見もの・読みもの日記

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毒敵山の章・サソリ女の章/西遊妖猿伝・西域篇(4)(諸星大二郎)

2012-09-07 23:29:26 | 読んだもの(書籍)
○諸星大二郎『西遊妖猿伝・西域篇』4 講談社 2012.8

 1年ぶりの続巻。このペースで読むのはちょっとつらい。いそいそと読み始めたものの、前巻のストーリーがどこでどう終わったのだか、記憶が戻らなくて、全然面白くなかった。慌てて、第3巻を書棚から探し出して(これが大変)読み直してから第4巻を読み返し、やっと少し「面白い」と感じることができた。

 前巻で提示された、さまざまな「謎」は解決されず、むしろ深まる、もしくは広がるばかりである。舞台は引き続き、伊吾国。「伊吾のオアシスには七城があったといい、その中心である伊吾城には伊吾人、鄯善(ぜんぜん)人、ソグド人が混住していた」と作品中の講釈にいう。ただし「このあたりの事情は必ずしも史実というわけではありません」と小さな脚注あり。前巻では、伊吾人とソグド人の対立が描かれていたが、さらに鄯善人が加わった。土着の伊吾人と移住者の鄯善人(楼蘭国の末裔)の間には友好が保たれていたが、新参のソグド人は、武力にものをいわせて高圧的に振舞い、在来勢力との対立を深めていた。

 本編では、ソグド人の薩宝(サルトポウ)(職名、居留地における頭領)の石万年が、ポジション的に悪玉の親分らしい。試しに「薩宝」で検索してみたら、ソグド人研究の資料がいろいろヒットして面白かった。3巻でのソグド兵は悟空にやられっぱなしだったが、4巻では、冷酷なソグド人傭兵隊長のヴァンダカが登場。諸星マンガのこういうキャラ、大好きだ。

 民族と宗教の関係では、伊吾人の貴族には仏教徒が多く、ソグド人には祆教徒(ゾロアスター教徒)が多い、と説明されている。あ、そうか。双子のハルとアムを含む祆教徒コミュニティは、ソグド人の分派なのか、と頭の中を整理する。3巻でちらりと登場した吐屯(官職名)は、突厥(この場合は東突厥)から派遣されてた取税人。当時、突厥は、シルクロードのオアシス国家のほとんどを支配下におさめていた。ふむ、もうちょっと民族の特徴が、画的に(服装、髪型など)描き分けられていると、理解しやすいんだけどなー。

 4巻の冒頭、岩山の上から正確無比な射撃(弓)で悟空を驚かす謎の人物のヒントが知りたくて、さらに2巻を読み返し、そもそも発端に、キルク族の少年カマルトゥブに憑依した羊の化け物の事件があったことを、ようやく思い出した。カマルトゥブは叔父と名乗る男に連れ戻されたのだが、どうも謎の射撃名人は、この叔父か、そうでなくてもキルク族らしい描かれ方である。服装(毛皮の帽子)が。

 2巻に出てきた話の分かるソグド人・安吐窟もそのままだし、2-3巻で読者を幻惑していた謎の少女・アマルカも4巻では出てこない。サソリ女の正体がアマルカ? 2、3、4巻と続けて読むと、面白さは倍増するが、まだ次々と物語の布石が打たれている段階。2巻で羊力大仙と名乗る爺さんが「気をつけろ斉天大聖」と嘲笑い、3巻で羊の屍肉の妖怪ドゥルジ・ナスに戦慄し、4巻は、さらに怪物サソリ女の登場と思いきや、正体は奇怪な体術を使う人間の女で、悟空とSFチックなアクション・バトルを繰り広げる。

 これが起承転であるなら、来年の5巻くらいに「結」を期待できるのだが、果たして…。いや壮大だなあ。誇張でなく、私の生きているうちに大団円まで読めるんだろうか。著者は私より10年は年上のはずだが、存命中に完結できるのかしら。ふと、28年かけて執筆・出版されたという「南総里見八犬伝」の読者もこんな気持ちだったのかな、と考える。

 何度か読み返して気づいたのは、「永遠の少年」である悟空の身長が伸びて、心なしか青年の体形に近づきつつあること。作者が意識的にそうしているのか、自然の変化か分からないけど。あと西域編から加わった沙悟浄のキャラが、いい具合に物語にハマってきたと思う。続巻が待ち遠しい。
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