見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

敢えてするオプティミズム/ウェブ進化論(梅田望夫)

2006-11-07 00:25:36 | 読んだもの(書籍)
○梅田望夫『ウェブ進化論:本当の大変化はこれから始まる』(ちくま新書) 筑摩書房 2006.2

 グーグル、アマゾン、オープンソース、ブログ、そしてWeb2.0に表象される、インターネットの新しい変化について論じたもの。同じテーマを扱った、森健さんの『インターネットは「僕ら」を幸せにしたか?』(アスペクト 2005.9)や『グーグル・アマゾン化する社会』(光文社新書 2006.9)が、どちらかというと批判的・悲観的な立場を取るのに対して、本書は、変化の明るい面を紹介することに重点を置いている。

 ただ、両氏の認識は、実際には、そんなに大きく違わないのではないか。本書の著者は、決して手放しで、来るべき世界を礼讃しているわけではなく、その困難や危険性は十分認識しているのだと思う。それでも、著者は「オプティミズムを貫いてみたかった」という。「これから直面する難題を創造的に解決する力は、オプティミズムを前提とした試行錯誤以外からは生まれ得ないと信ずるから」である。いわば本書は、「敢えてするオプティミズム」のインターネット論ではないかと思う。

 著者は、「不特定多数は衆愚である」という、旧世代エスタブリッシュメント的思考を批判し、「不特定無限大を信頼する」若い世代の柔軟な感覚が、産業構造を変えていくとする。うーむ。しかし、旧世代的と非難されようとも、私はここのところは賛成できない。

 森健さんの『グーグル・アマゾン化する社会』でも触れたが、『「みんなの意見」は案外正しい』の著者ジェームズ・スロウィッキーは、十分に分散していて多様性と独立性の保たれた「個」の意見を集約すると、優れた専門家の価値判断より正しいことがある、と述べている。ここまではいい。

 続けて著者が、「ネット空間上の『個』とは、分散、多様性、独立性を巡るスロウィッキー仮説そのものだ」と述べていることには、私は同意できない。少なくとも社会的な問題をめぐる日本のネット言論(技術開発の分野では違うのかも知れないが)を見る限り、著者の発言は、オプティミズムを通り越して、事実誤認であると思う。

 たぶん、本来「個」の多様性や独立性が確立している社会に導入されたウェブ・テクノロジーは、その多様性や独立性を補強・助長する役割を果たし、そもそも付和雷同的で、異質なものを排除する傾向のある社会では、その特徴を拡大再生産する方向に作用するのではないか。問題はウェブ・テクノロジーにあるのではなく、テクノロジーの登場以前に、民主的な社会を作ってこれなかった我々自身にあるのだと思う。

 それならどうすればいいのか? グーグル社のウェブサイトには「10 things Google has found to be true(Googleが発見した10の事実)」と題して「Democracy on the web works(ウェブ上では民主主義が機能する)」という一文がある。けれども、日本のネット言論の現状を見ていると、私は、ウェブ上では democrat(民主主義者)であることをやめて、断然 aristocrat(貴族政治主義者)を通したくなる。

 しかしながら、若い世代が、困難を承知で取り組まなければならない本当の課題は、ウェブ・テクノロジーの進歩とともに、負の方向に拡大再生産され続ける、日本の”民主主義”を惨状から引きずり起こし、正しく「個」の多様性や独立性が保たれた社会を作り上げることだと思う。やれやれ。この困難な大仕事に、明るく笑って立ち向かえるとしたら、本当のオプティミストだと思うのだけど。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする