見もの・読みもの日記

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憧れの拓本と中国絵画/唐ごのみ(三井記念美術館)

2025-01-05 18:49:29 | 読んだもの(書籍)

三井記念美術館 『唐(から)ごのみ:国宝雪松図と中国の書画』(2024年11月23日〜2025年1月19日)

 年末恒例の円山応挙筆『雪松図屏風』公開に加え、三井家歴代にわたり珍重された中国の書画および、それらに倣って日本で描かれた作品を紹介する。という展覧会の趣旨を、だいたい理解して行ったつもりだったが、冒頭が顔真卿筆『多宝塔碑』の拓本で、おお?となってしまった。そのあとも、王羲之や褚遂良の書跡の拓本が続く。新町三井家9代当主の三井高堅(みつい たかかた、1867-1945)は中国の古拓本のコレクターで、その収蔵品は、聴氷閣本(ていひょうかくぼん)と呼ばれて世界的に名高い。ネット情報によれば、戦前の旧三井文庫で保管したもののうち大半はカリフォルニア大学バークレー校図書館に「聴氷閣文庫」として収蔵されているが、1985年三井新町家で秘蔵してきた聴氷閣所蔵本の中核をなす碑帖が三井文庫に寄蔵され、1991年初公開されたそうだ(出典:20世紀日本人名事典)。

 面白かったのは、高堅の所蔵に帰する前の旧蔵者の情報がいろいろ添えられていたこと。蘭亭序マニアだった清・呉雲(1811-1883)旧蔵の『呉平斎本蘭亭序』(宋拓)や、石鼓文の大コレクターだった明・安国(1481-1534)の『石鼓本』(宋拓)など。やたら作品内に印を押すことで嫌われたという明・項元汴(1525-1590)旧蔵の蘭亭序(宋拓)は『高江村本』と呼ばれている。高江村は、清・高士奇(1645-1704)のことという。高士奇!すぐに中国ドラマ『天下長河』で陸思宇さんが演じていた高士奇の顔が浮かんだ。鋭い審美眼の持ち主だったという。

 唐代に王羲之の書跡から集字して建てた『興福寺断碑』(明代に出土)の拓本は、高堅の父である三井松坂家7代当主・三井高敏の旧蔵品だが、高敏は、1876年(明治9年丙子)の伊勢暴動(地租改正をめぐる暴動)でコレクションの大半を焼失しており、その後に収集したものには「丙子以後精力所聚」の印が押されている。コレクターの意地を感じさせる印で泣ける。

 続いて書画だが、伝・徽宗筆『麝香猫図』をはじめ、伝・呂紀筆とか伝・牧谿筆とか、伝承作品が多数。このへんはあまり堅いことを言わずに、中国文化への強い憧れを読み取っておくのがいいのだろう。雲州名物(松平不昧旧蔵)5件、柳営御物(徳川幕府旧蔵)2件の絵画も、戸惑いながら興味深く眺めた。雲州名物の梁楷筆『六祖破経図』は、なるほど中国絵画だと思うが、伝・銭選筆『白梅図』は、ちょっと琳派を思わせる雰囲気なんだけどなあ…。でも『蓮雀図』や『柘榴図』、柳営御物の『川苣図』(ラッキョウの束?)など、嫌いじゃない。江戸の人々が憧れた中国絵画は、全般的にかわいいと思う。

 本展の見どころである応挙の『雪松図屏風』は、毎年見ているうちに、だんだん好きになってきた。特に左隻の、こんもりした松葉の茂みに、丸々と雪が降り積もった様子が、豊年の予兆を感じさせてめでたい。新春にふさわしい作品だと思う。

 今回、展示の絵画には、鑑定や入手の経緯(購入値段など)を記した付属資料がたくさん出ていて面白かった。『北三井家蔵帳』は、同家所蔵の書画リストだが、『雪松図屏風』は載っていない。なぜなら屏風や襖は「絵画」ではなく「調度品」だったから、という解説には、納得しつつも考えさせられた。


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