見もの・読みもの日記

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物見遊山で何が悪い/日本美術観光団

2004-05-30 22:20:09 | 読んだもの(書籍)
○赤瀬川原平、山下裕二『日本美術観光団』朝日新聞社 2004.5

 2週間ほど前に発売になった本。今日は青山ブックセンター本店で、日本美術応援団の団長・山下先生と、団員1号・赤瀬川さん、この本の装丁も担当している南伸坊さんの3人による「公開ゼミ」を聞きにいった。

 このシリーズは2000年の『日本美術応援団』(日経BP社)から年1冊ペースで刊行されている。私は最近いっぱしに日本美術ファンの顔をしているが、このシリーズに教えられてきたことはかなり多い。

 「日本美術は、実物を見なければダメ」というのが、応援団の基本態度である。そこで、シリーズ5冊目の本書では、「そこに行かなければ見ることのできない」全国の美術物件を、2人が「物見遊山」してまわっている。

 私も行ったことのある名所旧跡が並んでいて、自分の感想と比べてみるのが面白かった。それも、2人が「これは知らないだろう」とおっしゃる、宮島の千畳閣や伊勢の徴古館も、知ってる知ってる!という感じで愉快だった。

 しかし、なんといっても読者の目を惹くのは、鳥取県三朝(みささ)の投入堂だろう。山下先生もあとがきで「あえて掲載順を入れ替えて巻頭にもってきた」と書いていらっしゃるけど、命綱もなしにお堂直下の断崖にとりついた住職の写真の、息のつまるような迫力!

 私も自分の体験をまざまざと思い出した。ふもとのお堂で「入山したい」旨を告げると、仏の名号か何かを書いた白いタスキを貸してくれる。大げさな、と思ったけど、山に入るとすぐ、それが大げさでも何でもないことが分かる。普通に二本足で歩ける道は10分かそこら。あとは手足4本を全部使って、木の根をつかみ、岩をさすって、よじのぼり続ける。

 私は1人だったので、もしここで転落したら、と思うとぞっとした。赤瀬川さんと山下さんの行ったあとでも1人亡くなっているとか。そうすると、ふもとのお堂でもらった白いタスキが妙に心の支えに感じられたりするのだ。

 投入堂は世界遺産に立候補しているそうだが、もしそうなっても、観光バスのためのバイパス路とか、絶対に作らないでほしい。今のまま、覚悟のない観光客を寄せ付けない場所であってほしい。

 そして、体力と精神力に相応の自信があるなら、一度は行ってみることを勧める。「公開ゼミ」のお土産にもらった雑誌「一冊の本」(朝日新聞社、2004年6月号)に、今日の3人が「物見遊山は自己責任で!」という鼎談を載せているが、まさに自己責任の物見遊山の究極を味わうことができるだろう。

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