どうやら胡主席は本気で中国を変えようとしている。先に上海閥の年金不正流用の手入れをした時は江沢民系人脈を集中的に狙った権力闘争という見方が大勢であった。詳細は依然不明だがその後続いて起こった事件を総合すると、「大変革」といって差し支えない変化が推測される。
9月末から300人以上の党調査員を動員して北京の党調達関連の取引を根こそぎ調べ、党トップに繋がる不正を暴いているらしい。匿名情報では前書記長とか北京党書記クラスの大物にまで捜査の手が伸びている。上海と異なり北京オリンピックの成功は国家の最大優先事項の為、実行体制に混乱を与えないよう表向きの処分は抑えたものになるという見方もあるが。
江沢民からの胡主席に替わり5年経過、今ここで権力移譲を100%完了させなければならない理由は、「調和の取れた社会(和諧社会)」の建設を掲げて経済急成長で噴出した矛盾を次の5年で解決するのが大事業で、それを必達すると言う強い決意の現れと思われる。それだけ中国の事態は深刻で追い詰められているともいえるが。
その決意は半端なものではない、改革の内容が明らかになるにつれ中国政府の優先順位がガラガラと音を立てて変化しつつあるのを感じる。NYタイムスは今回の変革は1989天安門事件直後の鄧小平の改革以来の規模になると報じている。
上海閥の処分と関連して3月に就任したばかりの邱統計局長の解任が先週発表された。この前局長は解任された上海市書記に近く、高成長を追求する発展モデルの修正を図る指導部の方針と一致せず、統計数字偽造の疑惑を招き著しく信頼を損ねていた。
同じ頃、最高人民裁判所調査チームが広東州深センに駐屯、数十人の裁判官を億元を超す汚職で取り調べた。市での数カ月間の滞在を経て、現在まで副裁判所長1名、裁判長2名、判事1名、部長1名の計5名を汚職容疑で取り調べ中、他にも裁判所長や裁判長クラスの幹部が重点調査対象のブラックリストに名を連ねている(NBonline)という。
地方政府の汚職や裁判官の不正は上海・北京・深センほどの規模ではないにしても中国全土に捜査の手が伸びているようだ。裁判所を含め汚職は中国全土に「普遍的」に存在するものであり、上記の例はほんの氷山の一角にすぎない。
最近の例では9月に湖北省の武漢市中級人民裁判所の裁判所長が取調べを受け辞職、8月には安徽省阜陽市中級人民裁判所で新旧3代の裁判所長である、尚軍(女)、劉家義、張自民の3名が収賄と不正蓄財により起訴されたという(NBonline)。
更に、先月31日「全ての死刑判決は最高裁のレビューを受ける」よう通達されたとNYタイムスは報じている。中国の死刑数は推定年間1万に上るといわれ、中国を除く世界中の死刑数よりも多いと人権団体から非難を受けていたが、この通達により3割は死刑が減るだろうと中国メディアは見ている。
これまで死刑は共産党一党独裁の道具であり、官僚の汚職の歯止めと見做されていた。汚職や犯罪の蔓延が経済改革の妨げになるのを恐れた鄧小平は地方裁判所が迅速に死刑判決を出せるシステムを作った。しかし、彼も裁判官がこれ程堕落するとは思わなかったようだ。
裁く者の資質に疑惑が生じ、拷問などによる安易な死刑連発を減らさねばならない事態になった。既に最高裁に200人の専任の判事を確保し、1月から地方裁判所の死刑判決の妥当性をレビューする態勢が出来、今後死刑判決が激減すると予想されている。
人権団体は依然司法が独立してない制度の抜本的見直しを主張している。しかし、胡主席の狙いは共産党独裁政権維持という枠内ではあっても、鄧小平が導入し今日の中国を築いた土台を見直すという「腹をくくった大変革」といっても良い。そんな時北朝鮮が核実験すると聞き激怒し、靖国神社参拝など棚上げして日中外交関係修復を優先した胡主席の決断は理解できる。■