あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

島内景二著「塚本邦雄」を読んで

2017-11-19 11:07:50 | Weblog


照る日曇る日第1005回


偉大な前衛の傍近くで兄事した著者が、膨大な作品のなかから50首を精選し、全霊を込めて解釈解説した「超」の字がつく力作です。

いきなり目が走ったのは、この和洋新旧折衷の歌。つい最近「運慶展」に出品されていた金剛峯寺の「八大童子像」を鑑賞したばかりでしたので。

 サッカーの制吒迦童子火のにほひ矜羯羅童子雪のかをりよ

この人の夢、それはは現実の写生の埒外に新たな現実、新たな美の王国を構築することだったようです。
 突風に生卵割れ、かつてかく撃ち抜かれたる兵士の眼
 錐・蠍・旱・雁・掏摸・檻・囮・森・橇・二人・鎖・百合・塵
 革命歌作詞家に倚凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ

前衛歌人という名にふさわしい前衛的な作品が多いが、万葉古今新古今流の古典的な伝統を踏まえた作品もあります。
 桐に藤いづれむらさきふかければきみに逢ふ日の狩衣は白
 夏死に死に死に死にてをはりの明るまむ青鱚の胎てのひらに透く

業平や三代将軍、菅公への愛
 昔、男ありけり風の中蓼ひとよりもかなしみと契りつ
 右大臣は常に悲しく「眼中の血」の管家「ちしほのまふり」實朝

男の純情
 さらば百合若 驟雨ののちをやすらへる味爽の咽喉ゆふぐれの腋

フランスと数字、時間へのこだわり
 一月十日 藍色に晴れヴェルレーヌの埋葬費用九百フラン

愛と憎悪、自己対象化の徹底
 われがもつとも悪むものわれ、鹽壺の匙があぢさゐ色に腐れる
 にくしみに支へられたるわが生に暗緑の骨の夏薔薇の幹
 馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで人戀はば人あやむるこころ

革命的な、あまりにも革命的な
 炎天ひややかにしづまり終の日はかならず紐育にも❢爆
 おほきみはいかづちのうへわたくしの舌の上には烏賊のしほから

この歌人は、短歌のみならず散文、書簡に至るまで「正字正仮名」で徹したというのですが、さすがです。もし私が文語短歌を採用するなら、鵺のような中途半端を排し、正調塚本流で行きたいものです。

それはともかく、文語一色で「正字正仮名」の歴史的正統を貫いた歌人の最初期と最晩年には口語調が頻出し、魅力的である。そして著者が示唆するように、この古くて新しい塚本口語調こそが、「サラダ短歌」「ニューウエーヴ短歌」「ケータイ短歌」の新潮流の源流となったのではないでしょうか。

 モネの偽「睡蓮」のうしろがぼくんちの後架ですそこをのいてください
 讃岐白峰わが胸中にふぶきおり必殺の和歌みせてやらうか

最後に、わたしのお気に入りの三首を。

 ディヌ・リパッティ紺青の樂句斷つ 死ははじめ空間のさざなみ
 日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも
 枇杷の汁股間にしたたれるものをわれのみは老いざらむ老いざらむ


ああ運慶 おお塚本 君らのそのエランヴィタールよ シュトルムウントドラングよ 蝶人

コメント
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