人の肖像をイラストに描いていて、政治家やスポーツ選手、それにタレントなどの著名人のポートレートが一面に並んでいました。



当初はなかなか開幕しなかったプロ野球の選手などを描きつつ、緊急事態宣言が一度開けてからは日々のニュースに登場する人物をモチーフとしていて、なかざわがコロナ禍で何に関心を持っていたのかが明らかになると同時に、ポートレートを通して昨年の社会の動向が反映されているようにも感じられました。


東弘一郎「回転する不在」

この他では多くの自転車を素材にした東弘一郎の「回転する不在」や、街灯やテレビ、それに家具に廃材などを堆く積み上げたみなみりょうへいの「雰囲気の向こう側」も目立っていました。


みなみりょうへい「雰囲気の向こう側」

会期中に行われる入選作家によるパフォーマンスに合わせて出かけるのも面白いかもしれません。(詳細は同館WEBサイトへ)


また今回も「お気に入りを選ぼう!」として、気に入った作品を投票するコーナーが用意されていました。なお投票期間は3月21日までで、結果は3月25日にWEBサイトにて発表されます。


浮遊亭骨牌 作品風景 特別賞

屋外のシンボルタワー「母の塔」の横にも、特別賞を受賞した浮遊亭骨牌の作品が展示されていました。こちらもお見逃しなきようご注意ください。(3月20日以降、会期末までの土日の14時から17時までに限り、茶室の中を見学することができます。)



常設展示を含めて撮影も可能でした。事前予約は不要です。4月11日まで開催されています。

*一番上の写真作品は植竹雄二郎の「Self portrait」(特別賞)

「第24回 岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」 川崎市岡本太郎美術館@taromuseum
会期:2021年2月20日(土)~4月11日(日)
休館:月曜日。2月24日。
時間:9:30~17:00
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般700(560)円、大・高生・65歳以上500(400)円、中学生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *常設展も観覧可。
住所:川崎市多摩区枡形7-1-5
交通:小田急線向ヶ丘遊園駅から徒歩約20分。向ヶ丘遊園駅南口ターミナルより「溝口駅南口行」バス(5番のりば・溝19系統)で「生田緑地入口」で下車。徒歩5分。
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