見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

和紙舗と生活の美/HAIBARA Art & Design(三鷹市美術ギャラリー)他

2024-01-04 23:00:24 | 行ったもの(美術館・見仏)

年末年始休み(今日まで)に見てきたもの。あとで書こうと思うと溜まってしまうので、今年はまとめて書いていくようにする。

三鷹市美術ギャラリー 『HAIBARA Art & Design 和紙がおりなす日本の美』(2023年12月16日~2024年2月25日)

 日本橋に店舗を構える和紙舗「榛原(はいばら)」の仕事を紹介する。榛原は1806(文化3)年、初代須原屋佐助(中村佐助)が小間紙屋を開業したのが始まりと言われている。須原屋?と思ったら、書物問屋の須原屋茂兵衛の店で支配人をしていた人らしい。18世紀の終わり頃から生産が開始された熱海製の雁皮紙の販売で評判を得る。本展の展示品は、おもに明治から昭和初期にかけて製作された和紙や紙製品。河鍋暁斎、梶田半古、川端玉章、竹久夢二などの有名どころが千代紙のデザインをしていることに驚く。千代紙は、大奥の女中が衣装箱や道具箱の裏張りに使っていたのが町人に広まったのだという。私の子どもの頃(1960年代)は、まだ東京の駄菓子屋で安い千代紙が売られていたことを思い出し、懐かしかった。

※参考:はいばらオンラインミュージアム

三井記念美術館 『国宝 雪松図と能面×能の意匠』(2023年12月8日~2024年1月27日)

 年末年始の恒例展示、円山応挙筆『雪松図屏風』に加え、旧金剛宗家伝来の能面と能装束、さらに能面作家・橋岡一路氏より寄贈を受けた、古面写しの能面を展示する。第1室の能面は、透明アクリル板に留めつけてあって、ほの暗い展示室で宙に浮いているように見えた。裏側(内側)を見ることができるのも新鮮だった。私は能面に詳しくないので、目だけでなく鼻や口も基本的に孔を開けるものであることを初めて知った。能衣装は、直前に根津美術館の『繍と織』で見た桃山~江戸時代のものに比べると、明治~大正時代のものは(三井だからか)派手派手しくて、あまり好きになれなかった。ただ『刺繍七賢人模様厚板唐織』は、ヘンな動物がたくさんいて楽しかった。

静嘉堂文庫美術館 『ハッピー龍(リュウ)イヤー!~絵画・工芸の龍を楽しむ~』(2024年1月2日~2月3日)

 龍をモチーフとする作品を幅広いジャンルから集めて展示。はじめに南宋刊本の『説文解字』が展示されており、パネルにも詳しい解説があった。その一節「春分ニシテ天ニ登リ、秋分ニシテ淵ニ潜ム」を読んで、そんな性質だったか~と感慨深く思った。毎年、天と地を往還しているのだな。静嘉堂文庫と縁の深い大漢和辞典についてのパネルもあって、龍を4つ重ねた漢字(読みはテツ、テチ)があると紹介されていたのも面白かった。絵画・工芸は、中国、朝鮮、日本から集められていたが、やはり見どころは明清の陶磁器だろう。官窯の大作が多い。丸の内に移ったことで海外のお客さんの目に触れる機会も増えたように思われるのは嬉しい。布製品の『紺地龍"寿山福海"模様刺繍帳』も注目で、清朝皇帝の袍をほどき、帳(垂れ布)につくり替えた可能性があるという説明がされていた。

文化学園服飾博物館 『魔除け-見えない敵を服でブロック!-』(2023年12月9日~2024年2月14日)

 日本と世界各地の民族衣装や装身具に見る魔除けや招福の役割を探る。同館では、2015年にも『魔除け~身にまとう祈るこころ~』という展覧会が開催されていて、とても興味深い展示だったことを記憶している。中国の五毒をデザインした子供服や、タイの赤いボンボンのついた帽子(ニワトリのトサカをイメージ)などは、ああ見た見た、と記憶がよみがえった。色彩的には、招福も魔除けも赤が多いように思った。

印刷博物館 企画展『明治のメディア王 小川一眞と写真製版』(2023年11月18日~2024年2月12日)

 明治期に活躍した写真師、小川一眞(小川一真、1860-1929)は、写真製版によってたくさんの印刷物を製作、出版した。写真製版が印刷をどのように変えたのか、近代日本における視覚メディアの発展と視覚文化の形成に与えた影響を探る。私は昔から写真の歴史に興味があって、小川一真の名前もむろん知っている。全く忘れていたが、ブログを検索したら、2009年に東博で『東京国立博物館収蔵の古写真と写真師小川一真』という講演会を聞いていた。しかし本展は、小川一真を「写真師」としてだけでなく、写真から印刷の版をつくり、写真の「出版」を可能にした人物と捉えるところが新しい。会場では小川の作品(写真、多くは出版物から起こしたもの)が多数、引き延ばされて壁を埋めている。人物写真あり、絵画や仏像、美術工芸品の写真あり、地震や津波の記録写真あり。そして展示ケースの中には、数々の立派な写真帖が鎮座している。写真帖というかたちで歴史を潜り抜けてきたことは尊いが、正直、もっと気軽に中の写真を全て見ることができるようになってほしい。デジタル化してパブリックドメインに置いてほしいと切実に思った。

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