見もの・読みもの日記

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小説家も唸る/江戸学講座(山本博文)

2015-02-09 22:23:03 | 読んだもの(書籍)
○山本博文(講師);逢坂剛、宮部みゆき(聞き手)『江戸学講座』(新潮文庫) 2014.11

 旅先で読むものが切れたので、軽めの文庫本を購入したのだが、いい選択眼だったと思っている。小説家の逢坂剛氏、宮部みゆき氏を聞き手に、東京大学史料編纂所の山本博文先生が語る江戸学講座10講。テーマは「大奥」「旗本・御家人の就職システム」「大名・旗本の出世競争」「勤番(江戸勤め)武士の日常生活」「町奉行所」「明暦の大火」「安政の大地震」「武士の転勤・出張」「お伊勢参り」「海外交流」。

 私は江戸時代の社会システムや生活実態に詳しくないので、どの章も勉強になったが、時代小説を書いているお二人が、興味津々で質問したり、素直に感心している様子も面白かった。意外と細かいことは知らないものなんだな。そして、何を聞かれても悠揚迫らぬ応対の山本先生。さすがプロ。

 知っている人物の話題が出ると、慕わしくて嬉しい。逢坂剛さんの小説の主人公でもある近藤重蔵とか、「鬼平」のモデル長谷川平蔵とか。川路聖謨は家格が低く、苦労して職を得た。上級職の武士の屋敷に日参し、廊下に正座して待ち、主人が通ると黙って頭を下げるだけ。いまどきの就活並みに過酷だ。それゆえ、活躍の場を与えてくれた将軍に感謝の気持ちが強く、最期は幕府に殉じた。氏家幹人先生の『江戸奇人伝:旗本・川路家の人びと』を思い出して、しみじみした。

 やっぱり興味深いのは、犯罪や災害などの異常事態である。山本先生の「斬り捨てというのは、斬っただけでトドメを刺さないということで、斬り殺すことではありません」には驚き。火盗改には役所がなく、任命された旗本の自宅にお白洲をつくる。町奉行も、もとは自宅を奉行所にしていたが、工事が大変なので、後任の町奉行がそこに入るようになった、など面白い話がたくさん。八州様(八州廻り)というのも知らなかった。

 「明暦の大火」については、いったん捕まった放火の容疑者が釈放されているとか、火元とされる本妙寺が罰を受けることなく、のちに寺格が上がっているなど、山本先生が、アヤシからぬことを言い出す。思わず乗り出す小説家の二人。黒木喬氏の『明暦の大火』によれば、本妙寺の住職に(放火を)依頼したのは、江戸の都市計画を司る老中「知恵伊豆」こと松平信綱ではないかという説もあるそうで、小説家顔負けの想像力である。「安政の大地震」で、水戸藩の藤田東湖が母親を助けようとして、倒壊家屋の下敷きになって死んだという「美談」は聞いたことがあったが、お母さんは別の出口から逃げて助かっているんです(笑)と、しれっと語る山本先生。

 旅と異国の話題も面白かった。大田南畝によれば、長崎では縁の下に麝香鼠が住みついているので、どこへ行ってもジャコウの匂いがするとか。長崎の遊女は外国人からチョコレートを貰ったという記録もあるそうだ。

 余談だが、先週から始まったNHK BS時代劇『雲霧仁左衛門2』。2013年のシリーズは(諸事多忙で)途中までしか見られなかったが、今回こそは完走したいと思っている。エンディングのテロップに「時代考証:山本博文」のお名前を発見。嬉しくなってしまった。
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