見もの・読みもの日記

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旅と発見・美しき日本/江戸東京博物館

2005-09-23 12:28:37 | 行ったもの(美術館・見仏)
○江戸東京博物館 『美しき日本-大正昭和の旅』展

http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/

 タイトルを見て、具体的な内容が思い浮かぶだろうか? 私は思い浮かばなかった。想像が付かないまま、会場に行ってみて、おや、こんなものが、ああ、そういう解釈もあったか、などと、いちいち驚いていた。この展示は、第一次世界大戦から第二次世界大戦の間(日本では大正から昭和の間)、「つかの間の平和」(と企画趣旨は言っている)に、国内外で興った観光ブームに焦点を当てる。

 ”現物資料”としては、当時のスキー、釣り道具、ピクニックセット、T型フォード(大量生産の原点になったフォード車って、こんなクラシックカーなのね!)、大型客船の備品などが展示されている。

 目を引くのは、当時のポスター、パンフレットなどの商業美術である。大正元年、日本を訪れる外国人観光客のために発足した「ジャパン・ツーリスト・ビューロー」は、昭和5年、鉄道省国際観光局に組織替えされ、積極的な観光客誘致に着手する。

 まず、著名なグラフィック・デザイナーを起用し、観光誘致ポスターを作成して、海外向けに配布した。今回、江戸博のポスターに使われている、桜と富士山を背景に微笑む舞妓さんの図も、実はこの国際観光局が作ったポスターが原版である。西洋人から見た「ビューテフィル・ニッポン」の視線を、まっすぐ受け止めた初々しさが微笑ましい(ちょっと”やりすぎ”の感もあるが)。作者は吉田初三郎。大正・昭和の”鳥瞰図絵師”として活躍した人物である。

 数年後には、もっと自信にあふれ、芸術性の高いポスターが輩出する。中でも、里見宗次の作品「車窓の風景」の前で、私は立ちつくしてしまった。初めて意識する名前である。1935年、日本人で初めてエコール・デ・ボザール(パリ国立美術学校)の本科に入学。卒業後、商業美術に転じ、パリを拠点に国際的な活躍を見せたグラフィックデザイナーだという。「アール・デコ」に分類されるのだろうが、大胆で力強い作風に、旧ソ連のプロパガンダ・ポスターを連想してしまった。日本の版画を学んだブラウンの「神社夜景」も美しいと思った(このへん、作品名はうろ覚えで書いている。江戸博のHPには展示作品の完全なリストがないのだ。改善を望む!)

 一方、国内の鉄道会社が作成したポスターやパンフレットは、無名のデザイナーの作品であるが、これらも、なかなか捨てがたい。国際観光局の雑誌「Tourist」も、歴史資料として、またグラフィック誌として、おもしろいと思った。NACSIS Webcatで検索すると、国内の大学図書館の所蔵を併せても微々たるものだが、交通公社(だったかな?)の資料室には、創刊当時の号が、ちゃんと残っているらしい。

 このほか、外国人観光客のお土産用に開発された「ちりめん本」も面白いと思った。主に日本のお伽噺に、多色刷りの挿絵を加え、さらに縮緬(ちりめん)加工した和紙に印刷した小型本である。軽くて手頃で、しかも「読む+看る+触る」でニッポンを感じさせるのだから、大ヒットしたのも当然だろう。

 後半は、風景版画で一世を風靡した川瀬巴水の作品を展示。しっとりと楽しめる。多岐にわたる発見が多くて、非常におもしろい展覧会だった。

 蛇足。江戸博の入場料は、企画展、常設展、企画展+常設展(やや割引)の3つに設定されている。東博のように、企画展料金で常設展も見られるようにしてくれないものかしら(歴博、民博もこの方式)。実は、第二企画展『安政の江戸大地震150年』も見たかったのだが、これは常設展エリアで開催されているため、別に常設展料金が必要だと言われたのである。だって、第二”企画展”だろ~。入館者が増えない、増えないと嘆いているらしいが、この料金体系の設定に問題はないだろうか。
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