蝶人物見遊山記 第263回
我が国の浮世絵がゴッホに及ぼした 影響を探る展覧会とぞ
広重や英泉がゴッホの造形に影響を与えた それがどうした
「ジャポニスム」なんちゅう言葉は災いだ 君の頭を灰色に汚す
絵というは黙ってみれば分かるもの 妙な知識は鑑賞の妨げ
「巡りゆく日本の夢」なんかどうでもよろし なにも思わず画幅に向え
「美は僕たちに沈黙を強いる」小林秀雄の名言身に沁む
幾たびもまた幾たびもこの青緑 ゴッホの色はあまりにも美し
青緑黄白黒赤茶美しすぎて バックハウス弾くベーゼンドルファーの音色
「アーモンド」*一樹百花斉放なれば三千世界一度に開く
「草むらの中の幹」*がばと身起こし 生への賛歌 歌うこの時
アルルなる六畳一間に盤踞するシングルベッドの独白を聴け
部屋の前ゴッホがキャンバス拡げれば 机が歌い 椅子踊り出す
「オリーブの園」のうちなるオリーブ 天に憧れ 地を這いまわる
「下草とキヅタのある木の幹」よ 画家の心を緑が満たす
友は去り「蝶舞う庭の片隅」に 包帯捲ける絵描きがひとり
サン=レミのサン・ポール・ド・モソル病院に「ヤママユガ」一頭静かに憩う
描きたり 描けど描けど絵は売れず フィンセント斃れテオも斃れる
医師ガッシュの息よりゴッホ作品の大量購入を勧められしがなんで買わなんだ山本發次郎
ダ・ヴィンチも フェルメールもなににせん ゴッホの一枚あらばよし 蝶人