○いとうせいこう、みうらじゅん『見仏記:メディアミックス編』 角川書店 2015.3
かれこれ20年以上続いているという「見仏記」シリーズ。私は単行本から入り、今でも主に活字を追いかけている。『TV見仏記』→『新TV見仏記』(関西テレビ放送→京都チャンネル)は、旅先でたまたま見たことがあるくらいで縁がないが、最近は、寺院のご開帳や仏像関係の展覧会でレポーターやプレゼンターをつとめるなど、見仏コンビのメディアミックス的活躍ぶりは、認識していた。もしかすると若い世代では、活字より映像から「見仏記」ワールドに入ったファンのほうが多いのではないかとも思う。
本書には、近畿・中国地方の12編の見仏エッセイが収められているが、その一部は『新TV見仏記』ロケの裏側を描いたもの。見仏コンビの両名以外に、多数のクルーが同行していて、昼食のメニューやスケジュールに気をつかっている。このスタイルで訪ねたのは、滋賀の石道寺、医王寺、菅山寺、高月観音の里歴史民俗資料館。兵庫の神積寺、随願寺、斑鳩寺、円教寺、弥勒寺。奈良の世尊寺、桜本坊、大日寺、金峯山寺、室生寺、壺坂寺、当麻寺。京都の東寺。また奈良の新薬師寺、福智院、五劫院、東大寺。やっぱり有名どころが多く、私も大半は行ったことのある寺院だ。
それにしても二人とも仏像を語る言葉が老成してきたような気がする。相変わらずくだらない会話もしているのだが、仏像を前にしたとたん、時代や特徴、様式など、ツボを外さないコメントが出る。室生寺の弥勒堂で「すべての女性が幸せになりますように」と祈っていたみうらさんとか、金峯山寺の柱がさまざまな木材を使っていると聞いて「御堂が森ってことなんだ!」と叫ぶいとうさんとか、なかなか感動的だ。たぶんテレビ放送だと恥ずかしいが、こういうのは文章のほうが伝わる。
みうらさんのスケッチもよい。赤後寺の千手観音像の図、ステキだ。金峯山寺の蔵王権現の図もいいし、室生寺の美仏(私の大好きな)釈迦如来を描いてくれているのも嬉しかった。円教寺の執事長から、帰り際に「うちになんて来てくれんやろな、と思てましたよ」と言われて恐縮したことが書かれていたが、古い読者としては可笑しいやら、びっくりするやら。
さて、上記とへ別に、二人きりの見物の旅も収録されている。目的地は広島。福山の鞆の浦と尾道。ロケと違って、綿密な下調べやアポイントを取ってくれるスタッフもいないので、ほとんど行き当たりばったり。ところが、いろいろな幸運が重なって、「今日はお休み」の仏像を拝観させていただいたり、予定外のお寺に導かれたり。個人的には、こういう「予定外」の連続で、終わってみたら、なんとなく「幸運」ばかりだった、というような見仏旅のほうが好きだ。そういえば、鞆の浦は対潮楼しか見ていないし、尾道の寺めぐりはしたことがないなあ。今度行ってみたくなった。
奈良ロケのあとに二人で寄った奈良国立博物館の醍醐寺展も収録。もはや仕事と趣味の境目が定かでないのは、幸せな生き方だなあ。そして、見仏界の「次世代」の動きに戸惑い始めた初老の見仏コンビであった。
かれこれ20年以上続いているという「見仏記」シリーズ。私は単行本から入り、今でも主に活字を追いかけている。『TV見仏記』→『新TV見仏記』(関西テレビ放送→京都チャンネル)は、旅先でたまたま見たことがあるくらいで縁がないが、最近は、寺院のご開帳や仏像関係の展覧会でレポーターやプレゼンターをつとめるなど、見仏コンビのメディアミックス的活躍ぶりは、認識していた。もしかすると若い世代では、活字より映像から「見仏記」ワールドに入ったファンのほうが多いのではないかとも思う。
本書には、近畿・中国地方の12編の見仏エッセイが収められているが、その一部は『新TV見仏記』ロケの裏側を描いたもの。見仏コンビの両名以外に、多数のクルーが同行していて、昼食のメニューやスケジュールに気をつかっている。このスタイルで訪ねたのは、滋賀の石道寺、医王寺、菅山寺、高月観音の里歴史民俗資料館。兵庫の神積寺、随願寺、斑鳩寺、円教寺、弥勒寺。奈良の世尊寺、桜本坊、大日寺、金峯山寺、室生寺、壺坂寺、当麻寺。京都の東寺。また奈良の新薬師寺、福智院、五劫院、東大寺。やっぱり有名どころが多く、私も大半は行ったことのある寺院だ。
それにしても二人とも仏像を語る言葉が老成してきたような気がする。相変わらずくだらない会話もしているのだが、仏像を前にしたとたん、時代や特徴、様式など、ツボを外さないコメントが出る。室生寺の弥勒堂で「すべての女性が幸せになりますように」と祈っていたみうらさんとか、金峯山寺の柱がさまざまな木材を使っていると聞いて「御堂が森ってことなんだ!」と叫ぶいとうさんとか、なかなか感動的だ。たぶんテレビ放送だと恥ずかしいが、こういうのは文章のほうが伝わる。
みうらさんのスケッチもよい。赤後寺の千手観音像の図、ステキだ。金峯山寺の蔵王権現の図もいいし、室生寺の美仏(私の大好きな)釈迦如来を描いてくれているのも嬉しかった。円教寺の執事長から、帰り際に「うちになんて来てくれんやろな、と思てましたよ」と言われて恐縮したことが書かれていたが、古い読者としては可笑しいやら、びっくりするやら。
さて、上記とへ別に、二人きりの見物の旅も収録されている。目的地は広島。福山の鞆の浦と尾道。ロケと違って、綿密な下調べやアポイントを取ってくれるスタッフもいないので、ほとんど行き当たりばったり。ところが、いろいろな幸運が重なって、「今日はお休み」の仏像を拝観させていただいたり、予定外のお寺に導かれたり。個人的には、こういう「予定外」の連続で、終わってみたら、なんとなく「幸運」ばかりだった、というような見仏旅のほうが好きだ。そういえば、鞆の浦は対潮楼しか見ていないし、尾道の寺めぐりはしたことがないなあ。今度行ってみたくなった。
奈良ロケのあとに二人で寄った奈良国立博物館の醍醐寺展も収録。もはや仕事と趣味の境目が定かでないのは、幸せな生き方だなあ。そして、見仏界の「次世代」の動きに戸惑い始めた初老の見仏コンビであった。