〇日本民藝館 特別展『柳宗悦の「直観」:美を見いだす力』(2019年1月11日~3月24日)
大変よい展覧会という評判を聞いて、慌てて見に行った。朝鮮陶磁、木喰仏、日本の民藝など、それまで顧みられることのなかった美を次々と見いだした柳宗悦の「直観」を追体験してもらおうという企画。柳宗悦が蒐めた名品が一堂に展観されている。
玄関ホールの階段の左右、そして踊り場には木製の食器棚ふうの展示ケース。素材も用途もさまざまな容器や食器が並んでいる。赤-白-青、丸-四角-半円のような感じで、色とかたちのバランスに気をつかいながら並べていることが分かる。私は民藝館に何度も来ているので、これは唐津、これはたぶんスリップウェア、これは朝鮮の革工芸(名前が出ない)という感じで、カテゴリーが想像できるのだが、いつも作品の横に控えめに置かれている展示札が見えない。
以前、展示札の字を書ける人がいなくなって困っていると聞いたことがあったので、変な心配をしてしまったが、これは意図的なもので、柳宗悦の眼差しを追体験してもらうため、敢えて「説明や解説を省き、時代や産地、分野を問わず」展示するという手法を用いたのだそうだ。面白い。1階玄関ホールには、木造の獅子や木喰仏も出ていた。金工品の展示ケースに出ていた、灯芯を切るための真鍮の鋏には見覚えがあった。
大階段の壁に掲げられていたのは、大好きな『開通褒斜道刻石(かいつうほうやどうこくせき)』の拓本。いま『顔真卿』展にも東博所蔵本が展示されているはずで、同時期に二本まとめて見られる機会はなかなかないと思う。私は展示札がなくても、どうしても記憶にたよって展示を見てしまったが、初見の人はどんな気持ちでこの展示を見たのか、聞いてみたい。
2階の展示室は、少したじろぐほど魅力的だった。一番奥の壁の中央には黒々とした大きな文字。二文字ともつくりが「したごころ(心)」であるのは分かるのだが、いつも読めない…。あとで調べて、梁武事仏碑(梁の武帝が座右の銘として刻んだ石碑)の拓本「懲忿」であることを思い出した。その左右に確か火除けのの革羽織。まわりの展示ケースの取り合わせも実によい。キリスト教の木版画とうんすんカルタと大津絵の羽子板が並んでいたり。しかしこの部屋、壁際にも展示室の中央にも、あまり見たことのない大きめの立体物がごろごろ置かれていて、楽しかった。木造の馬とか鶴がいたと思う。底のすぼまった三角錐の編み籠は、中に重りを入れることできちんと立っていた。
最も私の注意を引いたのは、入って右手の壁に掛けてあった六曲一隻の『曽我物語図屏風』。何度か見ているらしいのだが、あまり記憶になくて、今回初めてじっくり見た(実は「曽我物語」を読んでいないので、描かれている内容がよく分からないのだ)。よく見ると同じ柄の着物を着た人物が何人もいる。異時同図法で同じ人物を描いているらしい。富士山の山中にキツネがたくさんいるのが不思議。なお、気になった「幕紋」については、以下のブログ記事が詳しかったので参考に挙げておく。→《曽我物語屏風》@日本民芸館(Art & Bell by Tora)
このほか、大階段の裏側は仮面の特集になっていて、民博っぽい雰囲気だった。絵画を特集した部屋には『つきしま(築島物語絵巻)』も出ていた。『浦島絵巻』がないのは残念だなあ。あと根来の瓶子はいいなあ、やっぱり。展示品をどれかひとつ貰えるなら、この根来を持って帰りたい。ポスターになっている上半身だけの岩偶(土偶ではない)もさりげなく出ていた。座ってはいけない展示品のウィンザーチェアが、中国の真鍮製のストーブと取り合わせて展示室の中央に出ていたのも面白かった。
併設展は「朝鮮半島の陶磁器」「朝鮮時代の文房具」と「工芸作家の仕事」シリーズ。これらには、いつもの黒地に朱書の展示札が添えてあった。
大変よい展覧会という評判を聞いて、慌てて見に行った。朝鮮陶磁、木喰仏、日本の民藝など、それまで顧みられることのなかった美を次々と見いだした柳宗悦の「直観」を追体験してもらおうという企画。柳宗悦が蒐めた名品が一堂に展観されている。
玄関ホールの階段の左右、そして踊り場には木製の食器棚ふうの展示ケース。素材も用途もさまざまな容器や食器が並んでいる。赤-白-青、丸-四角-半円のような感じで、色とかたちのバランスに気をつかいながら並べていることが分かる。私は民藝館に何度も来ているので、これは唐津、これはたぶんスリップウェア、これは朝鮮の革工芸(名前が出ない)という感じで、カテゴリーが想像できるのだが、いつも作品の横に控えめに置かれている展示札が見えない。
以前、展示札の字を書ける人がいなくなって困っていると聞いたことがあったので、変な心配をしてしまったが、これは意図的なもので、柳宗悦の眼差しを追体験してもらうため、敢えて「説明や解説を省き、時代や産地、分野を問わず」展示するという手法を用いたのだそうだ。面白い。1階玄関ホールには、木造の獅子や木喰仏も出ていた。金工品の展示ケースに出ていた、灯芯を切るための真鍮の鋏には見覚えがあった。
大階段の壁に掲げられていたのは、大好きな『開通褒斜道刻石(かいつうほうやどうこくせき)』の拓本。いま『顔真卿』展にも東博所蔵本が展示されているはずで、同時期に二本まとめて見られる機会はなかなかないと思う。私は展示札がなくても、どうしても記憶にたよって展示を見てしまったが、初見の人はどんな気持ちでこの展示を見たのか、聞いてみたい。
2階の展示室は、少したじろぐほど魅力的だった。一番奥の壁の中央には黒々とした大きな文字。二文字ともつくりが「したごころ(心)」であるのは分かるのだが、いつも読めない…。あとで調べて、梁武事仏碑(梁の武帝が座右の銘として刻んだ石碑)の拓本「懲忿」であることを思い出した。その左右に確か火除けのの革羽織。まわりの展示ケースの取り合わせも実によい。キリスト教の木版画とうんすんカルタと大津絵の羽子板が並んでいたり。しかしこの部屋、壁際にも展示室の中央にも、あまり見たことのない大きめの立体物がごろごろ置かれていて、楽しかった。木造の馬とか鶴がいたと思う。底のすぼまった三角錐の編み籠は、中に重りを入れることできちんと立っていた。
最も私の注意を引いたのは、入って右手の壁に掛けてあった六曲一隻の『曽我物語図屏風』。何度か見ているらしいのだが、あまり記憶になくて、今回初めてじっくり見た(実は「曽我物語」を読んでいないので、描かれている内容がよく分からないのだ)。よく見ると同じ柄の着物を着た人物が何人もいる。異時同図法で同じ人物を描いているらしい。富士山の山中にキツネがたくさんいるのが不思議。なお、気になった「幕紋」については、以下のブログ記事が詳しかったので参考に挙げておく。→《曽我物語屏風》@日本民芸館(Art & Bell by Tora)
このほか、大階段の裏側は仮面の特集になっていて、民博っぽい雰囲気だった。絵画を特集した部屋には『つきしま(築島物語絵巻)』も出ていた。『浦島絵巻』がないのは残念だなあ。あと根来の瓶子はいいなあ、やっぱり。展示品をどれかひとつ貰えるなら、この根来を持って帰りたい。ポスターになっている上半身だけの岩偶(土偶ではない)もさりげなく出ていた。座ってはいけない展示品のウィンザーチェアが、中国の真鍮製のストーブと取り合わせて展示室の中央に出ていたのも面白かった。
併設展は「朝鮮半島の陶磁器」「朝鮮時代の文房具」と「工芸作家の仕事」シリーズ。これらには、いつもの黒地に朱書の展示札が添えてあった。