お仕事2日目もハーバード大学へ。Harvard-Yenching Libraryにスタッフとして滞在中の同僚の案内と通訳を得て、さまざまな図書館を見て歩いた。戦艦のように巨大なワイドナー図書館から、小さなコレクション室まで、訪ねたところは、順不同で以下のとおり。
・Widener Library(中央館)
・Lamont Library(学部生向けの人文図書館)
・Cabot Science Library(学部生向けの自然科学図書館)
・Pusey Library(Map Collection, University Archivesなど)
・Reischauer Institute of Japanese Studies
学部生向けの図書館には、大きなソファを並べたコーナーが必ずある。学生たちは、まるで自宅の居間にいるように、寝そべったり、丸くなったり、思い思いの恰好で、本やラップトップPCを抱えて勉強している。日本人が、スタバのソファでも姿勢を崩さないのとは大違いである。Lamont Libraryの1階には、明るいカフェが併設されていた。10月にオープンしたばかりだそうだ。下記のニュースによれば、学生たちが、経営の主体をつとめているらしい。
■Lamont Library Cafe Opens(ニュース:動画あり)
http://hcl.harvard.edu/news/2006/lamont_cafe_opens.html
さて、ここからが本題。昼食のあと、ハーバード大学の中央館であるワイドナー図書館の見学に向かった。あらかじめ予約を取っていたので、案内役の職員が対応に出てくれた。仔牛のような体格の、陽気で人あたりのいい女性だった。「何か希望があれば言ってほしい」というので、「preservation(保存)に関するセクションを見たい」と伝えると、ちょっと困った顔をして「そこは事前の予約が要る」と言う。それなら仕方ないので、無理は言わず、標準ルートで館内を案内してもらうことにした。
私は14年前にもこのワイドナー図書館を訪ねたことがあり、ゴシックホラーに出てきそうな(魔女のダンジョンのような)石積みの地下通路が強い印象に残っている。しかし、今回案内してもらった書庫や閲覧室は、クラシックな雰囲気は残しているけれど、どこも明るく、新築のように清潔だった。1999年から2004年にかけて、大幅なリノベーション(改造)を行ったそうなので、かなり面目が一新されたのではないかと思う。ちなみに、この事業は、2005年にAIA(アメリカ建築家協会)の賞を受賞している。ほかの写真も興味深いので、ソースを貼っておこう。
■Eight Beautiful Buildings Win 2005 Library Awards(AIArchitect)
http://www.aia.org/aiarchitect/thisweek05/tw0401/0401libraryawards.htm
入口を見下ろす階上のホールには、図書館の名前のもとになったハリー・エルキンズ・ワイドナー(Harry Elkins Widener, タイタニック号水難事故の被災者)の記念室が設けられており、愛書家だった彼の蔵書が、壁の周囲を満たしている。デスクには、毎週取り替えられるという生花の盛り花。中央の肖像画は、階下の正面入口をつねに見守っている。ここも以前は事務室だったというので、私が前回来たときには無かったものだと思う。
別のホールには、ボストン公共図書館と同様、John Singer Sargent(ジョン・シンガー・サージェント)の壁画が飾られていた。「Death and Victory」と「Coming of the Americans」の2作品は、主題に好き嫌いはあると思うが(超パトリオット的!)、美品である。ぜひ、下記サイトで拡大画像をご覧いただきたい。
■John Singer Sargent Virtual Gallery(左欄メニューの下の方)
http://jssgallery.org/Essay/Widener_Library_Harvard/Widener_Library_Harvard.htm
マイクロ資料室を見せてもらっていたときだと思う。案内役の女性が、カウンターの電話を借りて、どこかにかけていたかと思うと、「preservation section(保存部門)を見学できる」と嬉しそうに我々に告げた。突然の申し入れにもかかわらず、調整を取ってくれたのである。感謝をしながら着いていくと、エレベーターで地下に下りる。
さっきも地下の書庫を案内してもらったが、そことはまた、別の区画らしい。書架の列は無く、ロフトのような、明るく広い回廊が続いている。やや年配の小柄な女性が現れ、保存部門の担当者だと紹介された。茶色く酸化した新聞紙や、表紙の取れかかった書籍を積んだブックトラックの間を、注意深く通り抜け、招き入れられたのは、中程度の会議室ほどの部屋で、4、5人のスタッフが、それぞれ大きな机を前に、資料の修復に取り組んでいる。それぞれが職人らしく、自分の作業に集中している様子は、中世の工房という感じだ。日本の大学図書館では、まず見ることのできない(存在しない)セクションである。
へえーこれがプリザベーション・セクション(保存部門)か!と、いたく感心していたら、また別の部屋に連れていかれた。さっきよりも照明が暗く、絶え間ない機械音が響いている。ここは劣化資料の媒体変換を行う部署で、部屋の奥半分ではマイクロ撮影が、手前半分ではデジタル化が行われていた。デジタル化に使われているスキャナーは、ハイテクで、しかもお洒落だ。資料を撮影台に上向きに載せると、柱(これが赤い曲線チューブだったりする)の上方に取り付けられたカメラが、角度と位置を調整し、画像取り込みを行う。さっきの部屋が中世の工房なら、ここは本格的なメディアラボである。しかも、これらの作業は、選び抜かれた貴重書に対して行われているのではなく、日常の本の出し入れで発見された劣化資料を、どんどん媒体変換してしまおうということらしい。
それから、次の細長い部屋では、少ないスタッフがコンピュータの画面に向かっていた。背の高いボーイッシュな若い女性が立って、さきほどのラボで作られた画像を、オンライン目録に付加して公開・提供する作業について説明してくれた。また、特定の主題で括られたデジタルコレクション(たとえば、Women Working, 1800-1930)の作成も彼女が担当しているという話だった。
その次の部屋では、スキンヘッドの若い男性がチーフらしく、数名のスタッフを使って、写真や三次元資料の撮影とデジタル化を行っていた。作業室の周りには、遊び心で作ったのか、古写真を利用したポスターやカレンダーが飾られていた。ここはまた、アーティステックなスタジオの趣きである。暗幕の奥には、広い撮影スタジオも併設されていて、かなり大型の三次元資料でも撮影できそうだった。こうした施設が、地下の回廊に従って、いくつも続いているのである。
面白かったのは、我々を案内してくれた図書館スタッフの女性まで、すっかり興奮して「Amazing!」「Marvelous!」を繰り返し、最後は保存部門の女性とひしと抱き合っていたこと。同じ館内で何が行われているか知らないのかなあ、と不思議だったが、アメリカの図書館は、日本以上に縦割り意識が強いそうだから、そういうこともあるのかもしれない。あと、案内役の女性はライブラリアンだろうが、保存部門で会った人々は、多くがテクニカル・スタッフだろうし。
それにしても、確かに”Amazing”で”Marvelous”なものを見てしまった。まさか図書館の地下に、こんな秘密基地が控えていようとは。写真を撮らせてもらえなかったので、せめて記憶の新しいうちに言葉に留めておこうと思ったわけだが、果たして私の衝撃が伝わっただろうか。そこはかとなく、「100万のマルコ」と呼ばれて、大ぼら吹き扱いされたマルコ・ポーロを思い出したりするのである。
ハーバードスクエアで夕食のあと、The Coop(大学生協)で、山ほどお土産を購入。これでボストン滞在はおしまい。明日はニューヘブンに向かう。
・Widener Library(中央館)
・Lamont Library(学部生向けの人文図書館)
・Cabot Science Library(学部生向けの自然科学図書館)
・Pusey Library(Map Collection, University Archivesなど)
・Reischauer Institute of Japanese Studies
学部生向けの図書館には、大きなソファを並べたコーナーが必ずある。学生たちは、まるで自宅の居間にいるように、寝そべったり、丸くなったり、思い思いの恰好で、本やラップトップPCを抱えて勉強している。日本人が、スタバのソファでも姿勢を崩さないのとは大違いである。Lamont Libraryの1階には、明るいカフェが併設されていた。10月にオープンしたばかりだそうだ。下記のニュースによれば、学生たちが、経営の主体をつとめているらしい。
■Lamont Library Cafe Opens(ニュース:動画あり)
http://hcl.harvard.edu/news/2006/lamont_cafe_opens.html
さて、ここからが本題。昼食のあと、ハーバード大学の中央館であるワイドナー図書館の見学に向かった。あらかじめ予約を取っていたので、案内役の職員が対応に出てくれた。仔牛のような体格の、陽気で人あたりのいい女性だった。「何か希望があれば言ってほしい」というので、「preservation(保存)に関するセクションを見たい」と伝えると、ちょっと困った顔をして「そこは事前の予約が要る」と言う。それなら仕方ないので、無理は言わず、標準ルートで館内を案内してもらうことにした。
私は14年前にもこのワイドナー図書館を訪ねたことがあり、ゴシックホラーに出てきそうな(魔女のダンジョンのような)石積みの地下通路が強い印象に残っている。しかし、今回案内してもらった書庫や閲覧室は、クラシックな雰囲気は残しているけれど、どこも明るく、新築のように清潔だった。1999年から2004年にかけて、大幅なリノベーション(改造)を行ったそうなので、かなり面目が一新されたのではないかと思う。ちなみに、この事業は、2005年にAIA(アメリカ建築家協会)の賞を受賞している。ほかの写真も興味深いので、ソースを貼っておこう。
■Eight Beautiful Buildings Win 2005 Library Awards(AIArchitect)
http://www.aia.org/aiarchitect/thisweek05/tw0401/0401libraryawards.htm
入口を見下ろす階上のホールには、図書館の名前のもとになったハリー・エルキンズ・ワイドナー(Harry Elkins Widener, タイタニック号水難事故の被災者)の記念室が設けられており、愛書家だった彼の蔵書が、壁の周囲を満たしている。デスクには、毎週取り替えられるという生花の盛り花。中央の肖像画は、階下の正面入口をつねに見守っている。ここも以前は事務室だったというので、私が前回来たときには無かったものだと思う。
別のホールには、ボストン公共図書館と同様、John Singer Sargent(ジョン・シンガー・サージェント)の壁画が飾られていた。「Death and Victory」と「Coming of the Americans」の2作品は、主題に好き嫌いはあると思うが(超パトリオット的!)、美品である。ぜひ、下記サイトで拡大画像をご覧いただきたい。
■John Singer Sargent Virtual Gallery(左欄メニューの下の方)
http://jssgallery.org/Essay/Widener_Library_Harvard/Widener_Library_Harvard.htm
マイクロ資料室を見せてもらっていたときだと思う。案内役の女性が、カウンターの電話を借りて、どこかにかけていたかと思うと、「preservation section(保存部門)を見学できる」と嬉しそうに我々に告げた。突然の申し入れにもかかわらず、調整を取ってくれたのである。感謝をしながら着いていくと、エレベーターで地下に下りる。
さっきも地下の書庫を案内してもらったが、そことはまた、別の区画らしい。書架の列は無く、ロフトのような、明るく広い回廊が続いている。やや年配の小柄な女性が現れ、保存部門の担当者だと紹介された。茶色く酸化した新聞紙や、表紙の取れかかった書籍を積んだブックトラックの間を、注意深く通り抜け、招き入れられたのは、中程度の会議室ほどの部屋で、4、5人のスタッフが、それぞれ大きな机を前に、資料の修復に取り組んでいる。それぞれが職人らしく、自分の作業に集中している様子は、中世の工房という感じだ。日本の大学図書館では、まず見ることのできない(存在しない)セクションである。
へえーこれがプリザベーション・セクション(保存部門)か!と、いたく感心していたら、また別の部屋に連れていかれた。さっきよりも照明が暗く、絶え間ない機械音が響いている。ここは劣化資料の媒体変換を行う部署で、部屋の奥半分ではマイクロ撮影が、手前半分ではデジタル化が行われていた。デジタル化に使われているスキャナーは、ハイテクで、しかもお洒落だ。資料を撮影台に上向きに載せると、柱(これが赤い曲線チューブだったりする)の上方に取り付けられたカメラが、角度と位置を調整し、画像取り込みを行う。さっきの部屋が中世の工房なら、ここは本格的なメディアラボである。しかも、これらの作業は、選び抜かれた貴重書に対して行われているのではなく、日常の本の出し入れで発見された劣化資料を、どんどん媒体変換してしまおうということらしい。
それから、次の細長い部屋では、少ないスタッフがコンピュータの画面に向かっていた。背の高いボーイッシュな若い女性が立って、さきほどのラボで作られた画像を、オンライン目録に付加して公開・提供する作業について説明してくれた。また、特定の主題で括られたデジタルコレクション(たとえば、Women Working, 1800-1930)の作成も彼女が担当しているという話だった。
その次の部屋では、スキンヘッドの若い男性がチーフらしく、数名のスタッフを使って、写真や三次元資料の撮影とデジタル化を行っていた。作業室の周りには、遊び心で作ったのか、古写真を利用したポスターやカレンダーが飾られていた。ここはまた、アーティステックなスタジオの趣きである。暗幕の奥には、広い撮影スタジオも併設されていて、かなり大型の三次元資料でも撮影できそうだった。こうした施設が、地下の回廊に従って、いくつも続いているのである。
面白かったのは、我々を案内してくれた図書館スタッフの女性まで、すっかり興奮して「Amazing!」「Marvelous!」を繰り返し、最後は保存部門の女性とひしと抱き合っていたこと。同じ館内で何が行われているか知らないのかなあ、と不思議だったが、アメリカの図書館は、日本以上に縦割り意識が強いそうだから、そういうこともあるのかもしれない。あと、案内役の女性はライブラリアンだろうが、保存部門で会った人々は、多くがテクニカル・スタッフだろうし。
それにしても、確かに”Amazing”で”Marvelous”なものを見てしまった。まさか図書館の地下に、こんな秘密基地が控えていようとは。写真を撮らせてもらえなかったので、せめて記憶の新しいうちに言葉に留めておこうと思ったわけだが、果たして私の衝撃が伝わっただろうか。そこはかとなく、「100万のマルコ」と呼ばれて、大ぼら吹き扱いされたマルコ・ポーロを思い出したりするのである。
ハーバードスクエアで夕食のあと、The Coop(大学生協)で、山ほどお土産を購入。これでボストン滞在はおしまい。明日はニューヘブンに向かう。