見もの・読みもの日記

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付藻と松本/眼福(静嘉堂文庫美術館)

2024-09-27 22:18:43 | 行ったもの(美術館・見仏)

静嘉堂文庫美術館 特別展『眼福-大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋』(2024年9月10日~11月4日)

 三菱第2代社長・岩﨑彌之助とその嗣子で第4代社長の岩﨑小彌太の父子二代によって収集された茶道具の名品展。静嘉堂としては8年ぶりの茶道具展で、将軍家、大名家旧蔵の由緒ある茶入や名碗をはじめ、著名な茶人たちの眼にかなった、格別の名品が一堂に会する。

 ギャラリー1は、建窯の油滴天目(デカい)に始まり、灰被天目、井戸茶碗、楽茶碗、織部、高取などが1~2点ずつで、茶碗の種類を学ぶ教科書の趣き。私は、いわゆる井戸茶碗は、持ち重りしそうであまり好きでないのだが、つるっとした玉子手茶碗(銘:小倉山)は触ってみたいなと思った。

 ギャラリー2は茶入。それぞれ仕覆やら木箱やら、大量の付属品が一緒に並んでいて面白かった。本展は、すべて展示品の伝来(旧蔵者)の系譜をパネルで添えているのだが、特に茶入は、複雑で長い伝来経路をたどっているように思った。なかでも代表格は、唐物茄子茶入の「付藻茄子」と「松本茄子(紹鷗茄子)」だろう。どちらも信長、秀吉、家康が手にしたもの。豊臣秀頼所持の際に、大坂夏の陣で罹災したが、土灰の中から掘り出された。家康の命を受けて、茶器塗師(ぬし)の藤重藤元・藤厳が修理に当たり、成果に満足した家康は、2つの茶入を藤重家に下賜した。この話は、2013年に静嘉堂の『曜変・油滴天目 茶道具名品展』で知ったもので、X線写真のパネルが強く印象に残っている。本展では、さらに写真が増えていると思ったら、1994年のX線撮影に次いで、本年(2024年)東京国立博物館で最新の機器によるX線CTスキャンをおこなったのだそうだ。

 なお、2つの茶入は、明治17年(1884)彌之助が歳末の給料を前借りして購入したもので、「付藻」が旧土佐藩の「九十九商会」と同名だったことも、彌之助を決心させた一因だったのではないかという。彌之助、33歳かな。しかし兄・彌太郎の訓戒を受け、2つの茶入は彌太郎の預かりとなって、最晩年まで彌之助の手元に戻ってこなかったという。岩崎家の兄弟、おもしろいな。本展は「曜変天目以外、撮影可」だったので、2つの茶入を撮影させてもらった。

大名物『唐物茶入 松本茄子(紹鴎茄子)』

大名物『唐物茶入 付藻茄子』

 付藻茄子のほうが少し頸が長いのだな。そして、この「茄子」というかたちは、よくある肩衝茶入に比べて、自然に手になじみそうで好き。

 ギャラリー3は、青磁花入やら虚堂智愚の墨蹟やら仁清の色絵やら、多様な名品が入り混じる中に同工異曲の『猿曳棚』4件が並んでいるのは目を引いた。形式的には「紹鴎棚」と呼ばれるもので、地面に接する引き違い戸の袋戸棚の上に、柱で支えられた天版(棚)が載っている。この袋戸棚の板戸に猿曳と紐でつながれた猿が描かれているのだ。最も古いものは、伝・狩野元信筆、室町時代の作で、江戸時代、さらに明治時代の狩野派絵師が「写し」の棚を作成している。「写し」と言っても、猿曳というモチーフを継承しているだけで、図様はけっこう変えていた。

 最後はギャラリー4で、いつもの曜変天目。茶碗の中に差し込む照明が、ちょっと明るすぎるんじゃないかと危惧している。


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