前回、新潟県村上市の寝屋漁港を紹介したが、今回は、その近くにある橋を紹介したい。以前から気になっていたものだが、近くに出かけたら立ち寄ろうと決めていた。
橋の名前は「八幡(やわた)橋」、木製の2径間の下路式アーチ橋だ。長さ42.4メートル、幅7メートル(有効幅員)。市道に架かる橋で、2002年(平成14年)に市の単独事業として現在の橋に架け替えられた。床板にプレストレストコンクリート(PC)板、横桁に鋼材を使用しているものの、アーチ部・主桁・吊材・補材を含めて杉の集成材を使用している。
一度姿を消しかけた木製橋だが、日本の林業を見直しの動きや木製材の製造・加工技術の進化向上により、主に公園や観光地での歩道橋、もちろん神社や仏閣の参道などに取り入れられているが、この八幡橋はれっきとした生活道路上の橋であり、もちろん車両の通行も可能な橋なのである。
以前、九州・大分の佐伯市浅海井(あざむい)にある「合掌大橋」という木橋を紹介したことがある(この時は感動ものだった)。群馬・碓氷峠を紹介した時には碓氷湖の「夢のせ橋」に触れたが、いずれも公園内のシンボリックな位置づけの橋である。
日本三大名橋の山口・岩国の「錦帯橋」、静岡の大井川に架かる「蓬莱橋」などは歴史的な橋で有名であるし、木製トラス橋である埼玉・日高市の高麗川にかかる「あいあい橋」(日高市には個性的な橋の宝庫!)、長野県南木曽町の「桃介橋(福沢桃介にちなみ命名)」は吊り橋で全長247メートル。ただ、これらの橋はすべて歩道橋である。
今回の八幡橋は、それほど交通量はないとしても、生活に溶け込み、道路橋としてひっそりと市民を支えている。地味で、あまり脚光を浴びることのない橋であるが、自分はそれが橋の本来の姿であると思っている。その奥ゆかしさと担う役割こそ土木構造物の真価なのである。
地域的な事情というか、これまた生活産業に密着した所以がある。これは橋が架かる村上市山北地域(旧山北町:「さんぽくまち」)は、9割以上の土地が山林。地元の特性や地場産業、特産品を利用し、何とか林業を活性化させたいとの思いが込められている。現にこの地域にある小・中学校、市役所の山北支所は木造でできている(写真上)。
このような地域は、日本の国土の各地にある。しかも古くから林業は日本の建築物を支えてきている中、外材の輸入などにより地域産業として衰退し、少子高齢化、過疎化を生んでいる山間部の小さな村も多い。そんな中で国産材をアピールするための八幡橋の存在意義は大きいのではないだろうか?
八幡橋には、2径間の途中の海側にバルコニーがあって、日本海に沈む夕陽や八幡(はちまん)岩を見ることができる(写真下)。林業の町でありながら、前回紹介した寝屋漁港や笹川流れの海の景色も楽しめる。これまたなかなかない特徴なので、今後のまちづくり・地域おこしの展開が楽しみな「マディソン郡の橋(クリントイーストウッド監督主演映画。ストーリーはフィクションらしいが、木製橋はアイオワ州で実在)」ならぬ「岩船郡の橋」なのである。(「岩船郡」=旧山北町を含む郡名)
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