見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

お好み焼きとバナナジュース/飲み食い世界一の大阪(江弘毅)

2014-04-08 23:40:54 | 読んだもの(書籍)
○江弘毅『飲み食い世界一の大阪』 ミシマ社 2013.1

 この半年間、NHK朝ドラ「ごちそうさん」の影響で、大阪の街と食に関心が高かったので読んでみた。著者の名前は、内田樹さんのツイッターでも時々見かけていたが、大阪・岸和田生まれで、雑誌「ミーツ・リージョナル」の創刊に携わり、編集長をつとめた方である。

 「情報」で美味いものを整理し、効率的に食べたり飲んだりしようとするグルメライターやブロガー(ひどい場合は、一見さんお断りの店の扉を片っ端からこじ開け、料理にケチをつけることを快感としている)への批判。それは分かる。友人や知人の手引きで「街場」にデビューすることで、はじめて遭遇できる「うまいもん」。「牡蠣は○○産」みたいな情報とは無縁の、「日常食」のごちそう、というのは、全く分かる。

 しかし、夜の街の遊び方というのは、たぶん私には理解不能なまま終わりそうだ。スナックとクラブがどう違うのか。スナックと呼ばれる小世界で、おじさんたちは、こんなふうに遊んでいるのか。へええ。まあでも、私の生活とはかすりもしない話で、前半はあまり興が乗らなかった。

 面白かったのは、お好み焼き屋について語った章段。お好み焼き屋は「場所」である。店主である。ということで、鷲田清一さんの『京都の平熱』や宮崎学『突破者』、森功『許永中 日本の闇を背負い続けた男』などの文章が引用されている。なるほど、誰もお好み焼きの味については語ろうとしない。しかし、その店のある「街」のたたずまいは、鮮やかに伝わってくる。

 本書には「そして神戸。なのにあなたは京都へゆくの」という長い副題がついていて、話題はときどき、京都や神戸に広がっていく。神戸を語った段も面白かった。ハイカラな外国の匂いと、昭和な元町の中華食堂。広東料理の四興楼に台湾料理の丸玉食堂か。覚えておこう(試しに画像検索して、ノックアウトされた気分)。あとフルーツショップのサンワね。「バナナジュースは神戸のどこの喫茶店でもポピュラーでうまい」「大阪よりも京都よりも断然うまい」。それは台湾からの輸入バナナが神戸港に着くからだという。「兵庫突堤に着けられる船腹が低いバナナボートからしてカッコよかった」という説明に、今でも見られるか!?とびっくりしたが、これは「先輩編集者から聞いた話」であるらしい。

 巻末には、著者と中沢新一さんの短い対談つき。中沢さんのいう「市民のつまんなさ」って、なんか分かるわ。自分を「市民である」「消費者である」という立場から変えようとしない。私は、海民的な変幻自在、融通無碍の生き方のほうが好き。それから、岸和田のだんじり彫刻には、武内宿禰が生まれたばかりの応神天皇を抱いている図がある。普通じゃないか、と思ったら「これは、ほんまのお父さんや」と言っていた子もいたと聞いて、驚いた。そんなゴシップが? これだから女帝は厄介なのか。…食いもんの話とはだいぶ離れてしまったけれど。
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住大夫さんを送る/文楽・菅原伝授手習鑑(夜の部)

2014-04-07 22:56:09 | 行ったもの2(講演・公演)
国立文楽劇場 4月文楽公演(2014年4月5日) 七世竹本住大夫引退公演『通し狂言 菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』第2部

 記憶が曖昧だったので、調べたら、住大夫さんが引退を発表したのは2月28日だった。この4月文楽公演の予約開始日は3月3日(月)なので、住大夫引退公演と分かった上で、私はチケットを購入したはずだ。そうだったかしら。まだ「引退公演」には実感がなくて、むしろ「菅原」は好きな狂言だから見たい、という気持ちだった。ほんとは4月第2週か第3週がよかったのに、第1週(公演初日)しか取れなくて、それでも取ってしまった。住大夫さんへのお別れは、5月東京公演であらためて、のつもりだった。

 それが直前に確認したら、5月東京公演のあぜくら会先行発売は4月5日(土)10:00だという。ええ~私は大阪公演を見るために、札幌を発って、ちょうど神戸空港に下り立った頃だ。到着ゲートを出てすぐ、スマホでチケット購入サイトにアクセスしたが、全くつながらない。電話もダメ。結局、何十回目かに国立文楽劇場のロビーからかけた電話がつながったときは「(第1部の)あぜくら会分は完売しました」とつれなく言い渡されてしまった。うむむ。今日4月7日(月)の一般発売もダメでしたよ、むろん。発売開始時は仕事時間中でしたし。

 しかし、大阪で最後の住大夫さんの舞台を聴けたことは良しとしよう。今回の通し狂言、第2部は三段目「車曳の段」「茶筅酒の段」「喧嘩の段」「訴訟の段」「桜丸切腹の段」、四段目「天拝山の段」「寺入りの段」「寺子屋の段」。16:00に始まり、21:00近くまでかかる(休憩は最低限)長丁場だが、物語が起伏に富んでいるので飽きない(冒頭でちょっとウトウトしました)。「車曳」は、車を蹴破って現れる藤原時平の「公家悪」っぷりがいいねえ。

 住大夫引退狂言は「桜丸切腹の段」。正直にいうと、語り始めの声の細さには、ああ、全盛期はこんなものじゃなかったのに、という悲しさがあった。ところどころ、凛とした声の張りとか、細やかな情が感じられるところもあったけれど。5月まで続く引退公演を完走してもらえるのか、とても心もとない。諸事情が無理を強いているのではないかと胸が痛む。

 最近の私は、舞台の人形をほとんど見ずに、床の大夫さんと三味線ばかり見ていることが多かったが、この日は逆に、耳だけ語りに傾けながら、視線は舞台に合わせていた。文雀さんの八重と蓑助さんの桜丸。住大夫さんとともに、長い年月、文楽の屋台骨を支えてきたお二人が舞台上にいることが感慨無量だった(つい吉田玉男さんのことも思い出して…)。

 休憩を挟んでの「天拝山」は面白かったな。梅の花を含んで火焔を吹く菅丞相って、ほんとに火花を吹くんだ! 崇徳院を彷彿とする怨霊いや御霊モード。「寺入り」から「寺子屋」は、小学生の頃「少年少女世界文学全集」で子供向けリライト版を読んだ記憶が残っている。なんという変な話!(子供の立場からは許せないオトナのご都合主義)と思っていいはずなのに、けっこう好きだったから不思議だ。語りは嶋大夫。ちょっと粗い感じがする。松王丸は桐竹勘十郎。涙もろくて、人のよさが感じられる松王丸だった。玉男さんの松王丸もこんなふうだったかなあ。

 蛇足をいくつか。私は文楽を見始めた超初心者の頃に、竹本越路大夫の引退公演(1989年)を聴いている。どうして今回の公演はこんなに満員で、補助椅子席しかないんだ?と訝しがりながら。それでも越路大夫の公演を「聴いた」ことを今では自慢に思っているので、私が住大夫の東京公演のチケットを取れなかった分は、若い文楽ファンに譲ったのだと思いたい。

 それから「杉本文楽」は、東京公演のチケットが手に入らず、あきらめた。斬新な手法を用いた新演出について、評価はいろいろあるようだが、私は、公演を成功に導いた最大の要因は、幅広い演出に対応できる技芸員の能力の高さだと思う。そして、日々の鍛練による基礎能力の育成を等閑視して、演出の新趣向だけをほめそやす風潮は、絶対に承服できないと思っている。
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興福寺・東金堂

2014-04-03 22:24:40 | 行ったもの(美術館・見仏)
「平成25年4月25日(?)奉納」の1枚。



「平成24年4月25日」奉納の書

「平成20年4月25日」奉納の書
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2014年3月@東京:金沢文庫→浅草寺(特別拝観)→日本民藝館

2014-04-03 22:14:58 | 行ったもの(美術館・見仏)
神奈川県立金沢文庫『中世密教と〈玉体安穏〉の祈り』(2014年2月20日~4月20日)

 中世密教においては「玉体」(天皇の御身体)の安穏を祈ることが、天下泰平・国家安穏の祈願に直結していた。ということで、密教儀礼にかかわる仏画や仏像、寺院史料を展示。清浄光寺(遊行寺)の『後醍醐天皇像』は模本展示だったが、よく出来ていて、遜色がなかった。称名寺所蔵の絵図や文書は、一度は見たようなものが多かったが、横浜市金沢区の龍華寺から仏画や仏像が多数出ていたのが珍しかった。 横浜市南区の寶生寺(宝生寺)も。横浜って、実は古い土地柄なのである。

金龍山浅草寺 大絵馬寺宝展と庭園拝観~坂東午歳特別結縁巡礼 慶讃~』(2014年3月14日~5月7日)

 「特別拝観」が始まると聞いて、京都の古文化財拝観並みの800~1,000円くらいの料金を覚悟していたので、300円と知って拍子抜けした。さすが庶民の味方。本堂左手の特別展示館に入ると、まず国宝『妙法蓮華経・普門品第二十五』を拝見することができ、あまりの美しさに動悸が早くなる。表紙は「香染」と解説に云う。「丁子の蕾の乾燥したものを煎じた汁で染めた、黄色を帯びた薄紅色」のことだそうだ。大雑把には茶色。経紙は、私なら抹茶色と云う。盛大に散らした金砂子には輝きが残っていないが、沈み込んだ金泥の罫線は、几帳面で美しい。

 隣りに重文の『元版一切経』。「杭州大普寧寺蔵版」の文字が見える。もとは、北条政子が頼家の追善供養のため、鎌倉の鶴岡八幡宮に奉納したものだが(朱長角印あり)、明治の廃仏毀釈で焼却されかけたところを、貞運尼という尼僧が、托鉢して集めた浄財で買い取り、明治4年、浅草寺に奉納したそうだ。品川まで船で運び、陸路を大八車で運んだのは新門辰五郎だという。カッコいい~。巻末に「嘉吉改元」云々とあったのは書写年かな。そして「明治四享末九月願主峻海貞運尼…于当寺」とも。

 それから、浅草寺名物の「大絵馬」を見ながら、ひとまわり。浅草寺の絵馬といえば、歌川国芳の『一ツ家』、そして狩野一信の『五条橋の牛若丸と弁慶』は見逃せない、と思っていたので、注意深く回る。高橋由一の息子・源吉が描いた『商標ヤマサ感得』の絵馬(ヤマサ醤油の創業者・浜口儀兵衛が奉納)とか、いろいろ面白い。韓信、関羽など中国古典をネタにした絵馬が多くて、中国語で会話しているおじさん(観光客?)が、興味深げに見ていた。国芳はすぐに見つけたが、狩野一信はない。冒頭のパネルに「…狩野一信の絵馬など」と紹介されているにもかかわらず、現物は出ていない。館内案内のお姉さんに確かめたが、やっぱりなかった。ちょっと落胆。まあ300円だから、強い文句は言えないけど。

 庭園のサクラはまだ咲いていなかったが、1週間経って、今頃は盛りを迎えているだろう。伝法院+五重塔orスカイツリーの図。





日本民藝館 特別展『茶と美-柳宗悦の茶-』(2014年1月10日~3月23日)

 いつになく人が多いのは、柳宗悦の名前に惹かれてきた人が多いのかな、と感じた。茶の湯の伝統と精神を継承しつつ、伝統や国籍にとらわれない、新しい茶を推進した柳宗悦の美学が感じられて面白かった。
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2014年3月@東京:江戸絵画の19世紀(府中市美術館)

2014-04-01 23:08:22 | 行ったもの(美術館・見仏)

府中市美術館 企画展『春の江戸絵画まつり 江戸絵画の19世紀』(2014年3月21日~5月6日)

 恒例「春の○○まつり」。いや、パンまつりではなくて、府中市美術館といえば、江戸絵画である。今年のテーマは19世紀。18世紀には、応挙、若冲、蘆雪、蕭白らがいた。さて、19世紀といえば?

 最初に着目するのは「19世紀の造形感覚」。「伝統」の形式にとらわれず、あるものを見たままに描く迫真の迫力が、風景画にも人物画にも花鳥画にも出現する。逆に、ひねりを効かせた造形で、人々の目を釘付けする作品も。国芳の『通俗水滸伝』シリーズはいいなあ。「智多星呉用」は初見かもしれないが、足元に天球儀と八分儀(?)が置かれている。狩野一信の『七福神図』は遠望の楼閣山水図に七福神の姿を小さく描き込んだもの。ほんとに一信筆かなあ。北斎の弟子、魚屋北渓(ととや ほっけい)はよく知らなかったが、エイリアンみたいに爪の大きい『雲龍図』が気に入ったので、画像検索してみたら、かなり好み。

 「心のかたち」を経て、鎖国下の人々にとっての「世界」について考える。ううむ、安田田騏の『異国風景図』(Wikiに画像あり)も安田雷洲の『捕鯨図』も後期展示なのか~。見たい。春木南溟の『虫合戦図』は面白かった。以上4件は、いずれも板橋区立美術館所蔵(寄託)の「帰空庵コレクション」の一部だという。亜欧堂田善の作品も、たくさん見られて楽しかった。絵画史的にはマイナーな画家の作品が、こんなに見られる機会はなかなかない。

 冷泉為恭の『在原業平像』は、あまり印象に残らなかったが、図録で拡大図を見て、精緻な描写に驚いている(ただし鎌倉時代の原本がある由)。「光と陰影」については、こうして類似の表現を集めてみると、いろいろと面白い。やっぱり亜欧堂田善の視覚は変だわ。銅版画『吉原土堤の景』など。

 最後は選りすぐりの(意外な)名品。鈴木其一の『毘沙門天像』『武内宿禰図』(着物の色柄!)、狩野芳崖の『鏻姫(れいひめ)像』、どれも「江戸絵画」というカテゴリーをはるかに超えて素晴らしい。後期も行きたいなあ。

 図録は、巻末に部分拡大図がたくさん付いていて、お買い得。図版と同じページに解説(誰にでも読める文章)を配した「読む図録」なのも嬉しい。

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