○五島美術館 特別展『光悦-桃山の古典(クラシック)-』(2013年10月26日~12月1日)
11月10日放送のNHK日曜美術館「本阿弥光悦 日本最強のマルチアーティスト」でも取り上げられていた展覧会。放送では、蒔絵『舟橋蒔絵硯箱』と赤楽茶碗『銘・雪峯』の印象が強かったので、よし!茶碗を見るぞ!という意気込みで出かけた。
展示室に入ると、まず目に入ったのは、ずらり並んだ光悦の書。それも芸術的な和歌巻ではなくて、光悦の日常的な書状を軸物に仕立てたものである。光悦の筆跡だから、鑑賞に堪える味わいもあるのだが、いろいろ内容が面白くて、引き込まれてしまった。まず、烏丸光広の家司とか、楽吉左衛門(常慶)、古田織部など、登場する人物の名前が華やかで、にやにやしてしまう。贈答にかかわる礼状が多いが、小袖や薫香などの優雅な品物だけでなく、「鮭(一尺、腹持候)」とか「沙唐(砂糖)一おけ」などの文字も見られる。きちんとした漢文が多いなあと思っていたが、楽家の常慶はじめ、職人あての書状は、仮名やカタカナが多いと感じた。職人あてと武士(大名)あてでは、意識的に書き分けていたのかな。
次に嵯峨本『伊勢物語』が登場。木活字本である。これまで何度か見たことがあるが、刊記の箇所を展示してあるのは珍しくて、興味深かった。ふーん、漢文で行書体なんだ。そして中院通勝(也足叟)の自筆花押がある。『源氏小鏡』は初めて見る古活字本(大東急記念文庫蔵)だったが、青色地に梅や松を雲母摺りにした表紙が、光悦っぽくて、とてもきれい。ただし展示図録には「改装後に付されたものか」と書かれていた。『撰集抄』(昭和女子大蔵)の雲母摺り表紙もきれいだった。ひし形を並べたような襷文は、この頃の漢籍の表紙でもよく見るような気がする。
そして和歌巻が来るのだが、『新古今集抄月詠和歌巻』が木版印刷と知って驚く。墨の濃淡まで再現されている(錯覚?)のに。安田文庫の旧蔵本だそうだ。『鹿下絵新古今和歌巻』は、もと20メートルを超える長い巻物であったものが、現在は長短さまざまの断簡に分かれてしまった。今回は、それらを集めるだけ集めてきて展示。さまざまな鹿の表情を見比べられて楽しい。こういうの、デジタル復元で、一連のものとして楽しめたらいいのに。『蓮下絵百人一首和歌巻』も25メートルに及ぶ巻物であったが、関東大震災で半分以上が焼失してしまったという。下絵は宗達筆、書は光悦。
『花卉鳥下絵新古今集和歌巻』は初公開作品。いいわー。でも私が見に行ったときは「竹林」のアップの場面が開いていたが、日曜美術館の番組中で見た「アップ」と「引き」の竹が混在する場面が面白かった。なお、書写されている和歌は新古今集が圧倒的に多かった。光悦とその周辺の好みなのか、同時代の好みなのか。両方なのかな。
これで相当な満腹感を感じながら、中央列に展示された工芸と茶碗を見ていく。『舟橋蒔絵硯箱』は残念ながら展示期間が終わっていて、模作の展示。でも『芦舟蒔絵硯箱』がよかった。大きくアップでとらえられた舟の舳先が広重の浮世絵みたいだと思った。余談ながら、厳島神社蔵の『蔦蒔絵唐櫃』は、福島正則が平家納経を補修して納めたときのもので、平家ファンとして、思わず手を合わせたくなった。
陶芸は、光悦作の名碗がかなり網羅的に集められていた。しかし、個性の強い茶碗がこれだけ並ぶと、やや食傷気味に感じてしまった。参考展示の楽茶碗、常慶の『悪女』やノンコウ(道入)の『三番叟』を見たときは、なんだかほっとした。
11月10日放送のNHK日曜美術館「本阿弥光悦 日本最強のマルチアーティスト」でも取り上げられていた展覧会。放送では、蒔絵『舟橋蒔絵硯箱』と赤楽茶碗『銘・雪峯』の印象が強かったので、よし!茶碗を見るぞ!という意気込みで出かけた。
展示室に入ると、まず目に入ったのは、ずらり並んだ光悦の書。それも芸術的な和歌巻ではなくて、光悦の日常的な書状を軸物に仕立てたものである。光悦の筆跡だから、鑑賞に堪える味わいもあるのだが、いろいろ内容が面白くて、引き込まれてしまった。まず、烏丸光広の家司とか、楽吉左衛門(常慶)、古田織部など、登場する人物の名前が華やかで、にやにやしてしまう。贈答にかかわる礼状が多いが、小袖や薫香などの優雅な品物だけでなく、「鮭(一尺、腹持候)」とか「沙唐(砂糖)一おけ」などの文字も見られる。きちんとした漢文が多いなあと思っていたが、楽家の常慶はじめ、職人あての書状は、仮名やカタカナが多いと感じた。職人あてと武士(大名)あてでは、意識的に書き分けていたのかな。
次に嵯峨本『伊勢物語』が登場。木活字本である。これまで何度か見たことがあるが、刊記の箇所を展示してあるのは珍しくて、興味深かった。ふーん、漢文で行書体なんだ。そして中院通勝(也足叟)の自筆花押がある。『源氏小鏡』は初めて見る古活字本(大東急記念文庫蔵)だったが、青色地に梅や松を雲母摺りにした表紙が、光悦っぽくて、とてもきれい。ただし展示図録には「改装後に付されたものか」と書かれていた。『撰集抄』(昭和女子大蔵)の雲母摺り表紙もきれいだった。ひし形を並べたような襷文は、この頃の漢籍の表紙でもよく見るような気がする。
そして和歌巻が来るのだが、『新古今集抄月詠和歌巻』が木版印刷と知って驚く。墨の濃淡まで再現されている(錯覚?)のに。安田文庫の旧蔵本だそうだ。『鹿下絵新古今和歌巻』は、もと20メートルを超える長い巻物であったものが、現在は長短さまざまの断簡に分かれてしまった。今回は、それらを集めるだけ集めてきて展示。さまざまな鹿の表情を見比べられて楽しい。こういうの、デジタル復元で、一連のものとして楽しめたらいいのに。『蓮下絵百人一首和歌巻』も25メートルに及ぶ巻物であったが、関東大震災で半分以上が焼失してしまったという。下絵は宗達筆、書は光悦。
『花卉鳥下絵新古今集和歌巻』は初公開作品。いいわー。でも私が見に行ったときは「竹林」のアップの場面が開いていたが、日曜美術館の番組中で見た「アップ」と「引き」の竹が混在する場面が面白かった。なお、書写されている和歌は新古今集が圧倒的に多かった。光悦とその周辺の好みなのか、同時代の好みなのか。両方なのかな。
これで相当な満腹感を感じながら、中央列に展示された工芸と茶碗を見ていく。『舟橋蒔絵硯箱』は残念ながら展示期間が終わっていて、模作の展示。でも『芦舟蒔絵硯箱』がよかった。大きくアップでとらえられた舟の舳先が広重の浮世絵みたいだと思った。余談ながら、厳島神社蔵の『蔦蒔絵唐櫃』は、福島正則が平家納経を補修して納めたときのもので、平家ファンとして、思わず手を合わせたくなった。
陶芸は、光悦作の名碗がかなり網羅的に集められていた。しかし、個性の強い茶碗がこれだけ並ぶと、やや食傷気味に感じてしまった。参考展示の楽茶碗、常慶の『悪女』やノンコウ(道入)の『三番叟』を見たときは、なんだかほっとした。