見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

2019年11月@関西:展覧会と古寺巡礼

2019-11-11 22:26:40 | 行ったもの(美術館・見仏)

 11月三連休の初日は文楽大阪公演を見に行った。このことはまた別稿で。三連休2日目は奈良へ向かった。

大和文華館 特別展『聖域の美―中世寺社境内の風景―』(2019年10月5日~11月17日)

 中世の人々が見ていた境内の風景を描くさまざまな絵画を展示する。同館所蔵の『笠置曼荼羅』『柿本宮曼荼羅』『春日宮曼荼羅』などに加え、各地の寺院・美術館から珍しい寺社図が集結。京都国立博物館所蔵の『高野山水屏風』(鎌倉~南北朝)は、現在に通じる伽藍配置のところどころに、僧侶や御山で暮らす人々(漁師や農夫)の小さな姿があって面白い。儀式用ではなく、私的に楽しむ屏風だったのではないかとのこと。寺社の楼閣を正確に描くのは難しかったのか、稚拙なものも多いが、その素朴さがかえってユートピア的な明るさを際立たせている作品も多い。兵庫・報恩寺の『報恩律寺七堂図』は小さな人物がかなり脱力的で可愛い。『竹生島祭礼図』も祝祭的で好き。ちなみに「日本の素朴絵」の逸品、サントリー美術館の『かるかや』も来ていた。

奈良文化財研究所・平城宮跡資料館 2019年度秋期特別展『地下の正倉院展-年号と木簡-』(2019年10月12日~11月24日)

 大和西大寺から歩いて、久しぶりに平城宮跡資料館を訪ねた。聖武天皇の居室をイメージした復元展示には、先月、東博の『正倉院の世界』展で見た『鳥毛帖成文書屏風』らしき屏風(の複製)が立っていた。特別展は、令和の即位・改元を記念して、奈良時代の元号を記した木簡を特集。文字が薄くて見にくいものも多く、出土品は意外と少ない(元号は省略されることが多い)のではないかと思った。

 資料館を出て、平城宮跡をぶらぶら歩き、大極殿(復元)に寄った。平城遷都1300年祭の2010年4月に竣工している。私が前回、平城宮跡資料館に来たのが2010年11月なので、見ていてよさそうだが、記憶にない。中を覗いたら、タイムリーなことに高御座の復元品が置かれていた。

 東へ向かって平城宮跡を突っ切っていくと、近鉄奈良線の方向から、聞き覚えのある音色が風に乗って、とぎれとぎれに流れてくる。どうしても法螺貝に聞こえるのだ。お坊さんの練習かな?と思って、音のするあたりに近づいてみると、上下ジャージで普通の髪型の男性が、法螺貝を抱えて一休みしていた。「法螺貝ですか?」と聞くと「そうです」という。「何か祭礼とか儀式で吹かれるんですか?」と聞くと「僕、山伏なんで」とおっしゃる。ええ、お見それしました。どう見ても休日のお父さんなのに。私が「東京から来ました」というと「では、旅の無事を祈ってお吹きしましょう」と祈願のメロディを吹いてくれた。ありがたや。

■法華寺(奈良市法華寺町)・特別公開(2019年10月25日~11月14日)

 光明皇后ゆかりの門跡尼寺。ここも何度か来ているが、久しぶりだ。十一面観世音菩薩立像のほか、乾漆維摩居士座像(2017年国宝指定)も公開されている。現在は、本堂のほぼ正面に十一面観音のお厨子を安置するが、むかしは外陣の奥においでだったよなあ、などと回想にふける。本堂に弥陀誓願なんとかという漢字の額(横長)が掛かっていて、堂々としたよい字だなあと思ったら「文秀」という印が読めた。円照寺門跡の文秀女王の筆跡だろう。

■海龍王寺(奈良市法華寺北町)・特別公開(2019年10月25日~11月14日)

 近くの法華寺と期間を合わせて、十一面観音菩薩立像を公開中。精緻な瓔珞と天衣、金泥と截金で飾られた優美な鎌倉時代の観音様だ。実は、あれ?もっと茫洋とした観音様じゃなかったかしら、と記憶との齟齬にとまどった。あとで調べたら、不退寺の聖観世音菩薩(業平観音)と混同していたようだ。ここ海龍王寺の住職はみうらじゅん氏と親交があり、みうらさんが奉納したお酒が置かれていた。

奈良県立美術館 開館300回記念特別展 生誕125年・没後40年『吉川観方―日本文化へのまなざし』(2019年9月28日~11月17日)

 昭和48年(1973)の開館から数えて300本目の展覧会として、同館創立のきっかけとなった画家にして風俗史研究家、吉川観方(1894-1979)の足跡を紹介する。同館は、2011年にも吉川観方が蒐集した風俗画等のコレクション展を開催しているが、今回は、各方面から観方の創作も多く集められていた。幽霊のお岩さんとお菊さんを描いた『朝霧・夕霧』に再会できて嬉しい。観方と同時代の日本画家、岡本神草、甲斐庄楠音、梶原緋佐子などの作品を見ることができたのは意外な収穫。

興福寺(奈良市登大路町)・特別公開2019 南円堂、北円堂(2019年10月17日~11月10日)

 南円堂と北円堂の特別公開は夕方17時まで。境内に入ったのは16時40分頃で、2ヵ所まわるのはどう考えても無理そうだったが、大好きな南円堂の不空羂索観音菩薩にお会いしたくて、共通拝観券を購入した。この日は南円堂しか参拝できなかったが、拝観券は特別公開の期間内有効なので、翌日あらためて、北円堂の無著・世親像にも会いに行った。このシステムはありがたい。なんとなく物足りないのは、かつて南円堂に安置されていて、大好きだった四天王像が見られなかったこと。そうだ、昨年から、彼らは新造の中金堂に移されたのだった、と思い当たる。どうもあの建物になじめなくて、1回入ってみたきり、敬遠しているのである。

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