10月15日(日)は、滋賀県・長浜市の「観音の里ふるさとまつり」の周遊バスツアーに参加してきた。その前日は、彦根あるいは近江八幡で遊ぶか、久しぶりに竹生島に渡ってみようかなど、いろいろ考えていたのだが、滋賀県エリアで石馬寺と瓦屋禅寺、2つのお寺のご開帳があることを知って、見仏に全振りすることに決めた。
■石馬寺(東近江市五個荘)
仏法興隆を祈る道場を求めていた聖徳太子の馬が、この地で石になったという伝説を持つ石馬寺。聖徳太子1400年御遠忌を記念して、今年の春と秋、それぞれ2週間ほど、本尊(十一面千手観世音菩薩)と脇侍2体(毘沙門天、地蔵菩薩)のご開帳が行われている。私は、確か石馬寺には一度行ったことがあると記憶しているのだが、このブログでは記事が見つからなかった。もしかすると、もう20年以上前の話かもしれない。
土曜の朝、東京を立ち、米原で乗り換えて能登川駅へ。駅前から八日市駅行きの路線バスに乗ると、10分足らずで石馬寺の停留所に着く。私のほかにも数組、ご開帳に向かう男女が下車した。
バス停から少し戻った方向に手作りの看板。示された方向に歩いていくと、お揃いの蛍光グリーンのTシャツを着たおじさんたちが車の誘導に立っていた。
やがて大門址の石碑を過ぎると、緑の木立に覆われた長い石段が続いている。傾斜はさほど急ではなかったが、頂上かと思うとさらに続く長い石段で、あとで調べたら300段とも400段とも言われていた。庫裏にあがって拝観受付をして、スリッパで渡り廊下を伝って宝物殿へ。写真の奥が宝物殿、手前は本堂である。
宝物殿は、入口の左右に閻魔大王と司録・司命の二神が向き合っていた。鎌倉時代の作。正面中央には大きな阿弥陀如来坐像(平安時代、以下も同じ)。四方にテーブルクロスを垂らしたような四角い台座に載っているのが珍しかった。本尊と同じく台座も黒漆にまだらに金箔が残っていて、もとは台座まで金色に輝いていたことが想像できた。左右には2体の十一面観世音菩薩立像。向かって右は、やや腰をひねったポーズに動きがある。衣に渦文あり。左は垂髪でストンとまっすぐに立つ。さらに右側には、十一面観音の横に多聞天像、その外側に増長天像。左側は、持国天像が2体、外側の像がやや大きい。
また右手前には大威徳天明王牛上像(お寺のパンフレットの表記だが、こんな呼び方をするのか?)。この牛が、むくっと起き上がりかけて(片足を前に出している)、左斜め横を睨んでいるところがカッコいい。宝物館の入口をくぐると、大威徳明王の姿は壁の影になって見えないのに、この水牛と目が合う配置になっていて、ドキッとする。左手間には、痩せさらばえてなお威圧感のある役行者の腰掛像と前鬼・後鬼像(鎌倉時代)。非常に密度の高い宝物館だった。
いったん外へ出て、渡り廊下の先の本堂へ。小さな出入口の外に、グリーンのTシャツのお兄さんが立っていて「いま中が満員なので、ちょっと待ってください」と声をかけられた。お話を聞くと、宝物館の仏像はいつでも拝観できるが、こちらの本堂のお厨子の仏様は、住職一代に一回のご開帳と定められているとのこと。先代の住職は開けなかったので、今回は70年ぶりに当たるのだそうだ。「いろいろ、しがらみがあったんでしょうね。しが、だけに」と飄々とおっしゃっていた。近隣の檀家のみなさんがお手伝いをしているが、僕は愛知県なので、僕だけ違います、とも。しかし歴史や仏像には詳しい方らしく、本堂に入ると、住職に代わっていろいろ説明もしてくれた。
本堂の中央には高い須弥壇があり、立派なお厨子が載っていた。開いた扉には不動明王と聖徳太子が描かれている。中には、向かって右から、毘沙門天、千手観音、地蔵菩薩の3体。小さくてよく見えないので、お厨子の前に置かれたカラー写真で像容を確認する。千手観音は厚みのある蓮華座の上にお立ちになっている。千手観音ではあるけれど、脇手はほとんど失われた状態だった。
■瓦屋禅寺(東近江市建部瓦屋寺町)
石馬寺のバス停まで戻って、同じ路線バスで八日市駅へ。意外と賑やかな駅前だったので、ショッピングセンター内のパン屋で軽い昼食。駅の反対側の林道を歩いて瓦屋禅寺へ向かうことにした。お寺のホームページには「徒歩にて20分」と書いてあったのだが、Googleマップで確認すると「40分」と出る。ちょっと嫌な予感がしたものの、登山道の登り口へ向かう。
すると、さっき私を追い越した黒いワゴン車が、少し先で停まっている。不審に思いながら行き過ぎようとしたところ、車中の女性に「あの」と声をかけられた。「お寺に行かれるんですか?」「はい」と答えると「乗っていきませんか」とのこと。ええ、マジか。びっくりしたが、お言葉に甘えることにした。女性は檀家さんで、お寺に届けものがあるという。私が乗り込むと「歩くとけっこうあるんですよ…ひとりで歩くにはちょっと寂しい道だし」とホッとしたようにおっしゃる。確かに車に乗っていても勾配を感じる急坂で、とても20分では歩けない距離だった。ちなみに帰りは歩いたのだが、下り坂でも30分かかったし、目の前をイノシシの群れ(4、5頭)が横断していくのを見たときは、ちょっと怖くなった。
女性ドライバーの方とは駐車場の前でお別れしたあと、参道の脇の石段を上がってきたおじさんに「あれ?!」と声をかけられた。「バスで一緒だったよね」と。石馬寺から近江八幡駅に向かうバスで一緒で、途中の「瓦屋寺口」というバス停で下りていったご夫婦の旦那さんだった。そのバス停は気になったのだが、私は瓦屋禅寺のホームページにあった林道のほうを選んだのである。バス停からのルートは約1000段の石段で、こっちが「表参道」と言われているらしい。汗だくでお疲れのおじさんに「ほかの道もあるの?」と聞かれて「八日市駅からも登りですけど、舗装道路でした」と答える。まあ…私は他人の車で山上まで連れてきてもらってしまったわけだが。これも観音様のお導きだろう。
瓦屋禅寺も聖徳太子創建の伝承を持ち、四天王寺建立の際、山中の土を用いて瓦を焼かせたことが名前の由来となっている。本堂に秘仏として安置される十一面千手千眼観世音菩薩は、10月1日から12月3日まで、50年ぶりにご開帳されている。同寺の「特別大開帳」のホームページに載っているお写真は、故意か偶然か縦横の縮尺が歪んでいて、像容がよく分からないのだが、本物はたいへん美しかった。像の高さは160cmで、想像していたよりもずっと大きかった。脇手は、いったん全て肩から下に向かい、肘から先が扇のように上下に広がっている。羽ばたく鳥の姿(またはコウモリ?)のようでもある。細やかな細工の光背と蓮台は全面的に金色だったが、お厨子の中で上品に輝いていた。お顔は唇の赤が印象的だった。
屋根付きの廊下でつながった地蔵堂には、摩滅が進んでぼんやりした印象の地蔵菩薩を安置し、観音応化身を描いた33枚の板絵が飾られていた。このほか、経堂や鐘楼も拝観した。庫裏でご朱印をお願いしようと思ったが、ご住職はご祈祷で忙しそうだったので、書き置きのご朱印をいただいた。
そして帰りは徒歩で林道を下り、八日市駅から近江鉄道に乗った。この日は「ガチャフェス」というイベントで、100円でオレンジのリストバンド型乗車券を購入すると全線乗り放題になるという。近江(滋賀)に来ると、なぜかいいことが続く。米原で荷物をピックアップして、長浜で友人と落ち合い、美味しいお酒と夕食を楽しんだことは既に書いた。翌日の「観音の里ふるさとまつり」レポートはあらためて。