そんなこんなで、出版社に直接注文をしていた本がようやく手元に届いた。「土木のこころ」という本だ(現代書林、1,750円)。
明治期から近年まで活躍した土木技術者20名を紹介したもので、田村喜子氏が著者である。
新聞社を経て、文筆活動に入る田村氏だが、土木を素材としたノンフィクション作家という位置付けで、日本の土木業界とそこで働く人々の信念や心に感銘し、数々の著書を残すが、その中の名著と言われるのが「土木のこころ」だ。
実はこの本、田村氏が2012年に亡くなり、当時の出版社が廃業していたことで、絶版の状態にあった。
しかし、福島にある建設会社の社長が、一念発起し、数々の出版社や関係者を訪ねて、このたび復刻版として発刊されたものだ。
その社長曰く、「土木の世界で働くには、地域や社会の基盤を作るといった気持ちが必要。天候や災害時の厳しい条件下での作業、しかも長時間対応、工期や高品質は求められるのも当然の中で、使命に向き合うには「こころ」が必要ではないか」と。
この本で紹介されている20名の土木技師についても、単に大事業を成し遂げたというだけではなく、使命感や達成時の気持ちなどに触れ、語った言葉などを紹介しながら、正に「こころ」の部分を紹介しているのである。
紹介された20名の土木技術者のうち、宮本武之輔がいる。以前、大河津分水を紹介したときにも登場した人物(2020年7月29日記事参照)。コンクリートの専門家として、水害により崩落した自在堰の補修工事の責任者だ。
工事中にも水害に見舞われて、現場は濁流にのみ込まれることになるのだが、仮の仕切り堤を切って、下流の現場へ水を引き入れる決断を宮本は迫られた時、「自分が責任を持つ」との断腸の思いで命令を下したというエピソードがある。
起工式で宮本は「補修工事を有終の美で飾るためには、私個人がいかなる艱難辛苦(かんなんしんく)に遭遇しようと厭うものではありません。しかし土木事業は大勢の人間が心と力を結集してはじめて完遂するものであります」と述べたとも紹介されている。強い思いで工事にあたっていたことが伺える。
その「こころ」を何とか紹介していきたいという田村喜子氏の「こころ」、田村氏は積極的に工事現場に出向き、現場で働く人たちと声を交わした。巻末に僅かであるが写真も紹介されている(写真下)。
また、その本を復刻に導いた福島の建設会社の社長の「こころ」にも感動しますよね!あとがきとして「復刊に寄せて」を寄稿している(写真下)。これも社長が21人目の土木屋として魂を感じることのできる内容となっています。(実はこの人知り合いです。)
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