稼プロ!20期生の ながいち! です。
2015年に登録した企業内診断士です。この間、診断士としての活動はほぼなかったので、「診断士資格保有者です」と言った方が正確かもしれません。
7月18日に行われた稼プロ!の第1回は、キャリアビジョンがテーマでした。
稼プロ!の特長は「キャリアビジョン」の明確化がカリキュラムに組まれていることで、私にとって入会動機の一つです。
かなり悩んだ事前準備と、当日の講義&ワークのプロセスは、自らを問う貴重な経験でした。
鴨志田先生は講義の中で、「したいこと」「できること」、そして「期待されていること(求められていること)」の三つの円を描かれ、キャリアビジョン作りにはその重なりを意識していくことが大事、と話されました。
今回のブログでは、診断士の資格保有者から、診断士への一歩を踏み出すに当り、「期待されていること」について、最近感じたことを書いてみたいと思います。
<私の大切な価値観>
稼プロ!の第1回では「私の大切な価値観」と題するワークがありました。30枚の価値観カードの中から5枚のカードを選び、「稼げる!プロコンとして大切にしたいこと」を文書で表現する、というワークです。
私の場合、選んだ5枚のうち、次の2枚が「期待されているもの」に関する価値観でした。
「お客様が喜んでくださることが自分の働きがいになる」
「仕事を通じて社会貢献する」
自分にとって、お客様(中小企業の社長さん)の期待に応えること(貢献)と、社会の期待に応えること(貢献)を両立させることが大事であることを、確認した結果となりました。
<お客様が喜んでくださることが自分の働きがいになる>
診断士の「仕事」としてこのことを感じたのは、この春、初体験した補助金申請です。
実務従事の指導員の先生からのお話で、実務従事の提案内容を実現するための持続化補助金の申請を、お手伝いさせていただく機会がありました。
お手伝いした先は飲食店です。味もよく、食べログの評価も結構高くで、もっと繁盛店になってもよいはず、と感じられる店でした。ただ、財務上は厳しく、暫く法人税を払っていないような会社です。
社長は事業意欲旺盛、従業員とその家族を大切にし、気さくな方で、私もファンになり思い入れをもって申請書作りに取り組むことができました。
補助金申請は、幸いなことに採択となり、社長からも大変喜んでいただきました。実務従事の報告会で、提案について喜んでもらったのとは異なる、充実感を味わうことができました。
診断士は中小企業のドクターだと言われています。「自分は町医者で、しかも漢方医だ」と語る先生もいらっしゃいます。補助金申請の初体験で感じたのは、町医者として企業に寄り添う診断士の、仕事の満足感に近いものだったのかもしれません。
<仕事を通じて社会貢献する>
一方、診断士の「仕事」を通じて、どう社会に貢献していくかに関しては、未だ見えていない状態です。自分のスタンスの取り方をどうしたらよいのか迷いが出てきた、というのが今の想いです。
従来は、「診断士の仕事を通じて出会う一つ一つの中小企業、経営資源の乏しい中小企業に」、「自分の知識やスキルを使って」、「経営の質をあげていただく支援をすること」、「そのための手段として公的な助成を活用していただくよう支援すること」が、そのまま社会への貢献になるものと考えていました。中小企業診断士である以上、「宝である中小企業」を支えることが、そのまま社会貢献なのではないかとイメージしていました。
しかし、これからの日本社会を考えたとき、診断士に期待される役割はそう単純なことではないのでは?ということを、次にご紹介する本から学びました。
<日本社会の未来と中小企業 ~小規模な企業の減少が期待されている~>
デービッド・アトキンソン著「日本企業の勝算 人材確保×生産性×企業成長」(東洋経済新報社)です。この本は、駅前の本屋で新刊として平積みになっていたものを、たまたま手に取り購入しました。アトキンソン氏は、日本在住31年、元ゴールドマン・サックスのアナリスト。現在は文化財補修を手がける小西美術工藝社の社長で、社長業を営む傍ら日本経済に関する数々の著作を執筆しています。
彼の主張の骨格は(このブログに必要な限りで)、次のようなものです。
・日本は人口減少の危機に直面している。少子高齢化が進み、世界でも突出したスピードにより生産年齢人口が減少する。
【生産年齢人口 2015年: 77百万人 2060年:44百万人 → 43%減】
・将来に向け社会保障費を確保するためには、経済規模(GDP)を維持する必要がある。
・人口減少の状況下でGDPを維持するためには、生産性(一人当りGDP、一人当り付加価値額)を上げざるを得ない。
・日本のGDPは世界第3位、国際競争力は第5位。しかし、生産性は先進国の中では最低クラスの第28位。なぜか?
・原因は、非効率な産業構造にある。生産性の高い国々と比較すると、日本は企業数に占める中小企業、特に小規模企業の割合が多すぎる。
【企業数の割合 大企業:0.3% 中堅企業:14.8% 小規模企業:84.9%】
・そして、日本の大企業、中堅企業、小規模企業の間には歴然とした生産性の差がある。
【労働生産性 大企業:826万円 中堅企業:457万円 小規模企業:343万円】
・国際間の比較分析をすると、一国における小規模な企業の割合の大きさと、生産性の低さの間には、高い相関関係が認められる。
・経済学の基本として、企業規模が大きくなれば規模の経済が働き、生産性は高まる。
・日本の問題は、中小企業の大半が成長せずに中小企業のまま留まり、国全体の生産性向上に貢献していないこと。なぜ、中小企業の大半が成長しないのか?
・日本政府の、手厚い中小企業優遇策のせいである。恩恵を享受し続けるために、小規模なままであり続けようとする力が働いている。
・日本経済の進むべき道は中堅企業を育成し、日本全体の生産性を上げることである。
・手厚い中小企業優遇策は、人口増加の局面では雇用の受け皿を作る点で意義があった。しかし、人口減少への転換点に当り、日本の中小企業政策は改めるべきである。
・企業を動かし、小規模企業は中堅企業に集約する方向へ、成長できない小規模企業には退出を迫るような政策を取るべきである。
以上の主張を、豊富なデータを使い、丁寧な論証により、説得力のある議論を展開しているのが、この本です。私は経済の専門家ではないので、この主張が全面的に正しいかどうかは分かりません。ただ、一面の真実を語っているように思います。
<ゲーム・チェンジか?>
日本経済新聞(7月17日付)に、アトキンソン氏の主張の方向へ国の政策も動く、と感じさせるニュースがありました。記事の要旨は次の通りです。
『中小企業減 容認へ転換 政府、社数維持の目標見直し、新陳代謝促し生産性向上』
・政府は、成長戦略の具体策を記す「フォローアップ」という資料の中で、毎年分野別のKPI(成果資料)を示す。
・2019年度の「フォローアップ」では、中小企業政策のKPIとして「開業率が廃業率を上回る状態にし、それぞれ10%(英米レベル)になること」があった。20年度は廃業率に関する表現を削る模様。政府関係者は、これを「事実上、廃業の増加を認める方針への転換だ」と解説した。
実際、中小企業庁のホームページを覗くと、中小企業政策審議会(7月27日)の資料として、新聞記事通りのKPI変更と、新たなKPIとして「中堅企業へ成長する企業数を年400社以上にする」を加えたポンチ絵が貼られていました。
このニュースに反応して、株式会社小宮コンサルタンツのエグゼクティブ・コンサルタントの藤本正雄氏(プロフィールに診断士とは書いていませんでした)が、次のようにご自身のブログの中で述べています。
・「(政策転換により)『企業は存続させるべき』という方針から『企業の存続は是々非々で考えるべき』と前提が変わることになります。前提が変わる=ゲーム・チェンジするのであれば、私たちも新しい前提に沿って動いていかなければなりません。」
診断士として「困っている中小企業に手を差し伸べ支援する」というシンプルなスタンスだけでは、本当の社会貢献と言えない時代に、どうも差し掛かっているようなのです。
<社会貢献=実践の中で社会のデザインに関わっていくこと?>
私は、お客様(中小企業の社長さん)の期待に応えること(貢献)と、社会の期待に応えること(貢献)を両立させたいと考えています。診断士という「仕事」は、お客様のために働く立場にあったとしても、常にありたい社会に向けた社会的要請の中で「仕事」をする人ではないか、という気がしています。実践の中で、社会のデザインに関わっていく士業のイメージです。
稼プロ!で学びながら、この1年をかけて、キャリアビジョンをブラッシュアップしていきます。自分が実際に診断士に成れるかどうかは分かりません。また、成れたとして、どのような診断士に成れるかも今は分かりません。
まず、目の前のお客様(ときに「患者さん」)に対して、一生懸命対処するのが第一でしょう。しかし、同時に社会がどこに向わなければいけないか、を意識していきたいと考えます。
<何を言うか、誰が言うか問題>
以上書いてきたことは、リレーブログ20期生のトップバッター青木洋輔さんの言葉を借りれば「何を言うか、誰が言うか問題」に当たるでしょう。「お前が言ってもなあ」とつまらない顔をされそうです。
また、ビジネスとしての診断士の視点が抜けていますし、コロナ禍で多くの中小企業が厳しい状況に置かれていることへの言及が抜けています。足りない点は、1回目のブログとしてお許しいただけないかと思います。
せっかくの機会ですので、診断士の資格取得者から診断士へ一歩を踏み出すに当たっての「初心」を残させていただきます。
ながいち!