例によって先走りで独断ではあるが、最近の中東情勢と欧米の動きに私には潮目の変化を感じた。あえて仮説と言わせてもらえれば、米国が伝統的孤立主義に回帰する可能性がでてきた。
論争
昨年から続いていたブッシュ政権の評価についての米国の友人との論争で、私は敗北を認めた。彼は民主党支持知識人の主張と同じ所謂リベラリズムの立場にいた。一方、私は心情的にはそうでもブッシュが偉大な大統領と評価されるため、2期目にはレーガンやクリントンと同じように現実的な政策に軌道修正するはずでそう悪くはならないだろう主張した。
失望
しかし、1月の年頭教書で打ち出したニュー・ブッシュは私には言葉だけで内容の伴わない空疎な内容だった。エネルギー政策がその端的な例で、言葉は立派でも具体的な政策は誠にお粗末な内容で、ニクソン政権末期に酷評された言葉と実行の「クレディビリティ・ギャップ」を思い出した。
敗北宣言
その後、約1ヶ月見守ったが私の印象を裏付けるようなニュースが続きギブアップ、敗北宣言をした。彼はブッシュは米国を悪化させるという論争で勝利したので勝っても少しも嬉しくないと冷静。 その中でも最も深刻なのは中東情勢、イラクは宗派対立が悪化内戦状態に向かい、イスラエルはシャロンが倒れハマス極左集団がパレスチナ議会の多数を握ったことである。
広がる厭戦気分
ブッシュ再選を支えイラクに送り出された兵士の供給元であるレッド・ステート(南部・中西部諸州)では戦争犠牲者が増え先々明るい見通しがない中で厭戦気分が広がり、孤立主義に向かいつつあると報じられている。兵士は中東に民主主義国を打ち立てるためではなく、米国を守るため戦場に向かったが、今は何故イラクにいるのか理由を失った。
知識層のジレンマ
方や戦争を支持した知識層も、民主主義化の手段である選挙が結果的にイラクやパレスチナ過激派の勢力を強める手助けをし、こんなことなら人権無視する独裁政権のほうがマシだったのではないかという深刻なジレンマに陥っている。アラブ社会は民主主義に移行する準備が出来てないという見方である。
歴史の振り子
民主主義への移行準備云々の結果論をブッシュの判断にだけに帰するのはやや不公平である。しかし、いずれにしても次の大統領選は世界に民主主義を布教するネオコンから、国内イシューを優先する孤立主義に振り子が大きく振れる可能性が極めて高くなったと私は思う。
欧州の擦寄り
イラク戦争で米国と対立した独仏は、今国内に深刻なイスラム社会の病巣を抱え米国との関係修復に向かい始めた。米国に代わりイランの核開発を抑制させる圧力をかけた。拡大欧州が内部に抱える矛盾にぶつかった時、必ず振り戻しサイクルに入るのは予想された事である。やや皮肉なタイミングとはいえ文明の衝突の時代にあって価値観を共有する者の正常な動きである。
米国の躊躇
結果論的には米国が計画し私も秘かに期待した中東の民主化は残念ながら停滞しつつある。事態は悪化しているのに米国は手を出しかね介入を躊躇し始めた。欧州の回帰も情勢を好転させるために十分機能するか不透明である。
レームダック?
米国が今後急速に孤立主義に向かうとすればブッシュ政権は早々とレームダック化し、中東民主化は頓挫する恐れがある。そういう事態になれば世界の失うものは極めて大きく、それ故にブッシュ大統領の名前は歴史に刻まれるであろう。私はその芽が出て来たと感じる。
ノンポリ日本
ポスト小泉政権の舵取りは多元的情勢判断の見極めが求められる。日本の関わり方が今までどおり経済優先のノンポリで済ませられるとは思えない。それだけの広い視野を持った指導者が政権に付くことは我国にとって考えうる最高の贅沢であろう。
余談
政治は経済の変化と連動して起こる。米国の住宅バブルが収束の動きから米国経済成長減速の兆し、日本のデフレ脱却と長期金利上昇の気配、中国経済の調整モードへの転換など今年後半から來年にかけて世界経済は一本調子の成長からスローダウンする可能性がある。これがポストブッシュ大統領選の基調を決めるもう一つの要因になる可能性がある。■