都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「VOCA展2021」 上野の森美術館
上野の森美術館
「VOCA展2021 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」
2021/3/12~3/30
上野の森美術館で開催中の「VOCA展2021 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」を見てきました。
40歳以下の現代作家の平面表現を紹介する「VOCA展」も、第28回目を迎えるに至りました。
今回も例年同様、学芸員や研究者などが40歳以下の作家を推薦し、それぞれの作家が新作を出品する方式がとられていて、31名の推薦委員より選ばれた30作家の作品が展示されていました。そして5名の選考委員の審議を経て、VOCA賞や奨励賞、それに佳作賞などが決定されました。
尾花賢一「上野山コスモロジー」 VOCA賞
まずVOCA賞を受賞したのは尾花賢一の「上野山コスモロジー」で、木のフレームや額縁を組み合わせ、上野を舞台とした過去と現在の情景を吹き出しの入った漫画風の絵画に描いていました。
上野の美術館や動物園、さらには公園のカフェやカラスなどの生き物、はたまたホームレスの人の暮らしなどをモチーフとしていて、中にはモナリザの日本初公開を伝える記事や、父と一緒に東京都美術館へと足を運んだ思い出なども表されていました。上野の多様な世界を複層的に表現した作品と言えるかもしれません。
弓指寛治「鍬の戦士と鉄の巨人」 VOCA佳作賞
VOCA佳作賞の弓指寛治の「鍬の戦士と鉄の巨人」も迫力があったのではないでしょうか。青やオレンジなど色彩豊かな画面には、脱線するかのような勢いで突き進む旧満洲の蒸気機関車が描かれていて、農作業をする人などがいる一方、機関車に轢かれている人もいました。
作家の祖父は10代にして満蒙開拓民として当地へ渡り、鉄道レールの敷設に従事したそうですが、繁栄と侵略の象徴でもある同鉄道の両面性を巧みに表しているように思えました。
八木祐介「共喰い」
八木祐介の「共喰い」も目立っていました。縦長の画面には奥へ伸びる一本道と林立する電柱、そして複雑に張り巡らされた電線が描かれていて、強調された遠近感ゆえか中へと吸い込まれるような錯覚に囚われました。
電柱の立ち並ぶ様子は日常的と言えるかもしれませんが、何も周囲に見当たらない暗がりの風景だからか、しばらく見ていると一抹の不安感を覚えてなりませんでした。また隆起したような土絵具による画面の質感も独特だったかもしれません。それこそ現在、練馬区立美術館で開催中の「電線絵画」展に出品しても何ら不思議はありませんでした。
桑原理早「私の中の彼女」
墨や岩絵具を用いて群像を描いた桑原理早の「私の中の彼女」も魅惑的だったのではないでしょうか。一面には細い線により女性の裸体などが表されていて、まるで空間に浮きつつ、それぞれの身体が透けて溶け合っているような光景を見せていました。
桑原は人間をテーマに制作をしているものの、コロナ禍によってモデルを呼ぶことが困難になり、過去に描いた群像をベースにして本作を描いたそうです。互いに重なり合うような女性を前にしていると、確かにリアルな表現ながら、夢の中の幻想的な光景を目の当たりにしているような気にもさせられました。
盛圭太「Bug report(Booster)」
糸を切断し、グルーガンで貼ることを繰り返しながら線を描いた、盛圭太の「Bug report(Booster)」も印象に残りました。細い縦長の画面には塔と機械とも呼べるようなモチーフが浮かび上がっていて、青や白い糸が集積回路のように断片的に張り巡らされていました。
盛は昨年に東京都現代美術館にて開かれた「ドローイングの可能性」においても、同じグルーガンを用いて大規模なドローイングを展開していましたが、糸が互いに接着しては分断するような動きが感じられるのも面白いところかもしれません。
水戸部七絵「picture Diary 20200910(左)、20200904(右)」 VOCA奨励賞
入場に際しての予約は不要です。撮影も出来ました。
岡本秀「複数の真理とその二次的な利用」 VOCA佳作賞 大原美術館賞
3月30日まで開催されています。
「VOCA展2021 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」 上野の森美術館(@UenoMoriMuseum)
会期:2021年3月12日(金) ~3月30日 (火)
休館:会期中無休。
時間:10:00~17:00
*入場は閉館30分前まで。
料金:一般800円、大学生500円、高校生以下無料
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅徒歩5分。京成線京成上野駅徒歩5分。
「VOCA展2021 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」
2021/3/12~3/30
上野の森美術館で開催中の「VOCA展2021 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」を見てきました。
40歳以下の現代作家の平面表現を紹介する「VOCA展」も、第28回目を迎えるに至りました。
今回も例年同様、学芸員や研究者などが40歳以下の作家を推薦し、それぞれの作家が新作を出品する方式がとられていて、31名の推薦委員より選ばれた30作家の作品が展示されていました。そして5名の選考委員の審議を経て、VOCA賞や奨励賞、それに佳作賞などが決定されました。
尾花賢一「上野山コスモロジー」 VOCA賞
まずVOCA賞を受賞したのは尾花賢一の「上野山コスモロジー」で、木のフレームや額縁を組み合わせ、上野を舞台とした過去と現在の情景を吹き出しの入った漫画風の絵画に描いていました。
上野の美術館や動物園、さらには公園のカフェやカラスなどの生き物、はたまたホームレスの人の暮らしなどをモチーフとしていて、中にはモナリザの日本初公開を伝える記事や、父と一緒に東京都美術館へと足を運んだ思い出なども表されていました。上野の多様な世界を複層的に表現した作品と言えるかもしれません。
弓指寛治「鍬の戦士と鉄の巨人」 VOCA佳作賞
VOCA佳作賞の弓指寛治の「鍬の戦士と鉄の巨人」も迫力があったのではないでしょうか。青やオレンジなど色彩豊かな画面には、脱線するかのような勢いで突き進む旧満洲の蒸気機関車が描かれていて、農作業をする人などがいる一方、機関車に轢かれている人もいました。
作家の祖父は10代にして満蒙開拓民として当地へ渡り、鉄道レールの敷設に従事したそうですが、繁栄と侵略の象徴でもある同鉄道の両面性を巧みに表しているように思えました。
八木祐介「共喰い」
八木祐介の「共喰い」も目立っていました。縦長の画面には奥へ伸びる一本道と林立する電柱、そして複雑に張り巡らされた電線が描かれていて、強調された遠近感ゆえか中へと吸い込まれるような錯覚に囚われました。
電柱の立ち並ぶ様子は日常的と言えるかもしれませんが、何も周囲に見当たらない暗がりの風景だからか、しばらく見ていると一抹の不安感を覚えてなりませんでした。また隆起したような土絵具による画面の質感も独特だったかもしれません。それこそ現在、練馬区立美術館で開催中の「電線絵画」展に出品しても何ら不思議はありませんでした。
桑原理早「私の中の彼女」
墨や岩絵具を用いて群像を描いた桑原理早の「私の中の彼女」も魅惑的だったのではないでしょうか。一面には細い線により女性の裸体などが表されていて、まるで空間に浮きつつ、それぞれの身体が透けて溶け合っているような光景を見せていました。
桑原は人間をテーマに制作をしているものの、コロナ禍によってモデルを呼ぶことが困難になり、過去に描いた群像をベースにして本作を描いたそうです。互いに重なり合うような女性を前にしていると、確かにリアルな表現ながら、夢の中の幻想的な光景を目の当たりにしているような気にもさせられました。
盛圭太「Bug report(Booster)」
糸を切断し、グルーガンで貼ることを繰り返しながら線を描いた、盛圭太の「Bug report(Booster)」も印象に残りました。細い縦長の画面には塔と機械とも呼べるようなモチーフが浮かび上がっていて、青や白い糸が集積回路のように断片的に張り巡らされていました。
盛は昨年に東京都現代美術館にて開かれた「ドローイングの可能性」においても、同じグルーガンを用いて大規模なドローイングを展開していましたが、糸が互いに接着しては分断するような動きが感じられるのも面白いところかもしれません。
水戸部七絵「picture Diary 20200910(左)、20200904(右)」 VOCA奨励賞
入場に際しての予約は不要です。撮影も出来ました。
岡本秀「複数の真理とその二次的な利用」 VOCA佳作賞 大原美術館賞
3月30日まで開催されています。
「VOCA展2021 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」 上野の森美術館(@UenoMoriMuseum)
会期:2021年3月12日(金) ~3月30日 (火)
休館:会期中無休。
時間:10:00~17:00
*入場は閉館30分前まで。
料金:一般800円、大学生500円、高校生以下無料
住所:台東区上野公園1-2
交通:JR線上野駅公園口より徒歩3分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅徒歩5分。京成線京成上野駅徒歩5分。
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