○諸星大二郎『瓜子姫の夜・シンデレラの朝』 朝日新聞出版 2013.12
少し前になるが、3月13日に文化庁が第64回(平成25年度)芸術選奨の受賞者を発表した。その中に諸星大二郎氏の名前があったことを知った。文化庁のホームページで「芸術選奨」の情報を閲覧すると、平成20年度に「メディア芸術」部門が新設され、この年、井上雄彦氏が「芸術選奨・新人賞」を受賞している。その後は、新人賞・大臣賞ともに、アニメ作家やゲームクリエーターの受賞が続いた。久しぶりにマンガ界から、しかし、こんな絵柄の古臭い、昭和の頃からずっと変わらず「分かるヤツだけ分かればいい」ようなマイナー作品を描いてきた作者が「芸術選奨・文部科学大臣賞」って、ほんとにいいのかよ、と私はブツブツつぶやいている。いや、古くからの諸星ファンとして、喜びたくてたまらないのだけど、まだ半信半疑なのだ。
受賞理由に『瓜子姫の夜・シンデレラの朝』ほかの成果、とあったので、うわ、買い逃していた!と思い、書店に走った。紀伊国屋札幌本店は在庫切れだったが、MARUZEN札幌北一条店で、なぜか「ライト・エッセイ」の棚にあるのを入手した。
収録作品は「瓜子姫とアマンジャク」「見るなの座敷」「シンデレラの沓」「悪魔の煤けた相棒」「竹青」の5編。いずれも民話(のようなもの)を下敷きに、怖くて哀しくて優しい、独特の諸星ワールドが展開する。著者は「あとがき」で「以前、グリム童話をモチーフにした連作をある程度描いたことがありました」と述べている。そうそう「トゥルーデおばさん」だ。「スノウホワイト」も持っていたはずだが。また描いてみたくなって描いたのが「シンデレラの沓」「悪魔の煤けた相棒」だという。後者の原話は知らないなあ。「瓜子姫とアマンジャク」「見るなの座敷」は、もちろん日本。「竹青」は「聊斎志異」に原話があり、太宰治にもアレンジがあるそうだ。
太宰はよく知らないが、私は本書を読みながら、芥川龍之介を思い出していた。諸星大二郎の作品は、気軽に読み始めると、ものすごく恐ろしい世界に引きずり込まれることがあって、最初の「瓜子姫とアマンジャク」などは、猛然と防御の構えで読み始めた。しかし帯に「魅惑的なブラック・メルヘン」とうたうほどブラックではなくて、むしろ胸の奥に小さいけれど暖かい灯がともるような、凛としたメルヘンである。あ、この読後感は、私の好きな芥川の児童向け作品に似ている、と思ったのだ。
「見るなの座敷」はいちばん訳が分からなくて、少し怖い(他の諸星作品ほどではない)。「シンデレラの沓」も解釈は難しいけれど単純に楽しい。ふふふ。大好きだ、こういう作品。「悪魔の煤けた相棒」は因果がはっきりしていて、怖いけど比較的分かりやすいだろう。「竹青」は教訓を嫌って単純な活劇を描いてみたという。どうやら目出度い大団円で読後感は悪くない。
そういえば「トゥルーデおばさん」も著者は「女の子が主人公のものを意図的に選んだようなところがある」と語っていたが、この作品集も女性が主人公もしくは重要な登場人物となっている。そして、諸星さんて、たぶんいわゆる「女子力」に感化されないタイプじゃないかなあと、作品を読みながら思っていた。(追記。いわゆる「女子力」に感化されやすいのが「おじさん」だとすると、著者の本質が「少年」だからかもしれない。風に乗って遠ざかっていく瓜子姫を見送るアマンジャクの視線こそは「少年」のもの。)

受賞理由に『瓜子姫の夜・シンデレラの朝』ほかの成果、とあったので、うわ、買い逃していた!と思い、書店に走った。紀伊国屋札幌本店は在庫切れだったが、MARUZEN札幌北一条店で、なぜか「ライト・エッセイ」の棚にあるのを入手した。
収録作品は「瓜子姫とアマンジャク」「見るなの座敷」「シンデレラの沓」「悪魔の煤けた相棒」「竹青」の5編。いずれも民話(のようなもの)を下敷きに、怖くて哀しくて優しい、独特の諸星ワールドが展開する。著者は「あとがき」で「以前、グリム童話をモチーフにした連作をある程度描いたことがありました」と述べている。そうそう「トゥルーデおばさん」だ。「スノウホワイト」も持っていたはずだが。また描いてみたくなって描いたのが「シンデレラの沓」「悪魔の煤けた相棒」だという。後者の原話は知らないなあ。「瓜子姫とアマンジャク」「見るなの座敷」は、もちろん日本。「竹青」は「聊斎志異」に原話があり、太宰治にもアレンジがあるそうだ。
太宰はよく知らないが、私は本書を読みながら、芥川龍之介を思い出していた。諸星大二郎の作品は、気軽に読み始めると、ものすごく恐ろしい世界に引きずり込まれることがあって、最初の「瓜子姫とアマンジャク」などは、猛然と防御の構えで読み始めた。しかし帯に「魅惑的なブラック・メルヘン」とうたうほどブラックではなくて、むしろ胸の奥に小さいけれど暖かい灯がともるような、凛としたメルヘンである。あ、この読後感は、私の好きな芥川の児童向け作品に似ている、と思ったのだ。
「見るなの座敷」はいちばん訳が分からなくて、少し怖い(他の諸星作品ほどではない)。「シンデレラの沓」も解釈は難しいけれど単純に楽しい。ふふふ。大好きだ、こういう作品。「悪魔の煤けた相棒」は因果がはっきりしていて、怖いけど比較的分かりやすいだろう。「竹青」は教訓を嫌って単純な活劇を描いてみたという。どうやら目出度い大団円で読後感は悪くない。
そういえば「トゥルーデおばさん」も著者は「女の子が主人公のものを意図的に選んだようなところがある」と語っていたが、この作品集も女性が主人公もしくは重要な登場人物となっている。そして、諸星さんて、たぶんいわゆる「女子力」に感化されないタイプじゃないかなあと、作品を読みながら思っていた。(追記。いわゆる「女子力」に感化されやすいのが「おじさん」だとすると、著者の本質が「少年」だからかもしれない。風に乗って遠ざかっていく瓜子姫を見送るアマンジャクの視線こそは「少年」のもの。)