見もの・読みもの日記

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美に導かれて/「観じる民藝」トークショー(尾久彰三+青柳恵介)

2010-06-13 23:48:28 | 行ったもの2(講演・公演)
そごう美術館 『尾久彰三コレクション-観じる民藝』トークショー「尾久さんと友人たちとの語らい」(ゲスト:青柳恵介氏)(2010年6月13日)

 2009年まで日本民藝館に勤務し、骨董や民芸に関する著作も多い尾久(おぎゅう)彰三氏の個人コレクションを紹介する展覧会。私は、先週末まで仕事が忙しくて、数日前にこの展覧会のサイトを見つけた。先週6月6日のゲストは山下裕二先生だったのか! 行きたかった~。

 今週は、古美術評論家の青柳恵介氏がゲスト。尾久さんも青柳先生も、雑誌「芸術新潮」などで、お名前とお顔は存じ上げているが、どんなお話をされる方か、よく知らない。どうしようかな、と迷いながら、とりあえず展覧会を見に出かけた。

 会場に入ると、いかにも「民芸」らしい陶芸、漆芸に始まり、大津絵、泥絵、西洋のうつわ、ガラス瓶、面、石仏・石像、果ては昭和の鍋敷、ハンガーも。とにかく多彩。ところどころに、四畳半ほどのスペースをつかって、日本の茶室や李朝の舎廊房(さらんばん、男性の部屋)を模したしつらえがあって楽しい。会場の中ほどに、60名ほどが座れるイベント会場が設けられ、舞台は六畳の畳敷きに骨董を並べた(←展示ケースなく剥き出し)「尾久さんの部屋」という設定になっている。えっ、ここでトークショーやるの…これは面白そう。ということで、急遽、参加を申し込む。

 時間になって、現れたお二人。根来の四角い高坏(たかつき)を挟んで、はす向かいでお座りになる。「これは平安…と言いたいけど鎌倉末というところでしょう」と尾久さん。酒杯も古びていい感じ。僕のはお椀の蓋かもしれない、とも。さらに、畳の上に置いた桃山時代の螺鈿の銚子(薬缶みたいに大きい。蓋はなし)を取り上げ、「前回の山下さんのときは発泡ワインでしたけど、今日は日本酒です」とにこにこ。ええ~それを使っちゃうの!? 酒は富山の立山。アテは沖縄の豆腐ようで、陶芸家・金城次郎の焼いた小皿に盛る。

 かくて、飄々と始まったトークショーであるが、けっこう深い話に入っていった。「民芸」と「骨董」はどう違うか。尾久さんは、僕はあまりこだわらないけど、こだわる人もいる、という。柳宗悦は、いったん西洋を経由することで、日本の民芸を発見したのではないか。柳は「直感」を非常に大切にした。(青柳さんから、尾久さんの蒐集は、猫好きが猫に出会って、こいつはオレが拾ってやらなければ、と思って拾ってきちゃうようなところがない?と言われて)確かに、これはオレが買わないで誰が買う、って思うことがある、とも。身銭を切ることでしか学べないことがある、というのも納得できるひとことだった。

 トークの中盤で尾久さんが、琵琶を抱えた娘の泥人形を手元に引き寄せて、「お酒を飲むなら、女性にいてもらいたい」と笑ったあと、「この無絃の音を聴かないとね。有絃の音だけを聴いていては駄目なんだ。そして霊性の頂点に至るというのが柳の思想です」とおっしゃった。「こんな宗教的なことを言ってると投書がくるかなあ」と心配する尾久さんに、「いや、宗教は大事ですよ」と青柳さんがフォローする。この展覧会、壺や漆器などの日用品から始まるが、後半は仏画、仏像、神像など宗教性の高いものが増え、最後に阿弥陀三尊来迎図が飾られている。その厳粛な美しさが、数々の美しいものを見て、浄化された心にぴたりとくるのだ。会場をひとまわりして、自分の気持ちの変化に気づいていただけに、青柳さんの発言は、とても腑に落ちる感じがした。

 「若い頃は、無絃の音なんて気づかないで、ジャズとか聴いていたね。でも、若者にそれを禁止しては駄目なんだ。むしろ背中を押して、行くところまで行かせてやらないと」という尾久さんの発言も含蓄に富んで印象的だった。私の記憶が、正しくニュアンスを伝えていることを願いたい。

 尾久さんが高校生の頃に高山で手に入れたという天神像とお社の話、先週購入したばかりの「歌う人」埴輪の頭部の話、青柳さんから買い取った「御幣猿」の馬の腹掛けの話など、個々の品物にまつわるエピソードはどれも楽しかった。

 トークショーおひらきのあとは、「皆さん、せっかくだから畳に上がってよく見ていってください」という尾久さんに、学芸員さんが「先生、それは…」と慌てて制する場面もあって面白かった。「え、だめなの? しょうがないなあ」とおっしゃって、ハラハラする学芸員さんを尻目に、奥に飾ってあった品々を舞台際にしつらえ直す親切ぶり。さらには「僕らが口をつけた杯でもよければ、どうぞ」とお酒のサービスまで(笑)。お二人とも、すっかり大好きになってしまった。

 トークショーの舞台「尾久さんの部屋」の飾りつけは、ゲストに合わせて毎回変わるのだそうだ。まさに一期一会。さらには、会期中に買ったものまで持ち込んでいらっしゃるというから、来週のお客さんが、どんな品物とどんな話題に出会うのかは全く予想不能。どうぞお楽しみに。
コメント
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