見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

週末秘仏の旅(4):興福寺国宝館

2009-03-11 22:31:14 | 行ったもの(美術館・見仏)
 3月8日の朝、興福寺に寄った。31日から東京国立博物館で始まる『国宝 阿修羅展』に備えて、阿修羅像はもうお出かけかな?という野次馬的な興味があったためだ。国宝館の外壁には「阿修羅像展示は3月10日まで」という貼り紙がされていて、どうやら、まだ中においでのようだった。

 朝いちばんの国宝館は、さすがに人が少なくて気持ちがよかった。阿修羅と一緒に東京にやってくる八部衆と十大弟子の一部が展示されている。注目したのは、獅子の冠をかぶった乾闥婆(けんだつば)像。解説に「髷に結わず、背中に長い髪を垂らしている」とある。国宝館では壁面のガラスケースに収められているため、背中を見ることができないが、東博では露出展示だというので期待できる。「乾闥婆」とは、西域では「作楽を仕事とする者」の意味だそうだ。目を閉じた表情は、自ら奏でる音楽に聴き入っているのだろうか。

 阿修羅は、先日『芸術新潮』3月号で見た、両脇面のアップが印象的だったので、これを確認する。私はとりわけ、向かって左側の、眉根を寄せて唇を噛んだ細身の面が好きだ。『芸術新潮』は「8世紀少年」というキャプションが巧いなあ、と思った。同号で私がいちばん面白かったのは、入江泰吉、土門拳、小川光三など、写真家によって千変万化する阿修羅の表情である(杉本健吉のスケッチもよい)。



 さて、興福寺国宝館には、今回の『国宝 阿修羅展』のために、写真家・金井杜道氏が撮った八部衆と十大弟子の写真パネルが飾られている。これがすごい。金井杜道の写真がすごいのか、ミストグラフという高精細のプリント技法がすごいのか(その両方なのだろう)。唸ったのは、鳥頭人身の迦楼羅(かるら)像だ。興福寺の迦楼羅像は、肩のスカーフが撫で肩を強調しており、細いウエスト、広がったスカートが、華奢な少女の立ち姿のように見える。むかし、友人と無遠慮にも「これは失敗作だよね」と笑い合ったことさえある。ところが、金井杜道の撮った迦楼羅像のアップには、見る者をたじろがせる猛禽の獰猛さが確かにある(複雑に隈取られた大きな目とか)。この表情は、カメラを通じてこそ捉えられるものだと思う。

 同じく金井杜道氏の特大写真パネルで、阿修羅像は片方の瞳にだけ白いハイライトが残っていることにも気がついた。偶然なのだろうけど。

 ほかに気になったのは、鎌倉初期の梵天立像。定慶の作として知られる。解説に「彼は独特の作品を残している」とあったが、確かに宋風の影響が強く、しかも「ステレオタイプでない宋風」(ごくわずか中国に残っている優品)を感じさせる。東金堂の文殊・維摩も定慶なんだな。

■金井杜道展(2009年4月1日~11日、於:壺中居3Fホール)
http://www.kochukyo.co.jp/2009_kanai-index.html
これは忘れず行きたい。

■阿修羅展、搬送本格化へ 奈良・興福寺で魂抜く法要(asahi.com:2009年3月10日)
http://www.asahi.com/national/update/0310/OSK200903100066.html
いよいよ出発ですね。

※子供たちが1人1文字ずつ書いたらしい習字。東金堂の壁に掲げられていた。


コメント
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