都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」 サントリー美術館
サントリー美術館
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」
2021/4/14~6/27
サントリー美術館で開催中の「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」を見てきました。
アメリカ中西部のミネソタ州の都市に位置し、良質な日本美術の作品を多く有するミネアポリス美術館のコレクションが、日本へと里帰りして来ました。
それが「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」で、会場には中世より近代へと至る水墨画、屏風絵、浮世絵、さらに南画など約90点の作品が展示されていました。
山田道安「龍虎図屏風」 室町時代、16世紀
冒頭の水墨画では山田道安の「龍虎図屏風」が目立っていたかもしれません。戦国時代に雪舟流の画家に学び、武人でもあった道安による六曲一双の作品で、波しぶきの上から龍が現れ、風の吹き荒れる中に身を構えた虎の様子を対比するように描いていました。白い波頭や風にしなる竹の表現などもダイナミックではないでしょうか。
藝愛「粟に雀図」 室町時代、16世紀
室町時代に活動し、将軍の御用絵師の子であるという説があるものの、必ずしも来歴が定かではない藝愛の「粟に雀図」にも惹かれました。ここでは粟の実をついばもうとしたり、地面の上で何やら喧嘩をするような雀が可愛らしく描かれていて、粟の下に生える草花も細かに表されていました。
狩野山雪「群仙図襖(旧・天祥院客殿襖絵)」 江戸時代、正保3(1646)年
かつて大覚寺正寝殿にあった伝山楽の「四季耕作図襖」と旧天祥院客殿を飾っていた山雪の「群仙図襖」といった、狩野派にも優品が少なくありませんでした。このうち後者の「群仙図襖」は鮮やかな金地を背景に、9名の仙人や童子が描かれていて、上質な顔料を用いたのか驚くほどに彩色が鮮やかでした。
「武蔵野図屏風」 江戸時代、17世紀
やまと絵では一面に薄が広がり満月が地平低く沈む「武蔵野図屏風」に魅せられました。薄とともに秋の花々も描きこまれていて、上方の金雲が水流へと変化するように薄原へと広がっていました。武蔵野図は江戸時代前期に流行したモチーフとして知られていますが、花や水流の表現などからより装飾性の高い作品と言えるかもしれません。
伊藤若冲「鶏図押絵貼屏風」 江戸時代、18世紀
いわゆる奇想の絵師として人気の高い蕭白や若冲らの作品も見どころだったのではないでしょうか。まるで席画のように素早く激しい筆致で描かれた蕭白の「群鶴図屏風」をはじめ、得意とした鶏の様々な姿を描いた若冲の「鶏図押絵貼屏風」などが印象に残りました。
ただそうした有名な作品だけでなく、あまり知られていない絵師にも興味深い作品があるのも、今回の里帰り展の大きな魅力かもしれません。
三畠上龍「舞妓覗き見図」 江戸時代、19世紀
その1つが天保年間の京都で活動し、四条派に学びつつ風俗画を得意としたという三畠上龍の「舞妓覗き見図」でした。左右の対の画面には桜の舞う中に立つ艶やかな女性ともに、円窓から顔を出す少年が描かれていて、とりわけ目を開いた少年の表情はグロテスクと呼んでいいほどに奇異でした。
青木年雄「鍾馗鬼共之図」 明治時代、19世紀
明治時代に渡米してカルフォルニアなどで活動したという青木年雄の「鍾馗鬼共之図」は、鍾馗の周囲の鬼が画面を遍く埋め尽くすように表された作品で、濃厚でかつ陰影の極めて強い描写などに目を引かれました。
鈴木松年「春山帰樵図」 明治時代、19~20世紀
同じく明治時代では鈴木松年の「春山帰樵図」も情緒的な作品かもしれません。ちょうど柴を背負った人物が渓谷に沿って歩いていて、切り立った崖の合間には白い霧が漂いつつ、淡い色をつけた山桜が花を咲かせていました。
葛飾北斎「百物語 さらやしき」 江戸時代、天保2~3(1831~32)年
春信に清長、歌麿、写楽に北斎といった浮世絵も充実していました。しかも総じて状態が良いのか発色が良いのも特徴で、浮世絵の最大の魅力でもある鮮やかな色彩を楽しむことができました。
東洲斎写楽「二代目市川門之助の伊達与作」 江戸時代、寛政6(1794)年
振り返れば2007年に渋谷区立松濤美術館の「Great Ukiyoe Masters」でもミネアポリス美術館の浮世絵コレクションが公開されて評判を呼びましたが、今回の里帰り展のハイライトの1つとして浮世絵を挙げても差し支えないかもしれません。
狩野芳崖「巨鷲図」 明治21(1888)年頃
この他では狩野芳崖の「巨鷲図」や山村耕花の「春」なども魅惑的に映りました。ともかくどのジャンルの作品も粒が揃っていて、「名品展」とするのも誇張とは思えませんでした。
右:山村耕花「春」 大正4(1915)年
緊急事態宣言を受けて4月25日から臨時休館していましたが、休業要請の緩和に伴って6月2日に再開しました。但し会期の延長はありません。
予約は不要です。撮影も可能でした。
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」会場風景
6月27日まで開催されています。なお東京での展示を終えると、福島県立美術館(2021年7月8日~9月5日)、及びMIHO MUSEUM(2021年9月18日~12月12日)他へと巡回(会期は予定)します。 *一番上の写真の作品は、酒井抱一「源氏物語 秋好中宮・白萩図」 江戸時代、19世紀
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:2021年4月14日(水)~6月27日(日)
休館:火曜日。*5月4日は20時まで、6月22日は18時まで開館。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
*金・土曜は20時まで開館。
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」
2021/4/14~6/27
サントリー美術館で開催中の「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」を見てきました。
アメリカ中西部のミネソタ州の都市に位置し、良質な日本美術の作品を多く有するミネアポリス美術館のコレクションが、日本へと里帰りして来ました。
それが「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」で、会場には中世より近代へと至る水墨画、屏風絵、浮世絵、さらに南画など約90点の作品が展示されていました。
山田道安「龍虎図屏風」 室町時代、16世紀
冒頭の水墨画では山田道安の「龍虎図屏風」が目立っていたかもしれません。戦国時代に雪舟流の画家に学び、武人でもあった道安による六曲一双の作品で、波しぶきの上から龍が現れ、風の吹き荒れる中に身を構えた虎の様子を対比するように描いていました。白い波頭や風にしなる竹の表現などもダイナミックではないでしょうか。
藝愛「粟に雀図」 室町時代、16世紀
室町時代に活動し、将軍の御用絵師の子であるという説があるものの、必ずしも来歴が定かではない藝愛の「粟に雀図」にも惹かれました。ここでは粟の実をついばもうとしたり、地面の上で何やら喧嘩をするような雀が可愛らしく描かれていて、粟の下に生える草花も細かに表されていました。
狩野山雪「群仙図襖(旧・天祥院客殿襖絵)」 江戸時代、正保3(1646)年
かつて大覚寺正寝殿にあった伝山楽の「四季耕作図襖」と旧天祥院客殿を飾っていた山雪の「群仙図襖」といった、狩野派にも優品が少なくありませんでした。このうち後者の「群仙図襖」は鮮やかな金地を背景に、9名の仙人や童子が描かれていて、上質な顔料を用いたのか驚くほどに彩色が鮮やかでした。
「武蔵野図屏風」 江戸時代、17世紀
やまと絵では一面に薄が広がり満月が地平低く沈む「武蔵野図屏風」に魅せられました。薄とともに秋の花々も描きこまれていて、上方の金雲が水流へと変化するように薄原へと広がっていました。武蔵野図は江戸時代前期に流行したモチーフとして知られていますが、花や水流の表現などからより装飾性の高い作品と言えるかもしれません。
伊藤若冲「鶏図押絵貼屏風」 江戸時代、18世紀
いわゆる奇想の絵師として人気の高い蕭白や若冲らの作品も見どころだったのではないでしょうか。まるで席画のように素早く激しい筆致で描かれた蕭白の「群鶴図屏風」をはじめ、得意とした鶏の様々な姿を描いた若冲の「鶏図押絵貼屏風」などが印象に残りました。
ただそうした有名な作品だけでなく、あまり知られていない絵師にも興味深い作品があるのも、今回の里帰り展の大きな魅力かもしれません。
三畠上龍「舞妓覗き見図」 江戸時代、19世紀
その1つが天保年間の京都で活動し、四条派に学びつつ風俗画を得意としたという三畠上龍の「舞妓覗き見図」でした。左右の対の画面には桜の舞う中に立つ艶やかな女性ともに、円窓から顔を出す少年が描かれていて、とりわけ目を開いた少年の表情はグロテスクと呼んでいいほどに奇異でした。
青木年雄「鍾馗鬼共之図」 明治時代、19世紀
明治時代に渡米してカルフォルニアなどで活動したという青木年雄の「鍾馗鬼共之図」は、鍾馗の周囲の鬼が画面を遍く埋め尽くすように表された作品で、濃厚でかつ陰影の極めて強い描写などに目を引かれました。
鈴木松年「春山帰樵図」 明治時代、19~20世紀
同じく明治時代では鈴木松年の「春山帰樵図」も情緒的な作品かもしれません。ちょうど柴を背負った人物が渓谷に沿って歩いていて、切り立った崖の合間には白い霧が漂いつつ、淡い色をつけた山桜が花を咲かせていました。
葛飾北斎「百物語 さらやしき」 江戸時代、天保2~3(1831~32)年
春信に清長、歌麿、写楽に北斎といった浮世絵も充実していました。しかも総じて状態が良いのか発色が良いのも特徴で、浮世絵の最大の魅力でもある鮮やかな色彩を楽しむことができました。
東洲斎写楽「二代目市川門之助の伊達与作」 江戸時代、寛政6(1794)年
振り返れば2007年に渋谷区立松濤美術館の「Great Ukiyoe Masters」でもミネアポリス美術館の浮世絵コレクションが公開されて評判を呼びましたが、今回の里帰り展のハイライトの1つとして浮世絵を挙げても差し支えないかもしれません。
狩野芳崖「巨鷲図」 明治21(1888)年頃
この他では狩野芳崖の「巨鷲図」や山村耕花の「春」なども魅惑的に映りました。ともかくどのジャンルの作品も粒が揃っていて、「名品展」とするのも誇張とは思えませんでした。
右:山村耕花「春」 大正4(1915)年
緊急事態宣言を受けて4月25日から臨時休館していましたが、休業要請の緩和に伴って6月2日に再開しました。但し会期の延長はありません。
\20時まで開館/#ミネアポリス美術館展 では金曜・土曜は20時まで開館。本展の目玉のひとつ、雪村周継「花鳥図屛風」も通期で展示中です。 #Mia展 #Mia展推し絵師https://t.co/mWSr8X8jRy pic.twitter.com/koyRaf7fRX
— サントリー美術館 (@sun_SMA) June 4, 2021
予約は不要です。撮影も可能でした。
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」会場風景
6月27日まで開催されています。なお東京での展示を終えると、福島県立美術館(2021年7月8日~9月5日)、及びMIHO MUSEUM(2021年9月18日~12月12日)他へと巡回(会期は予定)します。 *一番上の写真の作品は、酒井抱一「源氏物語 秋好中宮・白萩図」 江戸時代、19世紀
「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品」 サントリー美術館(@sun_SMA)
会期:2021年4月14日(水)~6月27日(日)
休館:火曜日。*5月4日は20時まで、6月22日は18時まで開館。
時間:10:00~18:00
*入館は閉館の30分前まで。
*金・土曜は20時まで開館。
料金:一般1500円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分
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