○若杉冽『原発ホワイトアウト』 講談社 2013.9
山口二郎先生がツイッターで「面白かった」とつぶやいていたので、私としては珍しく、新刊小説を読んでみることにした。以下、ネタバレ込みで紹介する。
物語は、2013年7月21日の参議院選挙の投開票日の夜から始まる。人名、地名、政党名などの固有名詞は、微妙に変更を加えられているが、もとの名前やエピソードを想起するのはたやすい。政権交代が生んだ「民自党」は、東日本大震災によるフクシマ原発事故の後、原発の再稼働に慎重だった。別の見方をすれば、再稼働を妨害することで、日本の電力供給に支障を来しかねない事態を招いていた。それが「保守党」の大勝によって、ようやく回復される日が来た。
日本電力連盟常務理事の小島巌や、経済産業省資源エネルギー庁次長の日村直史は、原発の再稼働を推進し、電力システム改革を阻止し、日本経済のあるべき秩序を取り戻すため、猛烈な活動を開始する。葬り去るべき敵は、脱原発を唱えて参院選に当選した俳優の「山下次郎」。県内の原発再稼働に異論を唱える新崎県知事の「伊豆田清彦」など。
再生可能エネルギー財団の主任研究員で元アナウンサーの「玉川京子」は、原子力規制庁課長補佐の「西岡進」にハニー・トラップをしかけ、規制庁審議官と日本原発の密約をスクープするも、盗聴という違法手段を用いたことを暴かれ、拘留される。市民デモは機動隊に強制撤去され、興覚めした市民は無言の生活に戻っていく。伊豆田知事は、親族への利益供与疑惑を新聞記事にされ、逮捕される。
そして、新崎県の新崎(にいざき)原発は、知事不在のまま、年内に再稼働を開始する。年の瀬の日本列島を襲った爆弾低気圧。猛吹雪の中、新崎原発の送電塔に接近する二人の半島系テロリスト。実は、小説の「プロローグ」は、父子二代の関東電力職員だった「金山剛」が、自分たちを使い捨てた関東電力と日本社会への復讐を胸に、送電塔に向かっていく短いシーンを描いていたのだが、全然忘れていたので、突然、金山なる人物が登場したときは、誰?とまごついた。小説を読みなれない私の読み方が下手なせいかもしれないが、「プロローグ」はとってつけたようで印象が弱い。父の復讐って、「倍返し」で人気の出た『半沢直樹』の構想を借りてきたのではないか。
2014年は最悪の元旦を迎える。関東電力本社の混乱は、福島原発事故の記録(公開されたテレビ会議映像等)を下敷きにしたと思われるが、背筋が凍るような無残さだ。本書には、小説と笑って見過ごせない怖い記述(たとえば、政府に異論を唱える市民活動家や首長を陥れる罠)がいろいろあるが、私はやっぱり、ここの電力本社の無策無能ぶりが、いちばん怖かった。中国と韓国が在留民保護の名目で、いちはやく海軍を出動させるというのは完全なフィクションだが、日本海側で原発事故が起きれば、なるほど十分想定できることだな、とこれは感心した。
本書が「現役キャリア官僚のリアル告発ノベル」として評判になっていることは、いまさら言い添えるまでもないだろう。小説としてそんなに上出来とは思わないが、さて、どこまでを事実に即した記述と受け止めるか、虚実皮膜の間隔を測りながら冷静に読むには、面白い本である。
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物語は、2013年7月21日の参議院選挙の投開票日の夜から始まる。人名、地名、政党名などの固有名詞は、微妙に変更を加えられているが、もとの名前やエピソードを想起するのはたやすい。政権交代が生んだ「民自党」は、東日本大震災によるフクシマ原発事故の後、原発の再稼働に慎重だった。別の見方をすれば、再稼働を妨害することで、日本の電力供給に支障を来しかねない事態を招いていた。それが「保守党」の大勝によって、ようやく回復される日が来た。
日本電力連盟常務理事の小島巌や、経済産業省資源エネルギー庁次長の日村直史は、原発の再稼働を推進し、電力システム改革を阻止し、日本経済のあるべき秩序を取り戻すため、猛烈な活動を開始する。葬り去るべき敵は、脱原発を唱えて参院選に当選した俳優の「山下次郎」。県内の原発再稼働に異論を唱える新崎県知事の「伊豆田清彦」など。
再生可能エネルギー財団の主任研究員で元アナウンサーの「玉川京子」は、原子力規制庁課長補佐の「西岡進」にハニー・トラップをしかけ、規制庁審議官と日本原発の密約をスクープするも、盗聴という違法手段を用いたことを暴かれ、拘留される。市民デモは機動隊に強制撤去され、興覚めした市民は無言の生活に戻っていく。伊豆田知事は、親族への利益供与疑惑を新聞記事にされ、逮捕される。
そして、新崎県の新崎(にいざき)原発は、知事不在のまま、年内に再稼働を開始する。年の瀬の日本列島を襲った爆弾低気圧。猛吹雪の中、新崎原発の送電塔に接近する二人の半島系テロリスト。実は、小説の「プロローグ」は、父子二代の関東電力職員だった「金山剛」が、自分たちを使い捨てた関東電力と日本社会への復讐を胸に、送電塔に向かっていく短いシーンを描いていたのだが、全然忘れていたので、突然、金山なる人物が登場したときは、誰?とまごついた。小説を読みなれない私の読み方が下手なせいかもしれないが、「プロローグ」はとってつけたようで印象が弱い。父の復讐って、「倍返し」で人気の出た『半沢直樹』の構想を借りてきたのではないか。
2014年は最悪の元旦を迎える。関東電力本社の混乱は、福島原発事故の記録(公開されたテレビ会議映像等)を下敷きにしたと思われるが、背筋が凍るような無残さだ。本書には、小説と笑って見過ごせない怖い記述(たとえば、政府に異論を唱える市民活動家や首長を陥れる罠)がいろいろあるが、私はやっぱり、ここの電力本社の無策無能ぶりが、いちばん怖かった。中国と韓国が在留民保護の名目で、いちはやく海軍を出動させるというのは完全なフィクションだが、日本海側で原発事故が起きれば、なるほど十分想定できることだな、とこれは感心した。
本書が「現役キャリア官僚のリアル告発ノベル」として評判になっていることは、いまさら言い添えるまでもないだろう。小説としてそんなに上出来とは思わないが、さて、どこまでを事実に即した記述と受け止めるか、虚実皮膜の間隔を測りながら冷静に読むには、面白い本である。